第28話 暴走(3)
「それじゃーいよいよ来週の月曜から期末テストだー。まー一夜漬けなんて意味ないからちゃんと寝た方がいいってのが俺からのアドバイスだぞー。せいぜい有意義な週末を過ごしてくれー」
「起立。気をつけ──」
あの日から俺と夜宵さんは微妙な距離感の中、あえてそれを意識しないように努めて今まで通り料理教室や図書館での勉強会をして過ごした。
「終わった〜! 俺はもう終わりだ岬ぃ!」
「何言ってるんだ、まだテストは始まってもないぞ」
「始まる前から終わってんだよ〜! オワオワリなんだよ〜!」
健人は絶望の表情で頭を抱えている。
「テストが終われば後はテスト返しの一週間で夏休みでしょ? もうちょっとだけ頑張んなさいよ」
「それだけが唯一の希望なんだ〜……」
健人はガクっとその場で項垂れた。
まあほっといて大丈夫だろう。こいつの世話は桜花に任せたらいい。
「じゃあ明日ね夜宵さん」
「ん……ばいばい……」
テスト直前ということで、図書館での勉強会は土曜日の午前で最後にすることとなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──ふぅ……。もうお昼になるね」
「ん……、うん……」
「これだけできるようになれば、赤点は回避できると思うよ」
授業を聞いていないから全然分からないだけで、夜宵さんの地頭はそこまで悪くなかった。むしろその持ち前の集中力をゲームから勉強に切り替えた彼女の成長は目覚しいものがあった。
「じゃあ帰ろうか」
「ん……」
俺たちは勉強を切り上げ図書館を出る。
その時、俺は微かな違和感に気がついた。
「あの人……」
いつも自習室で漫画を読んでいた若者。
だいたいいつも同じ時間に利用するので顔は覚えたのだが、彼はこっち方向ではないはずだ。いつも図書館を出てすぐ反対側へ消えていった記憶がある。
「え……?」
「いや、なんでもない。……そうだ、せっかくだし最後に今日俺がお昼を作るよ」
「最後……?」
「ああいや、テスト前最後に、ね?」
「うん……」
俺は悪い予感がしたので昼ご飯の材料を買うと言い訳をして道中のスーパーへ寄ることにした。
しかしどうやら俺の悪い予感は的中したようだ。若者も俺たちの後をつけてスーパーに入ってきた。
「夜宵さん……多分あの人ストーカーだ……」
「え……」
彼女は俺の腕にしがみつく。その体は恐怖で震えていた。
「これを買ってスーパーを出たら、あいつを撒くためにすぐ路地裏に逃げるよ」
「う、うん……」
会計を済ませた俺は、ストーカーが会計をしている間に彼女のの手を引き路地裏へ走って逃げ込んだ。
「はぁ……はぁ……! ごめん岬くん……もう走れない……」
元から運動が苦手な彼女はヒールのあるローファーを履いていた。これ以上彼女を走らせることはできない。
「きっともう大丈──」
後ろを確認すると、ストーカーらしき男の影が見えた。
俺は彼女の口を抑え、抱き抱えるように曲がり角を歩いて曲がった。
「どうしよう……」
彼女は泣きそうな目で俺の胸に顔を埋める。
あの若者は俺よりもガタイがよかった。このまま追いつかれて正面からぶつかれば彼女を守りきる自信はなかった。
「警察しかないか……」
だが現状何も危害を加えられた訳ではない。怪しい男がいる程度では今すぐ現場に急行とはならない可能性が高い。
「父さんに電話してみる」
「う、うん……」
俺はスマホを 取り出し、連絡帳を開く。父さんに電話するなんて何年振りだろう。
父さんは一コール目で出てくれた
「なんだ岬こんな時間に。仕事中には掛けてくるな」
「ごめん父さん! でも緊急事態なんだ……!」
俺は電話口で小声で、だけど緊迫が伝わるような声で通話する。
「……何があった」
その甲斐あってか父さんも真剣な声色に変わった。
「今、前にも話したクラスの女の子と図書館で勉強してたんだ。実はその子はネットでは結構有名なプロゲーマーで……。さっきからずっと図書館から一人の男につけられてる」
「今どこにいる」
「図書館の近くのスーパー裏の路地。……まだあいつがストーカーだって決まった訳じゃない。もし思い過ごしだったらごめん。だけど──」
「すぐに行く。電話は繋いだままにしなさい」
父さんが来てくれる。その安心感はとてつもないものだった。
「行こう夜宵さん、少しでも遠くに──」
「あ……岬く──」
振り返るとそこには、ナイフを持った男が立っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます。
次話2023/12/23 18:00過ぎ公開予定です。
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