ストーリー:13 初配信を終えて
AYAKASHI本舗の初配信を終えた、その日の晩。
ナツの家は、妖怪たちの宴会場へと変わっていた。
「うぇーい! 酒だ! もっと酒持ってこーい!」
「おつまみも頼むぞい」
「あははは! たーのしー!」
ジロウらAYAKASHI本舗の面々に限らず、木っ端妖怪たちも交じっての祝勝会。
居酒屋“小雪”から続々と届けられる、隈本のお酒や五樹の山の幸を楽しんで。
初配信の成功を祝う場は、ただの賑やかしも交えて想像以上の盛り上がりだった。
「んで、最初にナツがしくじりやがってなぁ!」
「ボクのこと弟にしたいって言ってくれるお姉さんたちがいっぱいいて……」
「次の配信用によい酒を仕入れておかねばならんでなぁ」
「知ってるか? あそこのパソコン使えば、一生かけても遊びきれないくらいゲームできるってよ!」
主役は当然、ジロウたち。
それぞれの配信について、それらをまるで、新しい武勇伝であるかの様に語っている。
「はい、ジュース。はい、おつまみ」
「♪」
「ヴォフッ!」
そんな彼らを楽しげに見守りながら、ナツは甲斐甲斐しく妖怪たちの世話を焼いていた。
(みんな、いい顔してるな)
五樹村の妖怪たちを元気にする。
そう彼らに啖呵を切ったナツとしては、目の前の光景はまさに望んだものだった。
Vtuber活動を通じて多くの人の目に触れることで、
今見えるこの景色こそがその成果だと言うには、まだ早い。
けれど。
「少なくとも、手応えはあった」
そう言いながら確かめる、スマホの画面。
液晶にはAYAKASHI本舗のMetubeチャンネルが映し出されている。
「あ、また増えた」
バズった……とまでは言い難い、ゆっくりとした伸び。
(それでも、だ)
今この瞬間にも、チャンネル登録数はポチポチと増えている。
アーカイブもゆっくりと、その再生数を伸ばしている。
(ここから、だ)
今この瞬間にも、誰かが自分たちの動画を見て、自分たちを知ろうとしている。
その内容に、新たに心を動かされている。
何かが変わる、予感がする。
(この調子で
握りしめたスマホを見つめ、ナツは静かに決意を新たにする。
五樹村の妖怪たちを元気にする。
嘘偽りなく掲げた目標の、その先。
(また、会えるはずだから……)
手を伸ばしたい、その背中を想って。
「おーい、ナツぅ!」
「!?」
呼びかけられて、ハッとしたナツが顔を上げる。
「酒、酒なくなっちまったぁ!」
見上げた視線の、その先で。
ジロウが空になった徳利を、尻尾でくるくる回していた。
「冷蔵庫で冷やしてたのあったろ? あれ持ってきてくれー!」
「はーいよ!」
返事して、ナツは追加の酒を取りに行く。
今はまだ、目の前の一つひとつをこなすのに、精いっぱいだから。
「はい、ジロウお待たせ!」
「いやっほぅ、待ってたぜぇ!」
「ワシらにも追加じゃ。クマ焼酎を頼むぞ~」
「はーい!」
「おいこらナツ、世話ばっかやってねぇでアタシらとも遊べよな!」
「お菓子もジュースもあるよ、ナツ」
「うおぁ!?」
ジロウに酒を届けたところで、もみくちゃにされる。
いつの間にやら集まっていた配信者たちが、一斉にナツの奪い合いを始めたのだ。
「ナツ、こっち来い!」
「お酒はまだかの、ナツ」
「こっちでゆっくりしようよ、ナツっ」
「いいや、ゲームするぞ! ナツ!」
「待て待て待て、俺は一人だから! 順番、順番で!!」
右へ左へ引っ張られながら、ナツがもがく。
けれども妖怪たちはみんなして自分ファーストなものだから、抜け出せない。
「お、なんか面白そうなことやってる!」
「混ぜろ混ぜろ!」
「♪」
「ヴォウッ!」
「おぁぁぁぁぁ!? ぶべっ!」
ついには周りの木っ端妖怪たちまで参加して。
もみくちゃナツは、とうとう畳の上に押し潰されてしまった。
「ナツ!」
「ナツよ」
「ナツ~」
「ナツ!」
四方八方から呼びかけられて、ナツが叫ぶ。
「順番! 頼むから順番で! ってか、勘弁してくれ~~~~!!」
「「ハハハハッ!!」」
響いた情けない大声に、笑い声が重なる。
そんな、明るく楽しい雰囲気を。
五樹村の夜を照らす月が、懐かしむように見守っていた。
AYAKASHI本舗の初配信。
“自分の衣を借る妖怪作戦”は。
「ぐぇぇぇ~~~~!」
ひとまず、妖怪たちの
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