【1000pv突破感謝!】生意気な後輩をデレデレになるまで甘やかしてみた

マホロバ

第1話『生意気で可愛い後輩』

 桜の木から花が散り始めた5月、俺はいつも通り下校の準備をしていた。


 俺──河郷かごう 凌我りょうがは高校生活2度目の春を迎え、帰宅部生活を謳歌していた。

 陽キャで華々しい高校生活とは程遠いが、かと言って日陰に追いやられてる訳でもない。

 可もなく不可もなく、普通の男子高校生としての日々を送っている。


 そんな俺には一つだけ解決できない悩みがあった。

 それは──


「センパーイ!可愛い後輩の彩芽あやめちゃんが来たッスよー!一緒に帰りましょーよー!」


 ──生意気な後輩に妙に懐かれているということだ。


「やかましいぞ彩芽!騒ぐんじゃねぇ!!」


 コイツは犬守いぬもり 彩芽あやめ。今年の春に入学してきた俺の後輩だ。

 俺と彩芽が出会ったのは、コイツの入学式の日。

 校内で迷子になっていた彩芽に声を掛けてしまったのが始まりだった。

 校舎の隅でプルプル震える彩芽の手を取り、俺は校内の案内をした。

 それから数ヶ月後の現在、俺に懐いた彩芽は生意気な本性を露わにするようになっていた。


「何言ってんスか先輩!こんな可愛い後輩がわざわざ会いに来てんスよ?喜ばなきゃ損ッス!」

「自分で可愛いとか言う奴を喜ぶとでも?」


 確かに彩芽の顔だけは(ココ重要)レベルが高い。

 やや跳ねたショートヘアーにパッチリとした両目。よく開く口からはチャームポイントな八重歯が時折顔を覗かせる。

 小さめな体格と合わさって、見た人は小動物のような印象を抱くだろう。


 まぁ中身もイタズラ好きな子犬と大差無いんだけどな。キャンキャンうるさいし。


「またまた先輩はツンデレなんスから〜♪ホントは私でイケナイ妄想しちゃってるんでしょ?」

「仮にしてるって言ったらどうする?」

「童貞乙って煽るッス!」

「このクソガキ!」

「も・し・か・し・て…先輩…ホントに妄想してたッスか!?」

「する訳ねぇだろうが!お前みたいな貧相なガキに興味ねぇわ!!」


 生意気に笑う彩芽と並んで、俺は帰路に着く。

 なんだかんだ言って、彩芽が居ると賑やかで楽しい。去年までは無かった楽しさだ。

 ただやっぱり後輩に煽られるのはどうにも落ち着かない。先輩のしての威厳とかは気にしないんだが、単純にムカつくのだ。


「あ、そうだ!今日先輩の家に行っていいッスか?」

「急だな!ダメに決まってんだろ」

「えーっ、良いじゃないッスか!ちゃんと夜までには帰りますから!」

「そう言ってこの前俺のベッドを独占した奴が居た気がするな」

「誰ッスかそれ!?まさか他の女じゃ…!」

「お前だよ!!」


 知ってたッス〜♪と言わんばかりに彩芽がニヤニヤと笑っている。俺と交流のある異性なんか自分しか居ないと本気で思ってる顔だ。

 完全に俺の事おちょくって楽しんでやがる。舐められたもんだな…


「じゃあ俺は本屋に行く用事があるから」

「あ、私も着いて行くッス!」

「……店の中では騒ぐなよ」

「はーい♪」


 断ったところでどうせ勝手に着いてくるのだろう。俺は諦めて彩芽と一緒に本屋へと入った。

 高校から俺の家までの間にある、小さな本屋だ。

 今日は好きな漫画の最新刊が発売してるし、それを買って帰ろう。


 そう思い店内を徘徊していたところ、ふと俺の目に1冊の啓発本が飛び込んできた。


「〈歳下との上手い付き合い方〉…?」


 恐らく職場の人間関係に困っている人向けなのだろう。内容的には上司から部下へと向けた声掛けの指南となっていた。


「俺に関係ねぇな。……待てよ?」


 1度棚に戻しかけた本をもう一度立ち読みしてみる。

 俺が開いたページには題目として〈生意気な歳下との付き合い方〉と書かれていた。


「ふむふむ…なるほどな…」


 日々の声掛けからさり気ない仕草に至るまで、この本にはかなり詳しく書き込まれていた。

 そして何よりも目を引かれたのが〈生意気な歳下は甘やかして懐柔するべし〉と見出しが入った部分だ。


「これを実践すれば…もしかしたら…!」

「何読んでんスか先輩?」

「うわっ!急に背後から声掛けんなよ…」

「ビビりすぎッスよ先輩」


 背後には彩芽の憎たらしいニヤケ面が見える。

 何かと俺をバカにして喜ぶ美少女…なるほど、確かにコイツは格好の的だな。

 俺は小さな決意を胸に、目的の漫画と〈歳下との上手い付き合い方〉をレジへと持って行った。




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〖あとがき〗

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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