第48話 赤い右目はギラギラと輝いていた

アティム大陸・どの国の領土にも属さない無主地・古き魔境の森


門をくぐる抜けシールドの外に出たソラシスとクウ。


(長蛇の列だな…)

辺境都市シールドに来た人たちで門の外は長蛇の列が出来ており、ソラシスの居る場所から、最後尾が見えなかったのだ。


「シールドに入るまで、何時間かかるんだよ…」

思わず声に出たソラシスは、次に来るときの事を考えて渋い顔をしていた。


直ぐにクウに乗り空の散歩を楽しみたかったが、ここでクウのスキルを使用するのは、周りの人たちに迷惑になると思い、仕方なく人気の少ない場所まで歩くことにしたのだ。


(誰かに尾行されてるな…全く鬱陶しいな)

主要な道から外れて人気の少ない場所を歩いているソラシスの後をつけて来る奴等がいたのだ。


「ここら辺なら大丈夫だな。クウ、スキルを使って大きくなってくれ!」

「キュ!」

ソラシスに抱かれていたクウは飛び立ち巨大化したのだ。


バサバサと羽を羽ばたかせて地面に着地するクウの姿は、神秘的で神々しく、とても美しかった。


「クウ!背中に乗せてくれ!」

「キュ!!!」


ソラシスが背中に乗ったのを確認したクウは、翼を上下に羽ばたかせ空に飛びだったのだ。

「相変わらず…空からの風景は絶景だな…」


暫く空の散歩を楽しんだソラシスは…


(商人ギルドで登録も済ませたし…今日から本格的に空飛ぶ魔法商人の始まりだな)


「クウ!このまま真っ直ぐに飛んでくれー!」

「キュ!」


(さてと、果物系を採取したいな…)


クウの背中に乗って、何もすることがないソラシスは、前世で好きだった中島みゆきの銀の龍の背に乗ってを熱唱していた。


「さあ、行こうぜ!銀の龍の背に乗って~その命~貰いに行こう…」

「キュ!」

「どうしたクウ?今いいトコなんだぞー」

「キュ!キュ!」

クウの鳴き声に地上に目線を移したソラシスは…

「ん?冒険者かぁ?」

見たところ三人組のパーティーが盗賊の集団に追われているらしい。

「さて、どうするかな…盗賊かぁ…アジトに金目の物が有りそうだな。クウ、飛ぶスピードを落としてくれ!」

「キュ!」

減速して、ゆっくりと飛ぶクウ。


指輪から火縄銃を取り出して、盗賊に銃口を向けるソラシス。

「何気に本物の盗賊を見るのは初めてだな…盗賊風の奴等は何人か知ってるが…」


(本来なら見えない距離だと思うんだが、めちゃめちゃクリアに見えるよな…)


標準を合わせ次々に引き金を引いていく


(うーん…火の魔弾と違って風の魔弾は…なんか地味だな)


風の魔弾に撃たれた者は、腕がもげる者、両足が吹き飛ぶ者、無数の切り傷で出血する者と様々なようだ。


「風の魔弾は地味だが、グロいな…」

ソラシスは手を止めずに引き金を引き続けた。


結果30人ほどの盗賊で無事な者は、一人もいなかった。

既に半数が死亡していたのだ。残りの者も地べたに倒れ苦しんでいた。

(馬には悪いことをしたな…成仏してくれ)


