ストーリー:28 化かせ! 特異点の巫女!・1
9月某日。
茜に染まる五樹の山々を遠景に見やる、いつもの二間続きの畳部屋。
AYAKASHI本舗、設立のきっかけ。
ナツの本当の目的が判明し、やいのやいのとやりあったあと。
「あいっ、じゃーナツのバカに無駄に時間食っちまったが、本題入るぞー」
シタンッ、とジロウがテーブルの上で跳ねてそう告げて。
「おう!」
「はい!」
「うむ!」
妖怪たちはやる気十分といった様子で頷けば。
「無駄に時間食った……」
その横で、一世一代の罪の告白を無駄扱いされたナツが黄昏れていた。
「無駄なもんは無駄だろうが。気合い入れろナツ!」
「ジロウ~」
「こっちはお前からどんな無茶な理由が飛び出すかワクワクしてたってのに、まさかあんなガキみてぇな家族に会いたいよ~ってのが理由だったなんて、くっだらねぇにもほどがあんだろ。甘えんな」
「うぐっ」
容赦のない言葉に打ち据えられて、ナツがテーブルに突っ伏す。
そこにそっと寄り添って、オキナが背中を優しくさすり。
「いいんじゃよ、ナツ。“19になりました”とドヤ顔しておったおヌシの顔は、見物じゃったからな」
「ごふぅっ!!」
トドメを刺した。
「せめて八幡様から密命を受けてたとか邪悪なオロチの復活を阻止するためとか言ってみせろよなぁ、ったく」
「いやいや見事なものじゃ。ワシらはすっかり大した理由があるものと、化かされておったのじゃからのぅ。ほっほっほ」
「うぅ……」
「大丈夫か、ナツ? チッ、あいつらひでぇことを」
「ナツが本音を教えてくれて、ボクとっても嬉しかったよ」
擦りに擦られぐったりするナツに、ミオとワビウケがそっと寄り添って。
「ナツ。あれでもあいつらはちゃんとナツのことを……」
「大丈夫。わかってる」
フォローに入った言葉を止めて。
「わかってるよ。ちゃんと」
顔を上げたナツは、笑顔を見せた。
「おう。とっとと始めるぞ、ナツ」
「ヤマメと再会したいのであれば、V箱を盛り上げ妖怪を元気にすることは急務じゃろう? であれば、その妨げになるあの巫女は、どうにかせねばなるまい?」
「だな。オキナの言う通りだ」
体を起こし、目元を拭って。
「俺はハルに、妖怪がいるかもしれないって思えるようになって欲しい。みんなのことを信じないまでも、いないだなんて否定しないくらいにはなって欲しい。それはみんながこれ以上力を失わないようにしたいってのと、俺が、俺の友人が、俺の大好きなものを頭ごなしに否定するのをいい加減何とかしたいからだ」
大義と、想いと、両方を掲げて。
「そのためにはみんなの助けがいる。手を、知恵を貸して欲しい」
すべてを打ち明け解き放たれた、本当の素直な心で、請い願う。
「AYAKASHI本舗のこれからのために、ハルを攻略しよう!」
「「おう!」」
ひとつ、心の枷を解き放ち。
ほんの少しだけ大人になったナツとみんなが、再び共に歩き出す。
「そんじゃナツ、まずは俺とミオで気づいたことを報告するぜ」
「お願い」
そこには前よりもより強い繋がりが、確かに生まれているようだった。
※ ※ ※
「……観測……未証明は必ずしも……」
ジロウとミオが見つけたハルの急所。
「ふむ、ふむ。なるほど。科学的って正しくはそういうニュアンスなんだな。それは確かに、ハルが使ってる意味とは違ってる」
その説明を受けたナツは、なるほど確かにと納得する。
「俺たちはここまで調べた!」
「だからあとはナツ! アタシたちの分まで考えてくれ!」
「ありがとう! ちょっと考えてみる」
「見事な役割分担じゃな」
「ですね」
二人からバトンを受け取り、ナツによる頭脳労働のターン。
そして今日は軽くなった心の分、ナツの頭は冴え渡っている。
「……これは、どうだ?」
何事か閃いて、ナツはまずオキナに確認をとる。
「ほう、なるほど。どうじゃろうな」
「まずは実験してみる必要があるかな?」
「そうじゃな。まずは2、3回。確かめてからの方が確実じゃろうて」
「わかった」
次へ進めるお墨付きをもらって、今度は自信をもって、みんなに相談。
その第一声は――。
「――ちょっと思いついたんだけどさ。みんなでハルのこと……化かしてみない?」
彼らの興味を抜群に惹く言葉で紡がれるのだった。
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