第6話 ダンジョン第1階層
ダンジョンは地下にあるため、地下に降りる階段が作られている。
土の地面に、なんの脈絡もなく石造の階段があるのは、ちょっと不思議な感じだ。
まあダンジョン自体、なぜこんなものがあるのかいまだに解明されていないしな。
ダンジョンの構造は場所によって違う。
けれど共通してる点もある。
それはダンジョンの登場と共に、地面に突然地下に通じる階段が現れるということだ。
内部の大きさはものによってまちまちだが、どれも見た目以上に広大だ。
なかにはひとつの都市レベルの大きさがあるという。
しかも本来地面の中にあるはずの下水道や地下トンネルなどには干渉していない。
なので階段の先は異次元につながっていると言われている。
これがなぜどうやって生まれているのか今のところ誰にもわからない。
本当に不思議だよな。
そこから手に入ったアイテムや魔法といった技術によって、現代文明も様変わりしてしまった。
ダンジョンと連動するダンジョンクロックもそうだし、魔力で動く配信用カメラなんかもそうだ。
まあその辺は俺は詳しくないんだけどな。
シオリなら詳しいから、気になるなら今度聞くといいかもしれないな。
俺はRTAしか興味なかったから今まで聞いたことなかったけど。
階段を降りるとそこはもうダンジョンの中だ。
洞窟をただ掘っただけのような剥き出しの土の壁と地面が続いている。
洞窟内は充満する魔力によってほのかに明るくなっていた。
とはいえそれだけだとやや薄暗い。
普段なら気にしないけど、さすがに配信だとそれはまずいよな。
「はいダンジョン内にやってきました。ここは近所の初級ダンジョンです。特別変わったところはありません。
うっすら灯りが付いてますが、配信を見てるみんなは暗いと思うので明かりの魔法を使いますね。
RTA中ならその時間が勿体無いので普段は使いません」
光の球が頭上に浮き上がり、洞窟内が明るく照らし出される。
>配慮助かる
>しれっと無詠唱で使ってて草
>詠唱すらもいらないとかマジで便利だよなあ
>無詠唱魔法のスキルが確認されてるのって、ランキングでも一桁の連中だけだろ
>詠唱ありとなしじゃ速度が違いが出すぎるからな。勝負にならんよ
コメントもいい感じに盛り上がってきてるみたいだ。
同接人数も50人を超えていた。
順調に増えてるみたいだな。よしよし。
……そうだ。
そういえばシオリに配信のコツを教えてもらってたんだった。
「ではここで皆さんに質問です。ダンジョンに入って最初にやることはなんでしょうか」
こうやって質問しながら交流をとると人気が出やすいらしい。
コメントにもさっそく反応があった。
>まずは現在地の確認だろ
>ダンジョンの属性も知りたいよな
>難易度もな。初級っていっても幅広いし
「そうですね。まずは<サーチ>を使います」
>コメント全無視で草
>そうですね(聞いてない
>サーチってなんですかねえ……
>また聞いたことないスキルが……
「サーチというのは俺が勝手にそう呼んでるだけでそういう名前のスキルがあるわけではないです。
自分の魔力をダンジョン全体に広げて構造を把握し、素早く次への階段を見つけます。RTAでは必須なので、興味のある人は是非覚えてください」
>必須(できるとは言ってない
>自分の魔力を広げるってなんですか
>そもそも魔力って感じ取れるものなのか
>俺には無理だな
「魔力は誰でも持ってる精神力のようなものです。こう、頭の中に力をぎゅって集めて、そのあとぶわーっと拡散させます。最初は難しく感じますが、慣れれば簡単です」
>簡単です(簡単とは言ってない
>説明下手すぎw
>もっとちゃんと説明して
うーん。なんかあんまり伝わってないみたいだ。
もしかしてみんなは魔力を感じるのが苦手なのかな?
「そういえばシオリも魔力を操作するのは苦手そうだったし、もしかしてこれってできる人あんまりいないのかな?」
>あんまりってか聞いたことない
>多分トップ冒険者層は使えてる気がする。でも隠してるんだと思う
>せっかく隠してたのにケンジくんにバラされてて草
>めちゃくちゃ勉強になるけどなんの参考にもならないんだよなあ
「もしかして、魔力感知の方法も需要ってあるのかな?」
>あります!
>是非教えてください!
「じゃあそれも次回動画にしますね」
>だから!
>今!
>教えろ!!
>コメントの一体感すごい
>気持ちはわかる
みんなも知りたがってるみたいだし、帰ったらその準備もしておかないとな。
色々やることを考えてたら、なんか楽しくなってきた。
これが配信の面白さってやつなのかも。
そうとわかれば、さっそくダンジョンを攻略していこう。
俺は魔力を拡散させ、ダンジョンの構造を把握する。
ダンジョンは1日ごとに内部構造が変化する。どういう原理でそうなってるのかわからないけど、とにかく入るたびに形が変わるんだ。
だから必ずこうやって構造をサーチし、最短ルートを探すことが大事になる。
「サーチが完了しました。階段は意外と近くにあるみたいですね。これはラッキーです。では先に進みましょう」
俺はダンジョン内を駆け足で進む。
いつもならダッシュで駆け抜けるから、こんなゆっくり進むとなんだか落ち着かない。
もう少しくらいなら速度を上げてもいいよな……?
>早い早い早い
>画面ガックガク
>あばばばばばば
>やばい酔いそう
おっと、気がついたら早くなりすぎてたみたいだ。
慌てて歩く速度をゆっくりに戻す。
それにしても、ゆっくりダンジョンを進むってのは慣れないな。
普段は1000倍の最高速で進んでるから、この速度はどうにもむず痒くて仕方ない。
でも配信をするためには慣れないとな。
そんなことを考えてるうちに、先の角から気配を感じた。
「この先にモンスターが3体いるみたいですね。1階層なのでスライムかゴブリン……この気配なら多分ゴブリンでしょう」
本来なら魔力の気配からモンスターも特定できるんだけど、今はバフをかけてないせいで、どれも微弱な魔力にしか感じられないため特定できなかった。
まあゴブリンもスライムも同じようなものだけどな。
>見ないでわかるものなのか?
>どうせ嘘だろ。魔力を感じるとか言ってるだけ
>まあ落ち着けよ。本当にいるかどうかはすぐにわかるだろ
俺が道の先にある角を曲がる。
そこには予想通りに3匹の人型モンスター、ゴブリンがいた。
>マジじゃん
>本当にいた
>ぐ、偶然だろ……
>種類はともかく数まで勘で当てるのは難しくないか
ゴブリンたちが俺に気がつき、こちらに向かってくる。
俺は応戦するべく拳を構えた。
そういえば配信では初の実戦だな。
ちょっと緊張してきた。
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