第3話 シオリと配信準備
さっそく次の休日に、シオリに付き合ってもらって配信道具を買いに来た。
今時通販でもいいのではと思ったけど、シオリは頑なに実際に行って確かめなければダメだと主張したんだ。
なので大型家電ショップで色々と買ってきた。
ずっとダンジョンにこもってて知らなかったけど、最近はいろんなのがあるんだな。
そういや今日のシオリはいつもみるような制服とかダンジョンようの装備じゃなく、普通に女の子らしい可愛い私服だ。
やっぱり外に買いに行くならちゃんとした格好をしないといけないもんなあ。
俺なんて安売りされてた無地のシャツとジーパンだったきたから、シオリに冷たい目で見られてしまった。
次からはちゃんとした服を着ることにしよう。
シオリは怒ると怖いからな。
さすが現役配信者のシオリは、配信道具についても詳しかった。
最近のダンジョン配信用カメラは魔法の力で浮遊しながらこちらを追尾するものが主流らしい。
確かにいちいち手で持ちながら配信すると片手が塞がるしな。
カメラマンを同行させる方法もあるらしく、シオリも最初はそうしようとしてくれたんだが、RTAだと俺の速度についてこれない気がするんだよな。
だから追尾型を買うことにした。
と言っても、結局は俺の速度についてこれないと意味がない。
なので速度リンク型にした。
シオリに難しい説明をされたがわからなかったけど、とにかくこのタイプなら俺の魔力を使用するから常に俺と一定の距離を保てるらしい。
と説明だけされても、本当に上手くいくのかはわからない。
なので試用品を試してみることにした。
「まずは起動して……おお、浮いてる。これで走ってみればいいんだな」
「そうね、お店の地下にお試し用ダンジョンがあるから……」
「えーと、とりあえず店の端から端を走るか。……っと。どうだ?」
「え?」
シオリがきょとんとした顔でこっちを見ている。
「今走ってみたんだけど、カメラはちゃんと付いてきてたか?」
「……えっ? 今走ったの? ずっとここにいたように見えたけど……」
「いやいや、ちゃんとあっちの壁にタッチしてからここまで戻ってきたぞ。まあここは狭いから1秒もかからなかったけど」
「………………」
なんかシオリが呆れたようなジト目でこっちを見てくる。
なんか怒らせるようなことしたかな……
「……とりあえず、カメラはずっとここに浮いたままだったわね」
「そうか。じゃあやっぱり俺のスピードには付いてこれなかったんだな」
なんとなくそんな気はしてたが、やっぱり無理だったようだ。
やはり配信は諦めるか……と思ったところで、いいことを思いついた。
「自動で追尾してくるから上手くいかないんなら、魔力糸で結べばいいんじゃないか?」
「なに魔力糸って」
「魔力を糸状に細く伸ばすんだよ。魔力だから切れることはないし、俺の魔力で作れば俺のスピードにも付いてこれるはずだ」
「私が聞きたいのはそんなのどうやって作るのかって事よ」
「どうって……魔力をこう生み出して、細く伸ばすだけだが……」
目の前で実演してみせる。
とはいってもただ魔力を出すだけじゃダメだ。少しだけコツがいる。
指先から少しだけ魔力を生み出すようなイメージで、細く長い魔力の糸を生み出す。
「ほらな、簡単だろ」
「………………」
シオリがジト目でこっちをにらんでくる。
幼馴染みの俺にはわかる。
あれは、そんなの普通できるわけないでしょバカじゃないの、と思ってる顔だ。
「そんなの普通できるわけないでしょバカじゃないの」
ほらな。
まあシオリは物理型の冒険者だからな。
魔力の扱いは少し苦手なのかもしれない。
とりあえず、浮遊型のカメラを魔力糸で結んで走ってみたところ、問題なく付いてきた。
もちろん壊れないようカメラに俺の強化魔法をかけたけどな。
とにかく、魔力糸を使えば配信できるようだ。
その他にもマイクやら動画編集用のソフトやらパソコンやら。
シオリに言われるがまま諸々揃えていく。
おかげで値段もそれなりになってしまった。
「……まさか100万もするとはな」
「冒険者なんだからそれくらい稼いでるでしょ」
「アイテムなんか拾わないから稼いでないぞ」
「あんた何のために探索者してるの」
「タイムを1秒でも縮めるためだ」
とはいえ、普通に生活するための金は必要だから、RTAしてない時は普通にダンジョン探索してたので一応貯金はあったんだが。
貯めてたぶんもこれでだいぶ減ってしまったな。
配信で稼げるといいけどな……。
次の日、テスト動画も兼ねてさっそく近所の初級ダンジョンにやってきた。
いつでもダンジョンRTAできるように近くに引っ越したんだよな。
ちょうど人気のない初級ダンジョンがあるんだ。
ダンジョンってのは基本的に内部構造はランダムだ。毎日構造が変わる。
