第17話 河川敷の激闘
心のタイムリミットまで残り1日、陽一はこの日を臨時休業として静かに待機していた。
ハートイーターの出現反応があった時は、輝晶から連絡が来る事になっている。
通常型のハートイーターであれば陽一のみで対応可能な上に、カプリスが現れた時は陽一に足止めしてもらう必要がある。
カプリスの戦闘能力は絶大だが、魔法力を高めての殴り合いであれば陽一にも分があるだろう。
「来たマル!!」
「……!!」
だがその前に、マルルが真っ先にハートイーターの出現に反応した。
「数は!?」
「通常タイプが2体……だと、思うマル。位置が遠いとなんとも」
陽一がバイクを出そうとすると輝晶から連絡が入ってきた。
「星見川河川敷にハートイーター出現、通常タイプが2体に……それからこの魔法力反応、カプリスですわ!」
「カプリス、丁度いい! 心を傷物にした落とし前をつけてやろう。――星見川河川敷に向かう、そっちもなるべく急いでくれ」
陽一はバイクを走らせ、河川敷へと向かう。
買い物なんかをする時は自家用車を使うが、単純に移動するだけならバイクの方が小回りが聞いて有利だ。
それに、河川敷ならそこまで距離は離れていない。ものの10分ほどで到着した。
「あれ、お前……」
河川敷のど真ん中で胡座をかいているカプリスが陽一の姿を見て立ち上がる。
「この間の、ただ見てただけのおっさんじゃねーか。確かロイヤルハートをヤッた時の」
「ああ、だがもうあの時とは違うぞ。俺は戦う力を手に入れた!」
陽一は掌に意識を集中し、マジカルワンドを具現化させる。
その様を見たカプリスは余裕の表情を変える。
「チェンジ・マジカルフォーーームッ!!」
陽一のポロシャツとズボンが光へと分解され、光り輝くキャミソールワンピースへと変換される。
そこからダンスを踊るようにコスチュームを完成させていく、まるで変身ヒロインのように脳裏に流れるイメージに合わせてパーツを完成させていく。
そして、変身完了と同時に名乗る。
「悪しき魂に正義の鉄槌を――魔法少女ブレイズサンシャイン! 愛しき者のために、ここに見参!!」
変身を終えたブレイズサンシャインだが、それを見ていたカプリスはぽかんとした表情で驚いているがすぐに彼の姿を見て堰を切るように笑い始めた。
「あっはっはっ!なんだよそれ! ここは科学の世界だっていうからトンデモ兵器を出してくるのかと思えば――面白ぇ!!」
そう、成人男性の魔法少女なんて前例見た事がない。
格好のおかしさ、似合わなさ、特に両腕両脚に生えている剛毛なんて最低だし腕を振り上げれば脇毛がチラリと見える。
ハイキックをかませばパンツが見えるし、少し屈めば胸毛がチラチラと見える。
だが、そんなのは見かけだけでブレイズサンシャインが高い魔法力を有しているのは肌で感じられる。
「だったらまずは小手調べだ、いけぇ!!」
背景と同化して隠れていたハートイーター2体が姿を現すと、河川敷で遊んでいた子供達や散歩中の高齢者達は蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出す。
ハートイーターは触手を伸ばし、ブレイズサンシャインを捉えようとするが彼はその触手を手掴みする。
「どおおおおおぉぉぉぉうりゃあああ!!」
触手を捕えたことでそれを振り回し、もう1体のハートイーターと共に持ち上げて地面に叩きつける。
1体だけでも相当な重量だが、ブレイズサンシャインは身体能力が魔法力によって極限まで強化されている。
馬鹿力で肉弾戦をこなせるし、打たれ強いから壁になれる。
「ほう……面白いな!! ブレイズサンシャインとやら!!」
カプリスは不気味な笑顔を浮かべると、獰猛な獣を思わせるほどの速度でブレイズサンシャインとの距離を詰めてきた。
「くっ!?」
目測で10mほどカプリスとブレイズサンシャインには距離が開いていたはずだが、ほんの一瞬で相手の息がかかるほどの位置にいた。
陽一はそれにぎょっとしたが、この距離に詰められてからロイヤルハートの肉が抉られた事を咄嗟に思い出して脚部に魔法力を集めてサマーソルトをカプリス目掛けてかましながらバック宙で距離を取った。
「ぐぅ……あ!!」
カプリスはその攻撃がカウンターのように突き刺さり、カプリスは川に落とされそうになるが魔法力を収束させ水を切りながら水の上で姿勢を保つ。
ブレイズサンシャインは土手まで上がり、マジカルワンドを構える。
「させるかっ! やれ!!」
ハートイーターは光を収束させ、ビームを撃ち出す。
これはマジカルワンドから放たれる魔法力のビームと同じものだろう。
ブレイズサンシャインはマジカルワンドをバトンのように回転させ、そのビームを弾く。
「ちぃっ!」
ブレイズサンシャインはマジカルワンドからビームを撃つ、だがやはり一撃では仕留めきれない。
流石に1対3というのは分が悪く、少しの隙を見せればカプリスが一撃必殺の攻撃をするためこちらを詰めてくる。
「オラアアァァァァァーーッ!!」
カプリスは両手の間に魔法力を収束させ、それを圧縮してブレイズサンシャイン目掛けて飛んできた。
これはマジカルワンドの回転じゃ防ぎきれないから腕を突き出し、魔法力のバリアで防ぐ。
取り敢えず倒すべきはハートイーター、こいつを倒してスピル霊子を回収してそれを心に注ぎ込まればミッション完了だ。
しかし、ロイヤルハートの復活はカプリスをはじめとするウィンダリア王国軍としても避けたいだろう。
「ロイヤルハート、助けたいよなぁ? ハートイーターが記録した情報であいつの魔法力がスッカラカンなのは分かってる。助ける方法は限られてるがバカでも思いつくのがハートイーターからスピル霊子を奪い取ってそれを注ぐ事!!」
「お前ならそうするだろうと、予測していた人間がいたが――マジだったとはな!!」
10日前後ハートイーターを出さないだけでロイヤルハートを完封し、そのまま死を待つことも出来たはずだ。
そして、そうしない事は分かりきっていた。
「マジも何も、そっちの方が面白えだろうが!! お仲間を助けるために、本気になってくれるだろうしなぁ!!」
「じゃあその本気になった俺が、ロイヤルハートを助け出した上でお前をボコボコにしてやる!!」
カプリスの攻撃を弾き飛ばし、カプリス目掛けて疾走するブレイズサンシャイン。
そこにハートイーターのビームや触手が飛んでくるがそれを回避しながら、カプリスへと迫る。
「ハートイーターを無視して、俺に勝てると思うんじゃねえぞ!!」
「勝ちだの負けだのは、俺に勝ってから言え!!」
魔法力を拳へと集中させ、カプリスに殴りかかるブレイズサンシャイン。
そして、そのブレイズサンシャインを迎え撃つカプリス。
二人の男の拳と拳がぶつかり合うと、それはもはや爆発と形容するべき衝撃波が生まれ河川敷の雑草は抉られ宙に舞う。
しかし、お互いの力が拮抗していたものだからブレイズサンシャインとカプリスは吹き飛ばされてしまう。
「ブレイズサンシャイン!!」
そこに駆けつけたプリズムダイヤは叫ぶ。
尋常ならざる事態が起きているのだとプリズムダイヤはここに向かっている時点で分かっていた。
「お嬢、ハートイーターを任せてもいいか?」
「えっ?」
「あいつは俺が足止めする……頼んだ!」
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