第15話 初夏の日差し。

 あっという間に春が終わり、初夏の日差しが降り注ぐようになった。

 窓の外から気持ちのいい風が入る。

 風に揺れる緑の葉が、なんだかみててとても爽やかだ。


 体が動かせなかった間もフィリアが甲斐甲斐しくお世話をしてくれたおかげで、わたくしは特に身体を壊すこともなく過ごせていた。


「今朝はとても気持ちのいい日になりそうですよ。お日様も穏やかですし、少し風もありますからお外に出たらきっと気持ちがいいと思いますわ。お嬢様」


 強い言葉は使わない、けれど。

 フィリアもわたくしがこうして篭り切りなのが心配なのだろう。それはよくわかる、わかってるんだけど。

 それでも、重い腰を持ち上げ窓のそばに立ったわたくし。

 若い緑がそよいでいるのを見て、気分が少しよくなった。


「もう、お外に出る方法も、忘れちゃったわ」


 そんなふうに自嘲する。


「何をおっしゃいますか。お嬢様は何もしなくても大丈夫ですよ。ただ私と一緒にゆっくり歩いてくださればいいのです」


 そう言って、右手を伸ばしエスコートの真似事をする。


「ふふ。お庭までエスコートしてくださるのね」


「ええ。お嬢様さえ望んでくださるのなら」


 そんなふうにちょっとだけおどけて見せるフィリア。

 わたくしは、差し出されたフィリアの手にちょこんと左手の指をのせる。

 そのまま踊るように滑り出すフィリアに促されるまま、ロビーまで出ていた。


 まだ、お家の外に出るのは怖い。

 でも、中庭にちょっと出るくらいなら、いいのかな。

 そんなふうに思えるようになったってことは、わたくし、少しは心が癒えてくれているのかな。



 ロビーの奥の扉をあけそこから中庭に出る。

 芝生の上を歩くのがなんだか気持ちがいい。

 緑の匂いを感じる。ああ、土の匂いもする、かな。

 陽の光が温かく、じわっと汗も出て。

 爽やかな風にあたり、すごく涼しく感じて心地よい。

 生きて、いるんだな。この世界は。

 何も止まっちゃいない。

 ううん、止まっちゃってたのはわたくしだけ。

 世界は白黒ではなくて、こんなにも色鮮やかで、優しいんだ。

 そう思えた。



 中庭のチェアに腰掛け、フィリア特製のお茶をいただく。

 フルーツがいっぱいに入ったそのお茶は、甘くてちょっと酸味もあって、すごく美味しかった。


「ありがとう。フィリア」


 きっと、少しだけ笑顔になれていると思う。


「いえ、いえ、私はお嬢様が喜んでくれるのが一番の幸せですから……」


 目元をちょっとこすりながら、フィリアもそう返してくれた。


 ああ。

 わたくしにはこの子がいた。

 フィリアがずっとついててくれた。


 それが、とても嬉しくて。

 心の中が温かくなるのを感じていた。



 そうやってまったりとした時間を過ごしていたとき。

 いきなりのガサガサとした足音。


「お嬢! やっと帰ってこれたよ!」


「マクギリウス!? どうして?」


 満面の笑みで中庭の生垣をぬって現れたマクギリウスの顔を見て。

 わたくしは思わずそう聞き返していた。

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