第六十一話 人殺し
「ガラテヤ!?」
「ガラテヤ様!今のは、ガラテヤ様が……!?」
後衛からファーリちゃんと共に、ガラテヤ様が黄金の髪をなびかせながら現れる。
「ええ。これが私が考えていた秘策兼新技よ。魔力の流れと自分の周りに発生させた突風を使って、ビル風の原理を用いて撃ち出したのよ。魔力はかなり使うけれど、その威力は申し分無かったでしょ?」
「あー、ビル風……小学校で習いましたけど、アレを……」
ビル風。
ビルに当たって吹き下ろした風が、吹いている風に集中して威力が増す現象を利用した風の弾丸ということであろうか。
自身の周囲に吹かせた風と、自らの体内を駆け巡る風の魔力を利用した、複雑な風の巡りを利用した強力な一撃。
レールガンとは少し違うのだろうが、原理はともあれ、よく思いついたものだ。
「ああ……何を言ってるのかサッパリ分からないが、凄さはよく分かったよ」
理解できないのも無理はない。
むしろ、この世界で生まれ育ったハズのマーズさんが、その原理を知っている方が妙というものである。
レールガンどころか、磁気を用いて加速する機構さえも、この世界の住人である以上知らないだろう。
「……やれやれ、僕の仲間を二人も殺ってくれたのは君達かな」
「使い捨てのナナシちゃんは含まれてない辺り、ここら辺のリーダーはマーズさんと戦ったリオとかいう女と、俺と戦ったケイブと……それからお前だと思っていいのか?」
「さあね。でも、僕もリオやケイブと同じ、リーダー格と呼ばれるに相応しい、特殊な強化を施している人間だと思ってもらって構わないよ」
「なるほど、これでお前の尊厳は無視していいと判った訳だ。情報提供ありがとな」
俺は小さな風の刃を生成し、撃ち込む。
それは見事、ケレアの頬へ。
「……何のつもりだい?」
「情報のお礼だよ。捨て子を実験材料にする外道にはちょうど良い」
ケレアが臨戦体勢へ入る前に、俺はナナシちゃんの刀を構え、懐へ潜り込む。
それに合わせて、ボロボロになっているマーズさんをロディアの元まで下がらせ、ガラテヤ様とファーリちゃんも俺のサポートへ回る。
「なっ……!話の途中だぞ……!外道はどっちだ!」
「百パーお前達の方。子供から死の恐怖を無理矢理に奪った上で爆弾まで埋め込むなんて、人間のやることじゃあない。しかも、それを仮にも権力からの解放と自由を求めている奴らがやってるんだからなぁ……あーあ、滑稽滑稽」
「貴様……!あの捨て子達を養っていたのは僕達……」
「その話はケイブから聞いた。捨て子の『一人じゃ満足に生きていけない』って弱みにつけ込んで、兵器として人間以下の扱いをするところがクソ外道だって言ってやった。で、お前はそれ以上のこと言える訳?」
「捨て子を野垂れ死なせるよりかは、生かしている方がマシだろう!『マシ』な選択をしていれば、それは『善』なのだ!少なくとも、あのまま見捨てるよりかは、首輪をつけてでも生かしている方が、プラスなハズだ!」
「自由を失うどころか、機械じゃないけど自爆装置まで付けられて兵器として利用されている子供が?プラス?マジかあ。奴隷以下の扱いに、人間としての尊厳があるとでも言うのかあ」
「……これも、権力からの解放を目指すためには必要なことなのだよ……!」
「子供一人自由にできない奴らが何言ってんだよ。風牙の太刀……【
「【アイスプロテクト】!……ふぅ、話している途中だからといって、油断ならないね」
「そもそも戦いの最中に油断すんなよ、死ぬぞ」
俺は絶え間なく、次の攻撃へ。
「ジィンお兄さん……もしかしなくても怒ってる?」
「ええ。私がサポートしようにも、入り込む余地が無いほどの覇気……何を見たのかは知らないけど、相当なものね。それに、ジィンの装備が変わっているのにも、何か理由が……きゃっ!」
ケレアが生成し発射した氷柱の跳弾。
それをガラテヤ様を巻き込む寸前で、ファーリちゃんが弾き飛ばした。
「ガラテヤお姉さん、少し離れよう」
「ええ。バグラディに捕まった私を助けてくれた時も、あんな感じだったわ。……あの時は意識が朦朧としていて、はっきりとは覚えていないけれど……あの鋭くなった目つきは、確実に憤怒と憎悪の現れよ」
「ん。……ちょっと怖い」
ガラテヤ様とファーリちゃんが岩の後ろまで退いたことを確認し、俺は霊の力を刀に纏わせる準備をしつつ、型を変えて攻撃体勢へ入る。
「ここでお前に良いニュースと悪いニュースがある。良いニュースは、俺の魔力はそこまで多くないから、長期戦には向かないという弱点を教えてやること。で、悪いニュースは……お前はそろそろ信じる神にお祈りでもしとかなくっちゃあいけないってこと」
