こんな転生なら最初に説明書くれよ! ~説明皆無で質問不可の微妙転生はそれでも立派なチートです~

草野猫彦

一章 辺境伯家

第1話 転生しますか?

(つまらない人生だったな)

 諦念と共に最後に思ったのは、それであった。

 何も残さず、何者にもなれず、ただ死ぬまでの時間を生きた。

 何度もやり直す機会があったのに、それすらも気づかなかった。

 ただ無為に、さほど長くもない一生を送っただけであった。

 気がつけばそこには、一つの画面付き台座が置かれていた。

「なんだこれ」

 薄暗い部屋の中、画面に表示されていたのは、シンプルな一文。

『転生を希望しますか Yes/No』

「マジかよ……」

 あるのか、転生。

 それともこれは死ぬ寸前に見る夢なのか。

 だが朦朧としていた意識は明瞭になっており、体もしっかりと動く。

 

 転生しないとしたら、果たしてどうなるのか。

 そもそも転生というのが、仏教用語の転生なのか、それすらも分からない。

「現世の転生か? 異世界転生とか、そういう系統なのか? 説明が少なすぎる」

 だが一つだけ、心の底から思うことはある。

「やり直せるなら……」

 Yesの表示を押すと、画面が切り替わる。

『100ポイントを振ってください』

「キャラクターメイキングかよ!」

 思わず叫んでしまったが、そのポイントは、単純に使っていいものではない。


 生まれ変わる世界、階級、種族、そういったものを選ぶにもポイントが必要となる。

 選択しなくてもいいようだが、するとランダムに選ばれるのだろうか。

「しかもこれか」

 ポイントを振って取れる中に、迷わせるものがあった。

 前世記憶、前世知識、前世人格といったものである。

 つまりそのままでは、前世知識無双などという手段は取れない。

 記憶が一番ポイントが必要なのは、その中に知識や人格も含まれているものだからか。

「俺が俺であるままに、来世も生きるには……」

 重要なのは自分の人生を、後悔しないものとすること。

 するとこれは優先度が高く思える。


 だが100ポイントのうち他に、もっと重要そうなものがある。

 後悔しないために必要なのは、力であろうか。

「いや、克服しないといけないことは、ちゃんとある」

 既にある後悔から、逃げないためのもの。

 どこで間違ったのかは、何度も考えてきた。

 間違えて挫折したよりも、挫折したままであったことが、一番の間違いであった。

(上手く、なんて考えるのも駄目なのかもな)

 それよりはもっと、懸命に生きたい。


 ポイント配分は重要なことではあるが、画面にはタイムリミットが表示されているのにも気づいた。

 右上の時間表示は、残り55分ほど。

 つまり一時間で、人生の初期状態を考えなければいけない。

 そして選択すべきことは、とてつもなく多い。

 まるでテストを受けているようだ。


 転生先が異世界なら、通用しない知識もあるだろう。

(日本の義務教育に、雑学知識は役に立つかな)

 ある程度のポイントで取れるものを考えると、自然と転生先の世界観を想像することも出来る。

 何かとんでもない罠がありそうな気もするが。


 魔法という選択肢がある。

 貴族という選択肢がある。

 対して科学の発展で存在しそうな選択肢が、ほとんど見つからない。

(これで文明はデフォルトで近代以前のファンタジー風と推測出来る)

 ならば前世知識はそれだけで重要だ。


 誰がこれを考えたのか、ということは考える暇もない。

 最低限の説明さえないのは不便ではないのか。

(これを考えるのは後だ)

 今は選択肢から推測出来る、転生後の世界を考えなければいけない。

 

 逆にこれだけ機械的に転生させようというのだから、あまり期待しすぎてはいけないと考えるべきだ。

 転生はさせてもらえるが、成功などは約束されていない。

 良くても一般人相当と考えて、そこに100ポイントをどう上積みするのか。

 いや、100ポイントを上手く使って、ようやく一般人相当になるかもしれない。

 その判断も賭けだ。

 自分が特別な人間なのだと、勘違いしたのが前世での失敗の一つだ。

 特別な人間になりたければ、特別なことをするべきであったし、逆にもっと誰もがすることをしっかりとするべきでもあった。


 ステータス。

 初期状態で10となっているが、筋力、体力、器用、敏捷、頑強、柔軟、感覚、魔力、知力、精神、幸運、魅力という項目になっている。

(ゲームみたいなもんなんだろうけど、項目がけっこう多いな)

 当たり前のように魔力が最初からある。

(魔法は便利なんだろうが、そもそも治安はどうなんだ?)

 日本に生まれたという時点で本来、前世の自分は相当の幸運だった。

 しかしそれも生まれた時期が数年違っただけで、相当に運の差があったと言われている。

 運が悪いと嘆いているのは、無駄であった。


 病気になってしまったのも運だ。

(病気耐性があるのか)

 それはギフトという括りの中にあった。

(先天性スキルみたいなもんか?)

