第11話 危惧(1)
日曜日の夜─YORU─さんの配信は今までにないぐらい楽しそうだった。それと、気持ち画角も広めだった。汚部屋エリアがなくなって写せる範囲が広がったのだろう。
夜─YORU─さんファンの皆は俺に感謝して欲しい。
「よっす岬ぃ〜! おは〜」
「おはよう健人」
「……何かお前最近楽しそうだな!」
「そうか?」
「そうだよ! 一年の頃は毎日死んだ目をしてやがってよ〜! 二年になっても最初の方は変な感じだったけど、お前今はめっちゃいい感じだぜ〜?」
ククク! と健人が笑う。俺は彼の冗談を片手でいなして自分の席に向かう。
俺の隣にはそう、彼女がいるのだ。
「ん……、おはよ……岬くん……」
「おはよう夜宵さん」
俺はここ最近、健人の言う通り毎日楽しいのだが、夜宵さんはそうも言ってられなくなってきた。いよいよ予選大会を来週に控え追い込み期間へと入ったのだ。
彼女はふっくらした涙袋の下に毎日酷いクマを浮かべ、最近は遅刻ギリギリに登校することも増えた。
夜─YORU─さんのファンとしては彼女の活動を応援したい。だが学友としては、あの部屋の惨状や今日の様子を見ていると止めたくなる気持ちもある。
「大丈夫、夜宵さん……?」
「うん……大丈夫……」
本人はそう言っているが明らかに無理をしている。体調を崩したりしなければいいのだが……。
「どんな些細なことでも俺にできることがあったら言ってね。その……友達として……」
「ん……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
四日後、その予感は悪い形で当たってしまった。
「よーしー、出席取るぞー。で、城崎が体調不良で休みってことになってる。皆は体調管理に気をつけろよー? ゴールデンウィーク前に風邪なんてひいたら最悪だからなー」
教室でひとつだけ空いた空席が俺の胸騒ぎを加速させた。
「岬〜お前眠り姫様に連絡してるか〜?」
「した方がいい、よな……」
「そりゃそうよ! こまめな連絡ってやつが女心にはたいせ──」
「岬に浮気技術を教えるな! まだ早いわよ」
「痛い痛い! ……別に本命にも使う技術だぜ〜?」
「ってことはアンタやっぱり」
「おっとコイツは不味い」
「はいはい! 次は社会、俺の授業だー。準備しとけよー」
その日の夜、俺は夜宵さんに連絡してみた。しかしメッセージに既読が付くことはなく、当然返信も来なかった。
夜─YORU─さん側の公式アカウントからも特にアナウンスはない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして彼女が休んで三日、ゴールデンウィーク前最終日も彼女が学校に姿を現すことはなかった。
「よーしお前ら新学期も一ヶ月間ご苦労だったなー。このゴールデンウィークは楽しめよー? なんてったって来年はお前たち受験なんだからなー」
「おぃぃ! はまやんそれを休み前に言うなよ!」
「受験のこととか考えたくなかったのに!」
「はまやんサイテー!」
「教師として休み前には言わないといけないだろー? まーそれぞれの教科から宿題なんかが出てると思うから、それをちゃんとやるぐらいは勉強しとけよー」
「でもはまやん社会は出てないもんね!」
「前言撤回! はまやんサイコー!」
盛り上がる教室とは裏腹に、俺の気持ちはどん底まで沈んでいた。それは休みに部活やバイトをすし詰めにしたからではない。
「それじゃーこれで終わるぞー。委員長ー」
「はい。起立──」
俺はいてもたってもいられなかった。
「いや〜終わったな〜岬──って、岬!?」
人混みを掻き分けて職員室へそそくさと戻っていくはまやんを捕まえた。
「はまやん!」
「おー、どーした神楽ー」
「あの、城崎のことで相談が……!」
俺が夜宵の名前を出すとはまやんはいつもの腑抜けた表情を一変させた。
「神楽ー、進路相談、行くかー」
煙草臭いはまやんに肩を抱かれ、俺はそのまま進路相談室へと連行された。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2023/12/09(本日)15:00過ぎ更新予定!
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