第14話 【Side】ラインハルト 2。
アリーシアと結婚をしてからも、ラインハルトの生活は特に変わりはしなかった。
父親も母親も、とくに何もすることもなくただただ貴族としての生活を消費するだけ。
自分も、そう。
することと言ったら他の貴族との付き合いだけ。
社交の誘いに応じて数々のパーティーに顔を出して過ごしていた。
通常の貴族であれば伴侶のいる貴族はそういうパーティーには夫婦同伴で参加するものであったけれど、アリーシアは商会の仕事にかかりきりで、自分の横に立とうともしない。
パーティーがあるのだと言っても、
「申し訳ありません、その日は難しいのです」
と能面のような顔をして言うだけ。
初恋の少女だと思うからこそ寄り添っていこうと思っていた。
守ってやらなければと、そう思ったのだ。
しかし。
アリーシアはまるで人形だ。
人間らしい感情など、無いのではないか?
次第にそんなふうに感じるようになっていったラインハルト。
一年が経ち、アリーシアが成人を迎えたあとも彼女と男女の関係になる気になれず。
そこはそれ、どうせこれは貴族同士の政略結婚なのだ、と、割り切るようになっていったのだった。
家業が上手くいっているのは毎日のアリーシアからの報告で把握していた。
アリーシアの元にはエルグランデ公爵家から派遣された優秀な人材もいる。
実務は彼らが執り行っているのだろうとは思うけれどそれでも。そんな人材をとりまとめているその手腕は認めなければならないと思うものの、心の中に彼女に対する嫉妬が生まれ。
いや、アリーシアが祖父ブラウド式の教育を叩き込まれたのだというのは納得はしている。
それこそ祖父の後継者となるべく育てられたのだと、その事は。
そしてそれが孫である自分、トランジッタ侯爵家を継ぐべきラインハルトを補佐するためであったのだということも、理解はしているのだ。
しかし。
なぜ、祖父ブラウドは自分ラインハルトに直接後継者となるべく教育を施してくれなかったのか。
自分にはそんな才能はない、商才はない、そう判断されたと言うことなのか!?
自分の才は、アリーシア以下だと判断されたということなのか!?
そう考えはじめたらもう、止まらなかった。
憤怒、嫉妬、そんな感情がわいてくるのを止めることが、できなかった。
そんな折。
学園の後輩からの誘いで学園の卒業パーティーに顔を出すことになった。
卒業生の身、誘われたと言ってもそんなほいほい行くわけにもいかないと最初は悩んだけれど、アリーシアへの複雑な感情の気を紛らわせる為に参加する事にしたのだった。
それが全ての始まりだった。
そのパーティーにはその春に卒業することになっていたアリーシアの妹マリアーナがいた。
その、朗らかな明るい笑顔。可愛らしい表情。
それは子供の頃に見た初恋の少女の成長した姿である、と、確信した。
ああ。
自分は間違えたのだ。
初恋の少女はマリアーナだったのだ。
そこからだ。
両親と、エルグランデ公爵夫妻まで巻き込んでの離婚劇を計画した。
ラインハルトは最初からマリアーナを愛していた。
アリーシアでは無かったのだ、と。
表向き、アリーシアにも実害のないように気を使い、話も合わせて。
アリーシアが人形で、自分を愛しているわけでは無いということを。
ブラウド商会から解放してやらなければいけないと。
彼女には、自分の意思で好きな人を見つけて貰うこと。
それがアリーシアにとっての幸せなのだ。と。
公爵夫妻にもそう言い含めたのだった。
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