「クウ!取り敢えず、冒険者の方に行ってくれ」

「キュ!」



地上の冒険者たちは…

「はぁはぁはぁ…もう走れない…」

「ばか!頑張って走りなさい」

「そうよ…スー頑張って走りなさい!」

必死になって走る三人の冒険者たちは、盗賊に追われていた。


既に馬は力尽き、やむなく乗り捨てたのだ。


「だから言ったじゃない…この依頼…はぁはぁ…おかしいって」

「…はぁはぁ…ソフィーそんなこと今、言っても仕方ないでしょ?」

「もう…ダメ…シス姉、ソフィ姉…私を置いて逃げて…」

「頑張りなさいー」

「そうよー捕まったら、私たち女に待ってるのは…地獄よ…」


万が一に備えて用意していた、気付けのポーションも使い果たしてしまった。


森や茂みに隠れ隠れ移動をしていたが、ついに盗賊に発見されたのだ。


盗賊に追われ二日、必死になって逃げている三人は、もう限界だった。


盗賊は馬に乗っている…もう駄目だとシスティーンは覚悟した。


最後に戦い出来るだけ道連れにしてやろうと足を止め後ろを振り返った時だった。


「ウソ!?」

その言葉しか出なかったのだ。


他の二人も足を止めて呆然と後ろを見ていた。


三人が固まるのも無理はない…


彼女たちの目の前では、次々に盗賊たちの体の一部が吹き飛んでいるのだから。


「シス姉、ソフィ姉、いったい…何が起きてるの?」

「分からないわよ…シスは何か知ってる?」

「私も…初めて見たわよ…」

呆然と目の前の惨劇を見ている彼女たち。


最初に気が付いたのは、スカーレットだった。

「え!?」

「どうしたの…スカーレット?」

地べたにへたり込むスカーレットを心配して声をかけたシスティーン。

「シス姉、ソフィ姉…アレ見て…」

スカーレットは…上空を見上げたまま固まっている。


ソフィアもシスティーンもスカーレットが見ている方を凝視した。

「うそ!?あれ…ドラゴンじゃない?」

驚きの声を上げたソフィア。

「ドラゴン…」

固まるシスティーン。



「クウ!あの三人組の少し離れた場所に降りてくれー!」

「キュ!」

地上で固まる冒険者たちから、少し離れた場所にクウは降り立った。


「クウ!少しここで待っててくれ」

「キュ!」


クウの背中から降りたソラシスは、ゆっくりと冒険者たちに近づいて行き…

「やーあ!初めまして空飛ぶ魔法商人兼冒険者のソラシスです。盗賊に追われていて危なそうだったので、空から援護しました」


・・・・・・・・・・。


(おいおいおい…フレンドリーに挨拶したんだから、何か反応してよ…)

固まる女冒険者を見つめるソラシスは…

(なるほど…クウを見て固まっているのね)

「クウ!スキルを解除して、こっちに来てくれー!」

「キュ!」

スキルを解除して元のサイズに戻ったクウは、ソラシスの横に降り立ったのだ。


「え!ウソ…小さくなった…」

スカーレットの声に、我に返ったシスティーンとソフィアは、目の前の白髪の青年に慌ててお礼と挨拶をしたのだった。


「なるほど…大変だったんだね。取り敢えず、倒れてる盗賊の始末とアジトの場所を聞いてくるんで、ここで休憩しててよ」


ソラシスは、三人に屋台で購入した、食べ物と果物を渡した。

「あの…ソラシスさん。いいんですか?」

代表してシスティーンが聞いてくる。

「ああ、気にしなくていいよ。それ食べながら待っててよ…クウ、彼女たちの護衛を任せたよ!」

「キュ!」

任せろと応じるクウ。


ソラシスは、倒れている盗賊たちに近づいて行き…

(まだ生きてるのが五人…いや、四人か…今、一人死んだな)


