流行る病の恋愛代行
蒼瀬矢森(あおせやもり)
プロローグ 逢瀬を演じる私たち
「
「
「あら、そうですか? 私だって好きと何度も口にするのは恥ずかしいのだけれど」
「ではなおさら、言葉にしなくていい。合理的じゃないだろ?」
「そこはほら。お互い恥ずかしいもの同士、足し引きゼロです」
「違うな。互いに恥ずかしい思いをしているんだから二人ともマイナス、だ。 言わないでくれたらそれでいいのだが」
「いいえ。恥ずかしいだけだなんて言ってないもの。そうでしょ?」
堅苦しい和室、甘い菓子と甘ったるい空気で満ちた口を二人は濃いお茶で喉に流し込む。交わす言葉には互いへの好意があった。
そして二人は互いに頭を抱える。
――なんかやりすぎちゃったんだけど!?
継頼のフリをしている
自分は継頼ではないのだから、無駄な期待をさせるのは絶対によくない。
ただ許嫁同士、ある程度会話を交わして相手と交流をするだけでよかったはずなのに、と。
麻文のふりをしている
それをこんなに仲を深めてしまうなんて。
ただ許嫁との仲を壊さなければいいだけだったのに、と。
二人の間にしばしの沈黙が生まれる。はっとして先に口を開いたのはイヨリだった。
「ときに麻文嬢。うちの従者が同じクラスだったな。何か迷惑をかけてはいないか?」
「え? ええ。イヨリ――くんね!迷惑なんてそんな。そう、ですね。ただのクラスメイトです。それにクラスは違うけれど、その。うちのメイドのほうこそ、何かご迷惑をおかけしていないかしら?」
「ああ、そう……ただの……そっかぁ……ん? え? メイド……メイド? あ、ああ! ア――んん! 確か火焚くんだったかな。失礼、制服姿しか見かけたことがなかったからな。メイドという単語と結びつかなかった。あまり関わりはないが、成績が良いと聞く。と言っても君には及ばないそうだが」
「そっれは手かげ……コホン。えー、そうですね。うん。きっと彼女は敢えて手加減して私を立ててくれているんです。ええ。でも継頼さま、レディを比べるなんていけないことですよ」
「そんな謙遜なんてしないでいいのに……でも比較するような言葉は失言だった。改めるよ」
――その程度の認識か。
互いの印象を聞いて、互いに落ち込む。
好きな人を結びつける手伝いをしてしまっている。相手が結ばれなかったとしても自分と結びつくこともない。
意識の根底にはそれがあった。
二人は互いに見つめ合う。その瞳から目が離せない故に、互いの偽りの仮面に気づかない。
笑顔の裏で彼らは互いにため息をつく。
――どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。
恋の歯車はすでに回り始めていた。
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