「わざわざ意味なく弱点を晒した上で、お祈りを勧めるだと?『信奉者たち』でもない僕に?」
「ああ、お祈りをする時間くらいはあるってのは、良いニュースだったっけ」
「……僕のことをナメているのか……?強化人間が、捌くスピードまで視野に入れて戦えるほどの雑兵ではないことは、君も理解しているだろう?その上で、何故そんなハッタリに意味があると思ったのかな?」
「ハッタリじゃあないさ。ただ、俺は我儘なゲス野郎が嫌いってだけだよ。一秒でも早く死んで欲しいと、普通に思うくらいには」
ナナシちゃんの刀を鞘に納め、回避に徹する。
鞘の内では、霊の力が早くも暴れはじめようとしていた。
「尊厳がどうたらと言う割には、死と殺しへの抵抗は無いみたいだね」
「人間として守るべき最低限の尊厳すら守る気の無い奴に、こちらが尊厳を守ってやる義理がどこにあるって?それに、戦いは戦いと割り切ってるからな。極力、殺しは避けるようにしてるんだけど……悪いが、お前はその対象外なんだ」
「人を選別するのか!」
「ケイブから聞いたよ?お前達は子供相手に強化の実験しまくって、ある程度安全性が保障されてから自分達を強化したって。選別してるのはお前らも一緒だろうが」
「……尊い犠牲を無碍にする気は無いよ、少なくとも、僕はね」
「あっそ。でも死んだ後に無碍に扱われなかったからって、犠牲になった子供達が生き返る訳じゃ無いしなあ。……ま、これで『人間の選別』については、お互い人のこと言えないってことだ。……これで、安心してお前を殺せる」
「こ、この……人殺しめ……!」
「俺は昔から人殺しだよ。冥土の土産に聞かせてやると、この世界ではまだ殺してないだけ、だから」
「どういう、意味だ……!」
「知る必要は無い。冥土の土産だって言っただろうに」
「君が風の魔法を使った剣術が得意だということはもう見抜いた!だから食らうと良いさ!この【
「それももう別の人から食らったことある!そして、俺には効かない!」
「なっ……!?」
暴発する限界、最大出力まで、刀には俺の魔力を込め終えた。
時間稼ぎの喋りと回避は、もう終わりである。
「仕舞いにしようか。……奥義……」
「ならば……!【アイスプロテクト・フルオープン】!強化されたことで、より濃縮された魔力で発動させることができるようになった、この分厚い氷壁!武術の達人でも、一撃で破壊できるか怪しいこの壁を!君に壊せるか……」
「……【
魂を振るわせ、相手の魔力や精神ごと全身を削りながら捻じ斬る回転斬り。
バグラディとの戦いでは、学校が絡んでいたため無闇に命を奪う真似はできないと思い、手加減したが……今回は正真正銘、マジのテロリスト鎮圧作戦であり、それも相当なゲス野郎であるが故に、敵の命を気にする必要は無い。
「……へ、ぁぁ……?」
刃は厚さ数十センチメートルはある氷を豆腐のように斬り裂き、そのままケレアの全身を、あっという間に斬り刻む。
「……地獄で待ってろ」
俺はこの瞬間、この世界で初めて、自らの手で人間を手にかけた。
相手の骨格ごと、内臓まで斬るのは久しぶりだ。
不思議と懐かしさを覚えるこの感覚は、仕事だったとはいえ、やはり俺が人殺しであるということを実感させる。
しかし、それでも迷いは無かった。
逮捕されたテロリストが、シャバに戻ったらどうなるか。
彼らと同じような思想を抱きながらも息を潜める団体に、英雄として担ぎ上げられる。
ことフラッグ革命団においては、あまりにもやりすぎたのだ。
故に、これ以上人を殺すよりも先に、ここで斬り捨てるのが正しい判断であったと、俺は自信を持って言える。
少なくとも、現時点でのやらかしだけでも、命を以て精算するには十分値するだろう。
俺は刀の柄を撫で、鞘へ納める。
ひとまず、これでリーダー格は打ち止めだろう。
森の向こうから、誰かがやってくる気配は無い。
決着はついた。
安堵の感情が一気に全身を駆け回り、ようやく怒りと闘争心に燃えた心を落ち着かせてくれる。
しかし、肉体の方はどうもそうはいかないようであった。
やはりこの類の剣術は消耗が激しいらしく、すぐに全身が痺れ、続けて全身を強烈な痛みが襲う。
「ジィン!」
「ジィンお兄さん!」
眉が下がった心配そうな表情を浮かべる二人に覗かれるようにして、俺は仰向けになったまま意識を手放した。
それから、何が起きたかは分からない。
しかし、次に目を覚ました時には。
「……何で、こんな」
両隣に並べられた布団で、血塗れの包帯に巻かれたマーズさんとファーリちゃんが寝かされていた。
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