第23話 体育祭(5)

「──お、多いなこれは……」


「岬お前諦めんなよ〜……」


「私はもういらないから全部食べなさい」


「……ん……はむ……ほむ……」


 夜宵さんが来てくれてよかった。彼女はしょっちゅう食事を飛ばすので食べる時はよく食べる。

 頬いっぱいに詰め込んでオードブルを食べている姿は、小動物みたいな愛らしさがあった。


「よーし! 食い終わったら最後にバトンパスの最終確認していくぞー! グラウンド集合だー!」




「ふぅ……」


「よ、よく食べたねこの量……」


「ん……美味しかったから……」


「当たり前でしょ? これは二ツ星レストランの──」


「はいはい〜! ほら早くグラウンド行くよ〜!」







 グラウンドへ向かう途中、休憩所付近の人混みに巻き込まれた。


「ん〜? これ個人競技のタイム表じゃねぇか?」


「おお! 勝負の結果が分かるな」


「……私たちの名前は当然ないわね」


「ん……残念賞の一点……」


 俺と健人は張り出された男子ハードル走のタイム表を下からたどっていく。




「──おっ! 俺は十六位〜! 陸上とサッカー部がつえ〜な! 岬お前は〜?」


「ふっふっふ……。残念だったな健人! 俺は十四位だ!」


「はァァァ!? 俺が負けた、だと……?」


 順位的に俺も健人も四点で同じだ。しかし、健人に勝てたということ、そして夜宵さんの前でいい顔できたことは点数には変え難い喜びだった。


「アンタ全部負けてるじゃないの? 私まで情けないわ」


「岬くん……本当に凄いね……!」


「ありがとう夜宵さん! ──まあまあ健人! リレー頑張ろうな」


「うきうきしやがって〜!」


 そんなこともあり、リレー本番もいい気分で迎えられた。







『続きましてクラス対抗リレー、二年生の部です。二年生の皆さんは入場してください』


「さあ気合い入れてくぞー! 円陣するぞ円陣!」


 鼻をふんふん鳴らすはまやんの号令で俺たちは一箇所に集められる。


「よーしお前らー! 絶対勝つぞー!」


「「おお!!!」」




「期待してるぜ〜岬? 俺より足早いみたいだしな〜」


「おいおい、たまたまだって……」


「私きっと抜かされるから……、岬くんお願い……」


「……おう」




『それでは競技を開始します』


 俺たちはそれぞれの待機場所へ別れる。グラウンドに座ると急に緊張してきた。


「位置について……よーい……」


 パァン! というスターターピストルの音に合わせて第一走者が走り出す。




「お〜! 桜花遅いな〜! あんなもんぶら下げてよく走れるぜホントに」


「ははは……」


 健人はこんな時でも相変わらずで全く緊張していないようだった。


 リレーの進行としては、だいたい女子が抜かされ男子で抜き返すというのがひたすら続き、どこのクラスも接戦だった。たまに陸上をやっている女子が男子を抜くなんてことがあると盛り上がる。

 桜花と夜宵さんはしっかり全クラスに抜かれていたが……。




「う〜ん、これは三位で回ってきそうだな〜!」


「頑張れよ、健人!」


「ま〜見てろ!」


 今回健人の横には陸上部がいない。

 バトンを受け取った健人の顔がにやりと笑ったように見えた。


「行けェェ健人!」


「いいぞー小澤! 全員抜け!!!」


 はまやんの応援通り、健人は二組を一位にして次の走者にバトンを繋いだ。


「やるな健人。これはプレッシャーだな……」


 はまやんの細かい采配は分からないが、俺たち足が早い組はなんとなく後ろの方に回されている。俺の後には六人しかいない。だからここで抜かされる訳にはいかないのだ。




 結局俺のところには健人が順位を押し上げたまま、一位でバトンが渡ってくる。しかし右を見れば四組と六組に陸上の短距離をやっている奴が並んでいた。


「一位で繋げよ神楽ー!」


「うす!」


「任せたぜ──」


 野球部の吉田からバトンを受け取った俺は全身全霊の力を振り絞って走り出す。


 四百メートルあるトラックを四分割しているため一人が走るのは百メートルだ。しかし半分の五十メートルほど進んだところで四組に追いつかれたのが分かった。




 とその時、


「──岬くん! 頑張って……!」


 だいぶ前に走り終えた夜宵さんが応援場所に移動していたのだ。いつもは後ろの方で目立たないように過ごしていた彼女が、今日は応援場所の一番前で立ち上がって、精一杯の大声で俺の応援をしてくれている。


「あああァァァ!」


 カーブで内レーンということもあっただろう。だが俺は夜宵さんの応援に力をもらって、ギリギリ一位のまま次へバトンを渡せたのだった。




「よくやった岬ぃ! 短距離やってる四組の藤原に抜かされなかったのはデカすぎる!」


「おう……。はぁ……はぁ……。これ……明日動けないやつだ……」


「ゴールの応援席行くぞ〜!」




 バトンは次々に渡って、遂にアンカーが二人分、最後の二百メートルを走っていた。

 最後は二組、四組、六組がほとんど同じぐらいに競り合っていている。


「行けー!」


「頑張れぇぇぇ!!!」


「うぉぉぉぉ!!!」




 ──パン! パン!


 二回鳴るピストルの音。ゴールの斜め前にある応援席からは同着に見えた。


『結果を発表します! 二年クラス対抗リレー! 六位、一組! 五位、三組! 四位、五組! 三位、六組! そして二位……四組!』


「え……」


「ってことは〜……!?」


『一位! 二組です!』


「よし!」


 俺たちは思わず抱き合った。


「待ちなさいアンタたち! これって……」


 そんな健人と俺を桜花が引き剥がす。




『このまま続けて全ての競技を合わせた総合成績を発表します! 第七十八回体育祭、二年生の部優勝は……二年二組です!』


「よっしゃぁぁぁ〜!!!」


「よくやったぞお前らー!!!」


「やったわねアンタたち!」


「やったね……岬くん……!」


「ああ!」






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2023/12/18 18:00更新予定!

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