第11話 お祖父様とブラウド様。
領地のお屋敷にはまだわたくしが幼い頃にあてがわれていたお部屋があった。
お祖父様の顔を見て思わず涙が溢れ。
「不甲斐なくて申し訳ありません……」
と、泣きながら謝った。
そしたらお祖父様、なんて言ったらいいかわかんないようなくしゃっとした表情になって。
「そうか。すまなかったなアリーシア。よく頑張ったな」
と、おっしゃってくださった。
わたくしのことをかわいそうって、不憫だって思って下さった?
それとも……。
「お前がブラウド商会を立て直したのだ。それは誇っていい。おかげでわしはブラウドの元に笑顔で逝くことができる。本当に、お前には感謝しているよ」
そう続けて。
なんだか泣き出しそうなお顔にも見える。
でも。
きっと、わたくしのやってきたことは報われたのだと。
少なくともお祖父様の心残りを晴らすことができたのだと、そう思うと心の中のわだかまりが少しだけ解けていくような。
お祖父様は、まだ泣いているわたくしの頭を優しく撫でてくれた。
この時のお爺さまのお顔、わたくしは一生忘れることができないだろう。
やさしくて、悲しくて、そして何処か遠くを見るようなあのお顔。
もうどれだけ謝っても謝り足りないと思っていたわたくしは、お爺さまのその言葉に救われた。
そのおかげ、かな。
その夜は深い眠りにつけた。
悲しかったこと辛かったこと、みんなその夜だけは忘れて。
嫌な夢も見ることなく、朝までゆっくりと寝られたのだった。
それでも。
その後、何日も何日もベッドの中から出られなかったわたくし。
動こうと思っても体が思うように動かない。
自分は一体なんのために生きてきたんだろう。
そう考えると悲しくなって。
よけいに何も考えたくなくなってしまう。
幼い頃からお祖父様に、「お前はトランジッタ家に嫁ぐのだよ」と、そう言い聞かされてきた。
病弱なお母様は寝たきりでお部屋にこもっていた印象しかなく、お父様はあまりわたくしのことなんか気にもしていない、そんな気がしていた。
ラインハルト様に嫁ぐその日まで、わたくしを育て教育してくださったのはここにいるお祖父様だったから。
幼い頃によく聞かされたのは、お祖父様とブラウド様のお若い頃のお話。
ご一緒に冒険をしただの、ご一緒にお酒を飲み交わしただの、そんなお話が多い中、一番印象に残っているのは破綻しかけた公爵家を助けてくれたのがブラウド様だったってお話。
それ以来、お祖父様はブラウド様に恩を感じ、自分たちの子供世代を結婚させ親族になろうとそう誓ったのだとか。
もともと、ブラウド様は平民の商人であったのだという。
この魔力重視の貴族社会の中で、稀な、魔力持ちの平民で。
それも、魔力に頼らずとも彼には天才的な商才があったのだと、お祖父様はおっしゃって。
気があって、仲良くなって、親友になって。
そんなことをつらつらと話していた気がする。
ある年、夏に十分な太陽の光が降り注ぐことなく、穀物の生産高が思わしくなかったことがあった。
国全体を襲った食糧不足にお祖父様たちが奔走する中、他の国から食糧を輸入しようとしても諸外国は足元を見て高値をふっかけてきたそうだ。
そんな中。
ブラウド商会は独自のルートを開発し、大量の小麦を確保し国内に流通させたのだという。
それも、値上げをすることなく当時の通常の価格で。
おまけに、それによって得た利益を惜しげなく被害のあった地方にばら撒いたのだとか。
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