第45話 学校祭(1)
「いいかお前らー。もうすぐ学校祭ということで、うちのクラスでも何か出し物をするぞー」
慌ただしく濃密な週末が終わればまた学校での日々が始まる。
九月も既に下旬ということもあり、十月の目玉である学校祭が差し迫っていた。
「明日の六時間目に諸々全部決めるから考えとけー」
「なあ岬〜! 今年は何にしよ〜か!?」
朝の連絡が終わると健人がやって来た。
「去年はタピオカミルクティーをやったよな。……あれは地獄だったな」
「ああ……。あれは二度とやらね〜ぜ……」
タピオカミルクティーは一見良さげに聞こえるだろう。だがあれは延々と調理室でタピオカを茹で続ける人間が必要になる。
売り手はまだ楽しいだろうが、何時間も暑い中タピオカを茹でていればもはやカエルの卵にしか見えなくなり気持ち悪くなってくる。
その悲劇の役割を引き受けた俺と健人は深いトラウマを抱えていた。
「まあ面倒なものじゃなけりゃ別に何でもいいんだけどな」
「お前〜そりゃロマンがないだろ〜!」
「ロマンとは?」
「ここは一発、メイドカフェなんてどうだ!?」
なんとも健人の考えそうなことで笑ってしまった。
「でも今、そういうの厳しいんじゃないか?」
「そこはほら、担任がはまやんだしよ〜」
「それは確かにな……」
教室の方々からあれがいいだのこれがいいだのと話す声が聞こえてくる。
その中で俺は危機感を覚えるキーワードが耳に入った。
「チーズハットグ……?」
あれも悲劇だった。隣のコンロで延々とチーズハットグを揚げ続けるクラスがあった。茹でるよりも気を使う揚げ物はとてつもなく面倒だ。
焦げたり生焼けだったり崩れてチーズが燃えかけたり惨状が広がっていたのを思い出す。
「健人。バスケ部全員でメイドカフェに入れよう」
「お!? 急に乗り気だな〜! よっしゃそうするか!」
悲劇を避けるためなら多少汚いこともやろうではないか。どの道バスケ部の連中のノリ的に諸手を挙げて賛成するだろうが。
「ちなみに夜宵はどう?」
「ん……。特に……」
彼女の顔を見て気が付いた。メイドカフェをやるということは、夜宵のメイド姿を見れるということだ。
眠り姫だなんて呼ばれるぐらいの男子人気を誇る夜宵がそんなコスプレをしたら一体どうなってしまうのか!
「健人、今年の売上一位はうちのクラスで確定だ……」
「え? お、おう〜……」
若干の胸のざわめきがなくもないが、ギリギリ自分の欲望が勝った。
「アンタたち、盛り上がっているところ悪いけど、男共は何をするのよ」
各々の欲望を漏らす俺たちを見かねて桜花が口を出してきた。
「そりゃ紅茶とかサンドイッチ作ったりとかよ〜」
「それじゃあまりに負担が違いすぎるわ。そんなんじゃ女子は反対して通らないわよ」
「ふむ……」
男女平等が叫ばれるこのご時世、そういった不平等さがメイドカフェ禁止の動きを招いているのは事実だ。
「アホなアンタたちに私から妙案を授けましょう。──ズバリ、執事カフェもやればいいのよ!」
「ひつじ……? ジンギスカンでもやるのか〜?」
「し・つ・じ! 女子がメイドなら男子は執事をやればいいのよ。そういうコンセプトカフェも増えてきてるわよ」
なんでそんなことを桜花が知っているのか。彼女の趣味が覗いた気がしたが、指摘するのは命に関わるので控える。
「え〜やだよ恥ずかしい〜」
「恥ずかしいのはこっちだって恥ずかしいわよ。そこをお互い様にするから受け入れられるの」
「ん〜……」
正論である。だが健人は口を固く結んで腕を組んだまま上を向いている。
「夜宵ちゃんも岬の執事姿、見たいでしょ?」
「いやおい桜花──」
「見たい……」
「え?」
「岬くんの執事姿……見たい……」
夜宵は真剣な眼差しでそう言った。
「うーん……」
「なんでアンタも渋るのよ。やってあげなさいよ」
「うーん……。まあ、うん……」
「よし! じゃあその妥協案でいきましょう!」
桜花は非常に満足そうにえっへんと胸を反らす。
六時間目、健人と桜花両者の思惑が入り乱れる中、多数決により無事に(?)うちのクラスの出し物はメイドカフェに決定した。
意外にもはまやんはやや難色を示したが、男女両方で過半数を超えていたことで何とか認められた。
「よーし、じゃあ明日の放課後から早速準備を始めるぞー。あんまり遅くならないようになー」
俺はバイトも剣道も調整できるし、夜宵も直近の大会はもうない。むしろ二人とも部活をやっていない分クラスの方に集中できる。
そんな訳で俺たちはこれから学校祭の準備に勤しむこととなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます! タピオカとチーズハットグのくだりは実話です! やめときましょう!
次話2024/01/06 15:30頃更新予定!
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