第12話 虚《うつろ》。

 王国の危機を未然に防いだその手腕。民衆が飢餓に苦しむのを良しとせず、全てを掬いあげたノブレス・オブリージュのその精神。

 そんなブラウド様の功績に報いたいとお祖父様は当時の兄王に彼の叙爵を願いでて、ブラウド様ははれて男爵位を授かり貴族となったのだそうだ。

 そうして二人はより一層の交流を深め。

 ブラウド様といえば、貴族となった後も商才を発揮し続け、ブラウド商会を国内でも一二を争う規模にまで大きくしたところで、当時赤貧に喘いでいたトランジッタ侯爵家の令嬢と恋に落ち、その家を助ける形で婿入りしたのち侯爵位を譲り受けたのだった。


「あいつは金で爵位を買ったのだ」


 そんな心無い噂が流れる中。

 歯がゆい思いをしていたというお祖父様。

 それでも彼の商才に憧れ、彼のようになりたい、と。

 そう願ったお祖父様。

 ご自分でも商売の真似事を始めたのだという。


 もともとエルグランデ家が拝領したこの領地シャトルブルクは、これといった産業もなく外に売れるような特産物もない、そんな田舎の町だった。

 王家と言っても財産が豊富にあるわけではない。

 特に、ここ数代の間は子にも恵まれ多くの王族が臣籍降下を余儀なくされた結果、赤貧にあえぐ元王族も珍しくなく。

 エルグランデ公爵家とて例外ではなく、冷害の後、その損害を立て直す事がなかなかできないまま財政はどんどん悪化して。


 もはやあとはこれに賭けるしかない、と投資した事業に失敗し破綻しかけた時にブラウド様が手を差し伸べて下さったのだと。そうくしゃくしゃの顔でおっしゃっていたお祖父様。

「お前は両家の架け橋になるのだ」と。

「ブラウドの恩に報いるのだ」と。

 今思えばあれは呪いの言葉だった。

 わたくしの心の中に、楔となって残っていたのだな、と。

 そうおもう。


 だけれど。


 わたくしにはそれしか無かった。

 このお祖父様の言葉しか、無かったのだ。


 こうして離縁されてしまったわたくしなんか、ただのうつろだ。何も残っていない、空っぽな存在なのだと。

 そう思うとひたすらに悲しくて、起き上がることもできなかった。

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