第30話 戦いを終えて

「ようやく終わったんだよな……」



 杖を破壊したおかげで魔力の供給がストップし、海魔たちの動きが徐々に鈍くなっていく。でかい海魔は一番魔力を必要としていたからだろう、真っ先に動きが止まったのも大きい。



 イザベルは逃したけど、上出来だよな?



「グレイブ……助けに来てくれてありがとう……」



 俺と同じように疲労困憊のはずだがナナシが、元気よくこちらに駆け寄ってくるとそのまま俺の胸元のに飛び込んできた。

 


 うおおおお!!?? この柔らかい感触はおっぱい!!



 ぎゅーっと抱きしめてくるものだから、おっぱいが押し付けられてやばい。こんな状況なのに息子が元気になってしまいそうである。

 だが、好感度をあげるためにもここはかっこよい言葉でしめなければ……



「さっきはおっぱい揉んじゃったけど、ごめんな?」

「うう……恥ずかしい……でも、必要なことだったんだよね……? グレイブだから許すよ……」



 羞恥のためか俺の胸元に頭をぐりぐりと押し付けてくるナナシ。



 選択肢をまちがえたぁぁぁぁぁぁ。だって、おっぱいが頭から離れなかったんだもん。しかたないだろ? それにしてもスキル『大丈夫? おっぱいもむ』をつかったおかげで起死回生の案が浮かんでよかった……俺は囮になってくれた二体のゴーレムに心の中で感謝の言葉をつげる。

 そして、ナナシに本当に聞きたかったことを問う。



「さっきさ、イザベルを殺そうとしたよな……大丈夫なのか?」



 ナナシは『殺さない盗賊』なんて呼ばれているくらいなのだ。人を殺すのに抵抗があったはずだ。それなのに俺と戦ったせいで彼女が『ネームレス』の時のような殺人鬼になってしまったら……



「大丈夫……私は良い人を殺したくなかっただけ……グレイブは世界を救うんでしょ? ならグレイブの敵はみんな悪ってことだよね……だから、グレイブの敵はみんな殺すよ……」



 えへへと、褒めてほしそうにこちらを見つめるナナシを見て複雑な気持ちになる。その瞳は野望をかたっていたイザベルのような狂信的な感情と似ていて……


 なんだろう、これじゃあいけない気がするのだ。


 そりゃあ信頼してくれるのはうれしい。だけど、妄信するのはまた違うと思う。今のナナシならば爆乳ハーレムにもはいってくれるだろう。だけど、俺は自分の意思でで入ってほしいのだ。



 俺は一方的な依存じゃない。いちゃラブが大好きなんだよ。



「それは違うぞ。俺だって間違えることはある。だから、ナナシが自分で判断するんだ。俺が間違っているって思ったらしっかりと言ってほしい。その代わり俺もナナシが間違っているって思ったらちゃんと言うからさ」

「グレイブは難しいことを言う……だけど、なんだかそう言ってもらえるのはいい気分だね。私……頑張ってみる。だから、私に色々と教えてね……ご主人様」



 難しい顔をしながらも彼女の瞳からは狂信的なものが薄れて、楽しそうにほほ笑んだ。かっこつけたからには立派なご主人様にならないとな……

 彼女の頭をなでてやると気持ちよさそうに目をつぶる。


 ああ、俺は守れたのだ。彼女の笑顔とおっぱいを……



「もういいですよね、ベロニカさん放してください!! うう、ナナシさん!! さっきからお義兄様とイチャイチャしすぎですよ!!」

「はぁー、せっかく感動的なシーンだったのに……それにしても主は人たらしだね」




 声の方を振り向くとあたりには海魔たちの死体がちらばっており、そんなかこちらに猛ダッシュしてくるドロシーと、楽しそうに笑っているベロニカやってくるところだった。

 どうやら、空気を読んで様子を見ていたらしい。

 


「うぐぇ!!」

「お兄様、私も頑張ったんです!! だから頭を撫でてください」

「ドロシー……悪いけど、ご主人様の手は私のもの……」

「手は二つあるでしょう!? 片方はわたしがもらいます!! 撫でてくれますよね、お兄様」



 ドロシーのタックルに呻きを声をあげてしまったが、有無を言わさぬ威圧感に二人の頭をなでてやる。まあ、二人が幸せそうならいいかと思っていると、ベロニカと目が合った。



「ふふ、心配しなくても私も頭を撫でて何て言わないさ。放置プレイっていうのも悪くない……うふふ」



 うわぁ……せっかく見直したのに……



 ドンドン!! 



 一件落着といった雰囲気だったが、ナナシが守っていた部屋の扉からたたく音が響き渡り、緊張感が走る。

 


「敵を倒したなら、助けて……んんっ♡」

「ごめん……忘れてた……」



 扉を開けて出てきた海魔の媚薬でとろけ切った少女を見てナナシが冷や汗を流すのだった。






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それではまた明日の更新で



カクヨムコンテストように新作をあげました。

読んでくださるとうれしいです。


『破滅フラグしかないラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない』


推しキャラを守る転生ものとなっております。


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