だからどこのダンジョンに入っても優劣に変わりはない。
となると人気なのは交通の便がいいダンジョンになる。
ここみたいに住宅地のど真ん中にあると、近所の人しか来ないから人が少ないんだ。
都会のダンジョンなら近くに武器屋とか、ギルドや買取所など色々揃ってて便利だしな。
もっとも、人が少ないのはRTAにとってはいいことなんで助かるんだが。
「よーしじゃあやってみるか」
まずダンジョンのワープゲート前にダンジョンクロックを設置する。
これはダンジョンRTA用に作られたものだ。
と言っても構造は単純なんだけどな。
デジタル表示の時計の上に、少し大きめのボタンがついてる。これを押すとタイマーが作動して、もう一度押すとタイマーが止まる。それだけの単純な仕組みだ。
このタイマーを作動すると同時にダンジョンへと突入し、戻ってきてボタンを押すタイムを競う。それがダンジョンRTAのルールだ。
まあもっと細かいルールはあるが、最初だしまだいいだろう。
「まずは配信カメラを起動して、と」
丸いボール型のカメラを起動すると、それはひとりでに浮き上がって俺の少し後ろに移動した。
その後魔力糸を生み出して結びつけた。これで問題ないはずだが。
軽く準備運動をしながら動いてみる。
よしよし、ピッタリと俺の動きについてくるな。
多少早めに動いても大丈夫だ。なるほど。これなら配信できそうだな。
えーと、まずは録画をオンにして、と……
「えっと、これで録画できてるのかな? えーと。どうもこんにちは。神藤ケンジです。幼馴染に言われて配信をすることにしました。えーと、今日は初級ダンジョンのRTAをしたいと思います。……他に何を言えばいいんだこれ」
どうも話しながらやるというのは慣れてないので、何を言えばいいのかわからなくなるな。
シオリとかの配信を見てると普通に話題を途切れさせることなく続けてるんだよな。
こうしてやってみてわかったけど、めっちゃ難しい。
「まあ初配信ということで、じゃあさっそく初級ダンジョンRTAを始めたいと思います。このダンジョンクロックを押して、戻ってきてまた押すまでがタイムになります。ルールは持ち込みなしグリッチなし、初見攻略になります。
えーと、じゃあ始めます」
カメラに向かって1人で呟くのはちょっとまだ恥ずかしい。
人の少ないダンジョンでよかった。これで周囲に人がいたらさらに恥ずかしくなっていた。
恥ずかしさを振り切るためにも、俺はさっさと始めることにした。
ダンジョンクロックのスタートボタンを軽く叩く。
同時に強く地面を蹴ってダンジョンへと飛び込んだ。
そうして途中解説を挟みながらも軽快に駆け抜け──
「──────っし、クリア!」
俺はワープゲートを通ってストップボタンを押した。
すぐに記録を確認する。
『38:24』
「くっ……! やっぱり解説しながらだとタイムが悪いな……」
まあそれは仕方ないか。
目的はRTAを世の中に広めることだから、そこは妥協するとしよう。
さっそく家に帰ると、動画を確認する。
おお、ちゃんと撮れてるな。まあ少し映像がぶれてるところもあるけど、最初にしては結構上手く行ったんじゃないか?
解説もなんだかんだ必要最低限なところはできてるし、自分で言うのもなんだけどわかりやすくていいと思う。
もしかして俺、配信者の才能あるんじゃないか?
これでバズってRTAが盛り上がってくれたらいいんだけどな。
俺は動画を軽く編集すると、さっそくシオリに送った。
アップする前に内容を見てもらう約束だったんだよな。
返信はすぐにやってきた。
『草』
えぇ……辛辣ぅ……
『俺的には結構上手くできたつもりんだんだが……』
『明日はあんたに編集の仕方を教えるわ』
なるほど。有名配信者様からの目だと俺の編集技術はまだまだらしい。
それは仕方ないか。なにしろ初めてなんだし。
『教えてくれるのは嬉しいけど、シオリも忙しいだろ』
『……そこまでじゃないわよ。あんたに使い方を教える暇くらいあるわ』
まあシオリがそう言うならそうなんだろうな。
というわけで、今度また詳しい使い方を教えてもらうことになった。
場所はなぜか俺の家だったけど……まあパソコンとかの使い方は家でやるしかないからな。
『これはアップしてもいいか?』
『そうね。世間の反応を知るためにもいいと思うわ』
『これで俺も有名配信者になれるかな?』
『そうね。だといいわね』
なんか反応が冷たい気もするけど……
ま、明日になればわかることか。
俺はさっそく作ったばかりのチャンネルに初動画をアップした。
100階層のダンジョンを30秒ほどで駆け抜ける動画を。
……やっぱりちょっと遅すぎるかなあ?
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