比較的無事そうな感じの奴に近づいて…

「おい!お前らのアジトは何処にある?正直に言えば助けてやるぞ」

「うるせぇ!お前の仕業かぁー!俺たちに手を出してただで済むと思うなよ!!!」

スキンヘッドの盗賊が唾を飛ばしながら大声で叫んだ。

「そうか、ならお前は不要だな」


指輪から取り出した火縄銃を構え火の魔弾を迷わずに男の額に撃ち込んだ。

撃ち込まれた魔弾から火の柱が出現してスキンヘッドの男は、塵一つ残さず消滅したのだ。その光景を見ていた周りの生き残りは、恐怖で皆、失禁してしまったのだ。


「さてと…次」

その言葉を聞いた盗賊はソラシスから逃げようと試みるも、足を撃ち抜かれ、その場に倒れ悲鳴を上げている。


倒れている盗賊に近づいて行くソラシス。

「全て話せば殺さずに助けるが?」

生き残りの盗賊にやさしく話しかけるが、盗賊たちは仲間意識が高いのか全員無言だった。


ソラシスは、生き残りの身動きが取れない盗賊を一旦無視して、既に死んでいる盗賊の武器と所持品を回収して行った。


回収したアイテムの中に縄のロープが有ったので、そのロープで盗賊を縛り上げ死なない程度に回復の魔法を使用したのだ。


「魔法を使って治療したんだから歩けるだろ?立って歩け!」

彼ら盗賊はソラシスの言葉を無視したのだ。


盗賊たちはロープで数珠つなぎに縛られて逃げられない用になっていた。


ソラシスは、ロープを手に持ち引っ張りながらクウと女冒険者の所に戻って行った。


最初はニヤニヤしていた盗賊たちも…引っ張る力が尋常でなくて…

「待ってくれー!停まってくれー!俺たち歩くから歩くから…」


そんな叫び声が聞こえるが、ソラシスは完全に無視をしていた。


彼ら盗賊たちは、引きずられて全身血だらけになっていた。


ソラシスの後ろからは…盗賊の叫び声、泣き声、謝罪する声が聞こえてくるが、全て無視をされ、引きずられていた。


クウの所に戻る頃には、盗賊たちは静かになっていた。


「やあ!待たせて悪かったね」

「いえ、大丈夫です。パン美味しかったです」

代表して答えるシスティーンの言葉に頷く後ろの二人。


彼女たちも肝が据わっているのか、ソラシスの後ろにいる盗賊の姿を見ても動じていなかった。


「さてと…君たちを町まで送り届けるよ。冒険者ギルドにも用事があるんでしょ?」

「本当にいいんですか?その…すいません、私たち金欠でお金をお支払いできません…」

システィーンが申し訳なさそうに話してきた。


「別に大丈夫だよ。君たちの町にも興味があるし」

その言葉を聞いてパッと笑顔になる三人。


「クウ!スキルを使って大きくなってくれ!」

「キュ!」


目の前で巨大化するドラゴンを見て度肝を抜かれる三人と盗賊たち。


ソラシスは、盗賊たちを見ながら…

「何も喋らないのに三人もいらんな…」

その言葉を聞いて震え上がる盗賊たち。

「待ってくれー!何でも話すから…殺さないでくれー!」

ボロボロの姿の盗賊の魂の叫び声だった。

「俺が聞きたい事を全て話せば、生きて町まで運ぼう」

その言葉に安堵の表情を浮かべる三人の生き残りの盗賊。


それから、盗賊たちに尋問した結果アジトの位置が判明した。

システィーンたちの町の近くらしく、町に行く前に襲撃する事を決めたのだった。


ソラシスは、彼女たちから愛称で呼んでと言われので…

「さてと、スー、シス、ソフィ、クウの背中に乗ってくれ」

クウを見て緊張していた三人だが…

「うそ!やわらかいわ」

「モフモフね…」

「気持ちいい~♪」

三人はクウの毛並みを気に入ったみたいだ。


三人がクウの背に乗って…

「あの…その…ソラシスさん…自分ら何処に乗れば…」

一人の盗賊が遠慮がちにソラシスに尋ねてきた。

「ん?お前らロープで縛られてるし危なくて乗れないだろ?」

「ロープを外してくれるんで?それとも解放し…」

盗賊の言葉を遮り…

「アホか!解放なんかしないぞ…安心しろ空の風景は絶景なんだ…楽しんでくれ!」


数珠つなぎのロープをクウに渡したソラシスは…

「クウ!悪いが、このロープを掴んで飛んでくれー!」

「キュ!」

その言葉を聞いた盗賊たちの…顔はあおざめていた。


「わーすごい!」

空の世界を楽しんでいる女冒険者たち。


ソラシスの風の防壁でクウの背中は、とても快適な環境になっていた。


しかし…下の方では、クウにロープを足で捕まれて空中をぶら下がって飛んでいる三人の盗賊は大絶叫を上げていた。


ソラシスは、死なない程度に回復魔法を使い一応の処置はしたのだ。


今、向かっている場所は辺境都市シールドのお隣の領地ペコロスに複数ある町の一つディルの町に向けて飛んでいた。


ディルの町は、シールドの領地のギリギリの場所に国からの要請で作られた町であり、辺境都市シールドに向かう人たちで活気に満ち溢れている。


「凄いわ…こんなに早く着くなんて…」

システィーンがボソッとつぶやいた。


目の前には、まだまだ小さいが町が見えてきたのだ。


「ソラシスさま!」

「どうした?」

「あの…森が盗賊たちが言っていた場所です」

システィーンが盗賊のアジトの位置を教えてくれた。

「なるほど…町からあまり離れてないな」

「ええ、そうね…今回の私たちが受けた依頼は偽物で盗賊に攫われる予定だったみたいだからね…」


システィーンの言葉に横に居る二人も嫌な顔をしていた。

盗賊に尋問して手に入れた情報である。


「なら、攫われ子もいるかな…?」

「ええ、多分…町に居た時にもチラホラそんな話を聞いたわ」

ソフィアとスカーレットも頷いている。

「クウ!上昇してくれ!」

「キュ!」

クウはドンドン上に上昇して行き

「よし!このまま森の上をゆっくり飛んでくれー!」

「キュ!」


ソラシスは、遥か上空から地上を凝視した。


「ん?馬車が走ってるな…」

(道を外れて人気の少ない場所を隠れながら走る馬車か…)


ソラシスが見つけて直ぐに馬車が止まり…中から縛られた女性が三人現れた。


「発見したな」

ソラシスは指輪から火縄銃を取り出して、女性を運んでいる男に銃口を向けたのだ。


その赤い右目はギラギラと輝いていた。




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