ストーリー:21 根も葉もある噂話


 とあるサイトの、掲示板。


『なぁ、AYAKASHI本舗ってどうよ?』


 不意に投げられた問い。


『割と新参にしては頑張ってる方じゃね?』

『圧倒的宣伝力不足。ありゃ長続きしないわ』

『身内ネタきつ過ぎてオレはダメだった』

『私はむしろあの空気感好き。めっちゃファミリーって感じで』

『オキナはヤバい』

『オキナはヤバい』

『ワビスケキュンッ!』

『ちゃん様が王道過ぎるくらい王道なのが逆に浮いてる』

『ジロウはケモノV界に舞い降りた……舞い降りた……なんだろうねアレ』

『マズルと声がセクシーなのはわかる』


 意外にも多くの者から返ってくる反応は。


『なんだ、ここの住人結構見てんのな』


 賑やかな語り場を彩る花の一つとして、そのV箱が受け入れられていた証だった。


『雑な寄せ集めのV箱と違って、規模小さい割に余裕があるんだよな』

『わかる。数出すために媚び媚びしてくる感じがあんまないよね』

『世界観がなんだかんだ統一されてるのもデカい』

『妖怪モノって定期的に流行るよね。日本人好き過ぎだろ、妖怪』


 口々に語らうそのレスは、概ね明るく。


『このまま細々続いてくれたらいいよなぁ』

『俺はもっとビッグになって欲しい』

『やだやだやだ! ワビスケキュンはお姉さんのなの! 大きくならないで!』

『立派な男を目指す本人が聞いたらどう思うかな、その発言』


 少しずつ、彼らのことを理解している者たちが増えていることを、如実に示していた。



『ってか、AYAKASHI本舗といえば……ナツさんでしょ』

『ナツさん(スタッフ)な』

『めっちゃ裏方頑張ってる上に、配信者全員からイジられるポジション』

『トリックスで最初名前伏せてたのに今じゃもう普通にナツって名乗ってんの草』


 それと同時に語られる、彼らを支える裏方のこと。


『なんか噂じゃ、あの配信全部、あの人がやってんじゃねってのがあるのよな』

『マ?』

『ほら、配信者たちの配信時間被ってないし?』

『コラボみたいなやり取りも全部自分でやってんの!? うっそだー!』

『いやぁ、なんかやろうと思えばやれるとか聞くぜ』

『どんだけ才能がある暇人なんだよ。いや、ここまで来たら超人か?』

『でもだったら世界観の統一っぷりとか納得できる面もあるよなぁ……』


 それはただの、根も葉もない噂話。

 しかし不思議と、聞く人によって印象が大きく変わる、そんな噂話だった。


『もしそうだとしたら、あんま頑張りすぎて倒れたりしてもらいたくねぇなぁ』

『わかる。せっかくいい夢見せてもらってんだし、寝覚め悪い結果は嫌だべ』

『いやいや、ありえねぇって』


 そのやり取りは、いつものように折り重なる言葉の波に乗って消えていく。


 彼らにとってはなんてことのない日常の、ほんの一幕の出来事だった。


 しかし。



「……いけない」


 スマホ画面を覗き込み、不安そうな声で独り言ちる娘が一人。


「このままじゃ、ナツが倒れちゃう!」


 悲壮感すら漂うその声は。


 意外にも、ナツたちからそう遠くない場所で響いていた。



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