第12話 危惧(2)
「──で、城崎がどうしたって?」
「えっと……、夜宵さ──城崎さんは大丈夫なんでしょうか? ずっと連絡もつかなくて……」
「昨日俺が行った時は一応生きてたぞ」
「夜宵の家へ行ったんですか!? ……あ」
俺は思わず大声を上げてしまったことに自分でも驚いた。
「ははぁ、本当に仲良いんだなお前たち」
「え……?」
「いつも授業中までそこ二人で話してるだろ? そして下の名前呼びとはな……。城崎もこの短い期間で随分変わったな」
そう言えば、この前彼女の家に行った時、一年の時もはまやんが担任だったと話していた。
「見えてたんですか……?」
「お前たちは知らないみたいだが、教壇に立つと一番前よりむしろ一番後ろの方がよく見えるんだからな?」
「そうなんですね……」
はまやんはニコチンが切れたのか手をプルプルさせている。そろそろ本題に入った方がよさそうだ。
「それで、あの……、城崎さんの家にプリントを……ゴールデンウィーク中の課題を持って行ってあげようかと思って……」
「ほう、神楽お前も面倒な奴だな! 仲が良いなら友達として普通にお見舞いに行けばいいだろ?」
「いやそれは……」
それだと、夜─YORU─さんの動きがなくなったからと家凸するストーカーみたいじゃないか。あくまでも友達として、クラスメイトとして彼女に会いに行かなければならない。
要は言い訳が欲しいのだ。
「まあ、お前の気持ちも分からんでもない。だが一応俺も城崎の活動は把握している。そして城崎のような顔の整った、男子に人気の生徒には、男絡みでトラブルが起こることも多い。だからやっぱり俺が学校としてお前を城崎の家へ行かせる訳にはいかない」
「そうですか……」
ここではまやんは遂に堪えきれなくなったのか胸ポケットから煙草を取り出し、火はつけずに吸う素振りをみせた。そして煙を吐くように深いため息を吐く。
「だがまあ、さっきも言ったようにお前が“友達として”勝手に城崎の家へ行くことを止めはしない。友人関係までは余程のことがないと口は出さないからな」
「はまやん!」
「自己責任で頼むぞ」
「ありがとうはまやん!」
俺は進路指導室を飛び出した。
「気をつけて行ってこいよー。……って、“行ってこい”なんて言ったらダメかー。はははー」
廊下に出て他の生徒に手を振るはまやんは、いつもの腑抜けた表情に戻っていた。
それから俺は夜宵さんの机に入ったゴールデンウィーク中の課題を手に、電車に揺られ彼女の家へ向かう。
その道中でお見舞いのていを装うためスポーツドリンクやフルーツゼリーなんかを買っていった。
電車で一度、マンションについてから一度夜宵さんにメッセージを送ったが返信はない。
いよいよ彼女の部屋前。一度しか来たことがないのによく迷いもせず来れたものだ。
俺はインターホンを押す。
「夜宵さん、神楽です!」
しかし中から返答はなかった。
ここまで来て、だけどこれ以上俺にできるとこはない。
「ゴールデンウィーク中の課題、ポストに入れとく! あと飲み物とか買ってきたからドアノブに掛けてくね」
俺はそう言ってコンビニのビニール袋をドアノブに掛けようとした。商品がその重みでドアノブをずり落ちたその時、驚愕の事実が発覚する。
なんとガチャンと扉が開いたのだ。まさか彼女は家にいる時家に鍵を掛けないタイプなのか?
そんなことを考えているさなか、事態はどんどん悪い方向へ進んでいってしまう。
部屋の中からゴドン! というものすごい物音がした。
開きっぱなしの玄関、大きな物音、いつまでも帰ってこない返事。強盗? 空き巣? それともストーカー?
それは俺が行動を起こすのに十分な理由だった。
俺は一度地面に落ちたビニール袋を拾い上げ、ドアノブに手を掛ける。そしてゆっくりと扉を開け、彼女の部屋の中へ入ることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2023/12/10 12:00過ぎ更新予定!
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