第21話 体育祭(3)
来たる六月二十五日。
俺たちは体育の授業内で個人競技、放課後にチーム競技とリレーの練習に打ち込み、万全の状態でこの日を迎えた。
「よっす岬ぃ! あち〜な! でもま、頑張ってこうぜ〜!」
「おはよう健人。……まあ綱引きの全敗だけは避けたいな」
「おい神楽! 始まる前からそんなに弱気でどうする!」
「えっはまやん来るの早……」
「目指せ全戦全勝だー!」
はまやんは二組の色である白色のハチマキを頭に巻き、いつもより随分とスッキリした顔でやってきた。
「来た人から順番にこのハチマキ持ってけー。リレーの前後の人が来ていたらこの予備のバトンで受け渡しのリハしておけー!」
そして遂に体育祭が始まった。
新しいクラスになって初めての学校行事ということもあって、皆浮き足立っているようだった。
始まったはいいが、実際に自分が競技に出る時間というものは割と少ない。ほとんどがテントでの応援である。
特に午前最初の個人競技は数が多い分、委員会や係などがなければ知り合いが出場していなければかなり暇になる。
「今日はかなり暑いけど夜宵さん大丈夫?」
「ん……、割としんどい……」
「無理はしないでね」
家からほとんど出ない彼女にとってはこの暑さはキツいだろう。
「暑すぎる! もっと強く扇ぎなさい健人!」
「うへ〜! 誰か俺にも風を〜!」
テント内はかなりダレているがはまやんは自分のクラスの生徒が出る競技は全てグラウンド内まで行って応援しているようだ。
見るからに体力なさそうなのだが、午後までにぶっ倒れないか心配になる。
『続いて二年生の個人競技です。二年生の皆さんはグラウンド内の各競技集合場所まで移動してください』
「おっ! やっと開放される〜! さ、早く行こうぜ岬!」
「おう。……じゃあ、無理せず頑張ってね」
「ん……岬くんも頑張って……」
「おう。じゃ!」
バラバラになってしまうのは残念だが、そんなもの関係なく全力を尽くすのは当然のことだ。
「よっしゃ岬順位で勝負な〜!」
「お前の相手に陸上部いなかったか?」
「違ぇ〜よ! タイムで出す総合順位だよ!」
「ああね」
一から十位が五点、十一位から二十位が四点……といった具合に点数がつけられる。チーム競技は五十点、リレーは百点だから個人競技の上位の点数も馬鹿にならない。
「んじゃ俺は先に行ってくるぜ! お前には負けないからな〜?」
「おう、頑張れ健人」
運動神経はかなりいい健人ではあったが、やはり陸上部には勝てなかった。それでも野球部、サッカー部が集まる比較的激戦区の中で二位だったのは流石だ。
あれはタイムも中々だろう。俺も負けてられない。
「第七走目! 位置について! よーい──」
スターターピストルの音と共に俺は駆け出す。
「はぁ! はぁ! はぁ……!」
「やるな〜岬!」
同列の中にいた運動部は俺の他に一組のラグビー部だけだったこともあり、俺は危なげもなく一位を取れた。
しかしそれはあくまでも六人の中での話だ。勝負は午後に張り出されるタイム表に書かれた順位である。
『続いて三年生による──』
「よ〜し戻るか〜」
「おう」
テントに戻るとそこには既に競技を終えた女子たちがいた。
「ちょっと健人、なに負けてるのよ」
「違っ! あれはしょうがないんだよ〜!」
「もっと悔しがりなさい」
「ま〜ま〜、タイム表の方見ててよ! 岬には負けてないと思うぜ〜!」
桜花にどつかれる健人は俺をヘッドロックして矛先をずらそうとする。
そんな俺の顔を夜宵さんが覗き込んできた。
「岬くん……一位……凄い……!」
「はは……、ありがとう。でも健人の言う通り勝負はタイムの方だから。……夜宵さんはどうだった?」
「ぶっちぎりの最下位……。でも……ゴールまで走れた……」
「そっか。頑張ったね」
彼女はへへへ……と何故か土まみれの鼻を擦る。
「よーし男子集まれ! 綱引きのリハするぞー!」
「今度は情けない姿を晒さないことね」
「一勝はしてきま〜す! 行くぞ岬」
「おう。──じゃあ」
「ん……今度は最初からちゃんと応援できる……」
桜花ではないが、夜宵さんの前で一年生に負けるという情けない姿は晒せない。
「健人、これキツく縛り直してくれ」
「おっ! お前も気合い入ってんな〜! いいぜ〜」
健人は俺の頭を引きちぎるんじゃないかという力でハチマキを縛った。
「俺のもやってくれ〜」
「おう」
お返しに俺もギチギチに健人のハチマキを縛ってやる。
「いい雰囲気だなー神楽と小澤! ほら急いでリハするぞ! 本番はもうすぐだ!」
「ちょ、待てよはまやん!」
「はは……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話なう2023/12/17 15:00更新予定!
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