変革~運命に抗う勇者~
1章 勇者の誕生~旅立ち
第1話 始まりもまた運命
各々の家で休み、もう外を出歩かないような時間に、
高台で男女が軽い世間話をしていた
「明日になったら15歳か」
「そうだね、何の職業がいい?」
この国では15歳になると教会に行き自分の得意なことを知ることができる
「俺は農家がいいかな、のんびりできそうだから」
決して職業が決まるわけではないが、得意なことを職にする者は多い
「君らしいね・・でも」
「どうかした?」
「いいや、何でもないよ」
この日の月は神秘的に男の子の隣にいる彼女を少し神々しく照らしていた
「ん・・」
朝か
昨日は少し寝るのが遅かったからいつもより日が高いな
「母さんおはよう」
「おはよう、朝ご飯はそこね。
あと、今日は大事な日なんだから顔はしっかり洗って
服装もきれいなものを選ぶのよ」
「わかったよ」
家から出ると幼馴染のヒョウカが出迎えてくれた
「おはようユウキ」
「おはよう」
「緊張してる?」
彼女からは緊張してるように見えてたらしい
「大丈夫だよ・・今は」
「今はって・・ふふ」
「笑わないでくれ、今日で今後の人生が決まるようなものなんだから、緊張するに決まってるだろ」
今日が人生の中の大きな起点になるかもしれないこともあり
朝から体が固くなっていた
「なら景色を見て落ち着いたら?この町はそれだけが取り柄なんだから」
「それはいいすぎだろ」
そういいながらもあたりを見渡す
小さなころからほとんど変わらない豊かな自然と
レンガ積みの家が一つの絵のようにうまく調和している
ところどころにある畑では色鮮やかな野菜がなってるはずだし
町のシンボルである大樹を中心とした公園では、色鮮やかな花が咲く花壇もある。
ほんとに小さなころから変わらず見続けてきた、きれいな街並みだな。
長い間様々なことがあっても全く変わらなかった景色を見たら、
どんな得意なことでも、僕は僕で変わらないという気持ちがわいた
今日は自分の得意なことがわかるだけで自分の人生が決まるわけではない
そういった考えが頭に浮かんだとき、自分はどうなってもやっていけると思えた
「ありがとう 落ち着いたよ」
「どういたしまして」
「じゃあいこうか」
「そうしましょう」
この町の教会には50年以上も前から働いている神父さんがいる
町の人たちは神父さんに「もうすぐ迎えが来そうだ」と
いじるようなことをすることもあるが、
長年いることもあり、何かが起こった時には頼りにする
そんなみんなに愛されているおじいちゃん神父さんが、
今日は教会の前にいてきょろきょろ見渡していた
「おっ、二人一緒に来たのぉ」
僕たちを待っていたようだけど何かあったのかな
「どうしたんですか?」
「15歳になって自分の得意なことを知ることができる。
そんなめでたい日に出迎えんでどうするんじゃ?」
「そうなのかな」
ちょっと誇らしそうに言われても・・
と思うことしかできない
「二人とも来たことだし早速やるかの」
その言葉を聞き僕とヒョウカはうなづく
そんな僕たちを見た神父さんは満足そうな顔を作った後教会の中へ入っていった
神父さんの後ろについて教会の中に入ると、煌びやかな装飾が目に入る
普段ついていない照明に灯が入っていることからも
大切な儀式を行うんだ ということを感じられた
「さて、ここらにかけてくれ」
祭壇が一番よく見える長椅子を示しそういった
恐る恐るといったように座っていると
「お二人さんともだいぶ緊張しちょるようじゃが、
緊張して固くなる方が失敗するかもしれんのぉ」
「えっ」
「…」
自分はだいぶ緊張していることはわかっていたが
まさかヒョウカも緊張しているとは、
しかし、失敗してしまうこととかもあるのか
失敗してしまったらどうなるんだろう
「嘘じゃ、失敗することはない」
「えっ」
心を読んだような一言は僕を固めるには十分な衝撃だった
「フォッフォッフォッ
だいぶ緊張がほぐれたかの」
「ほかに方法があったんじゃないですか」
確かに緊張はほぐれて、安心した面もあるけど…
それ以上に心臓とメンタルに悪いんだよ!
「この町で、この儀式を行う者をたくさん見てきたが今までに失敗した者はおらん。
儀式自体も簡単な工程を踏むだけのものじゃからな」
「具体的にどんなことをするの」
「本当に簡単じゃよ、祭壇の目の前に行って神様に対して祈るだけじゃ」
……簡単だ
「それだけで大丈夫なんですか?」
「今までの人もこれで終わると言ったらいいんかの?」
「ちょっと不安はありますが、わかりました」
実際これだけでいいのか不安はあるけどやってみないとわからないしな
「説明も終わったことじゃし、どちらから始めるかの」
「・・・私からやらせてもらいます」
少し行くことを躊躇していたらヒョウカが先にやるようだ
「では、ヒョウカ・ヴァーニャやってみなさい」
「わかりました」
そう言って祭壇前で片膝立ちの状態になり、目を閉じ祈り始めた
何か妙に様になっているように感じるくらいきれいだな
「終わりました」
2,3分程度だろうか思っていたよりも早く終わったな
「無事わかったか」
「【人を導くもの】とわかりました」
「導くもの・・・」
「そうかそうか【人を導くもの】か
初めて聞いたものじゃが、そこから考えるに生かすとするならば
教師になるかシスターになることかのぅ
まぁ当然私が決めることではないが」
ヒョウカは導くものか、何かしっくりくるな。
次は俺の番か…
やっぱり少し緊張するな、もしもうまくいk
「もし、うまくいかなかったり、得意なものが窃盗とかでも大丈夫
私が導いてあげるから」
「ヒョウカ・・・」
先に終わったからってこいつは
「何余裕ぶって言ってるの」
「ふふ」
ほんとに何気軽に言って笑ってんだこいつは…
でも
「ありがとう少しは気が楽になったよ」
「そろそろいいかの」
どうやら二人での会話を聞いて待ってくれていたらしい
「はい」
少し気恥しくなりながら返事をする
「では、ユウキ・ファディオやってみない」
「わかりました」
そう一言答えた俺は
ヒョウカと同じように祭壇の前まで移動し、片膝をついた
そして深く深呼吸をし、目を閉じ神様に対して祈りを捧げた
その刹那自身が、光に包み込まれる感覚に陥った
「っ!!」
驚いて目を開けても
ただそこには普段と少し違うだけの教会が広がっているだけだった
後ろを振り返ってみるとヒョウカは落ち着いていつも通りの様子だったが
神父さんは目を丸くして固まっていた
もしかして失敗したのか?
「これはどうなるんでしょう…
自分からしてみれば光に包まれるだけだったので」
そういうと神父は動き出した
「そうか、ついにこの町から出たか…」
かと思いきや何かをつぶやいている
「神父さん」
「あぁすまん、今から君に伝えなければいけないことがある」
「はい」
そう真剣に言ってくるので自然と背筋が伸びた
「君は得意なことを神様から教えられるのではなく
神様から職業が授けられた」
「え?」
混乱している俺を置いて神父は話を続ける
「君は勇者に選ばれた」
この時の俺はまだ知らないが
地獄への片道切符を押し付けられた瞬間だった
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