 ならば毒耐性と一緒に取っておいた方がいいだろう。

 ただ耐性にもレベルがあるらしいが、レベルを上げるほど必要なポイントは多くなる。

 またレベル1は1ポイント、2ならば2ポイント必要なスキルであるが、レベル1でも5ポイント必要なものがある。


 ステータスに関しては、1上げても2上げても、減っていくポイントは変わらない。

 つまり肉体の能力は簡単に上がるということだ。

(いや、その考えも甘いんじゃないか)

 1上げればそのまま一割上がるなら、かなりの筋力になる。

 肉体の基礎性能を上げるのは、悪いことではないはずだ。

 だが5を振って五割も上がるなら、生まれつきのチートだろう。

 かといって全く上げないのも怖い。

 上げすぎても何か、デバフがかかりそうな気もする。


 説明書がほしい。

 ポイントで説明書がもらえれば、それこそ10ポイントぐらいは払っていた。

 だがとりあえず前世知識は持っておくべきだ。

 これはポイントが多く必要で、5ポイントが消費される。

 むしろ5ポイントならばお得なのか。

(ここの知識も持っていけるのか?)

 今の自分は明らかに、前世の自分から知識も記憶も継承されている。

 前世記憶が10ポイント、前世知識が5ポイント、前世人格が1ポイント。

 記憶と知識は密接に関係しているもののはずだが。


 逆に考えていこう。

 説明する存在すらなく質問も受け付けず、転生を望めば一方的にこうなった。

 つまりこれは面倒を省略するため、作ったものを流用しているのではないか。

 前世なら転生物の創作も色々と、流行が変わっている。

 今の流行がどういうものなのか、読書をするに目が疲れるようになってからは、あまり調べていなかった。

 だが初期のことを考えるなら、スキルの定番はある。


「あった……」

 まさにアイテムボックス、人物鑑定ということでギフトに存在する。

 それどころかネタとしか思えないものも、色々とあるのだ。

 アイテムボックスのポイントはレベル1から5ポイントほど必要で、しかもレベルを上げるとさらに多くのポイントが必要になる。

 だが存在するものは逆に、獲得するデメリットも考えるようになる。


 アイテムボックスがある世界で、果たして人間はどのように使われるか。

 確かに便利な力ではあるが、逆に密輸に使ったり、あるいは運搬役の奴隷にされたりと、悪用もいくらでも思いつく。

「先に必要なのは力だ」

 それも暴力ではなく、生存力である。

 まず生きていくためには、そういった力が必要となるのだ。


 毒や病気に対する耐性は、確かに重要なものとなるだろう。

 しかしそういったものより、もっと包括的な力がある。

 それは権力というものだ。

 幸いと言うべきか、ポイントで獲得出来るものには、生まれというものもある。

 王族や貴族に生まれるというだけではなく、嫡子や庶子、長男や次男といったものまでポイントで選べるのだ。

 これは意外とポイントが少なくて済む。


 戦乱の時代か平和な時代か、それすらも分からない。

 少なくともポイントでは、それを選ぶことは出来なかった。

(貴族を選ぶべきかな)

 これも色々と落とし穴はありそうだが。

 重要なのは近代以前の文明レベルなら、情報の価値がとても大きいということだ。

(そのためにはやはり、上流階級の生まれのほうがいいだろう)

 ただ嫡子であるとなると、必要なポイントが多かったりする。


 学習できる環境に生まれるべきだ。

 ステータスはあまり一点特化するべきではない。

 ゲームであれば使用していたのは、パワーとスピードに特化した近接職だった。

 しかし装甲が薄く、一撃ぐらいしか耐えられない、というのは弱点だ。

 倒れても復活するという、ゲームの世界ではないのだから。

 そう、キャラクターメイクはするが、ゲームではない。


 結局は全体を少しずつプラスした。

 その過程で気付いたのだが、肉体能力を上げればHPが、精神能力を上げればMPが上がっていく。

(けれど幸運、魅力は関係しない)

 肉体面でも器用と柔軟は、HPを上げない。

 釈然としないところもあるが、そういうルールであるのだろう。


 転生はゲームではないはずだ。

 すると敵を探知する索敵能力が重要になる。

 次に重要なのは攻撃力ではなく防御力だ。

 さらには逃げ出すための、移動速度が重要であろうか。

 死なないための力が必要となっていく。

 そう考えるなら持っている力を、隠しておくことも重要だろう。

(ステータス閲覧、ステータス隠蔽、ステータス偽装か)

 下手に隠すのもまた、リスクはあるかもしれない。

 だが何が平均かも分かっていないのだから、適切なポイント配分も出来ない。


 転生先知識、というものもあった。

 それを試しに上げてみても、知識が流れ込んできたりはしない。

 おそらく転生が完了してから、その知識を得られるのだろう。

 そして探していくと、悩ませる項目がリストにある。


 ステータス強化というものは分かる。

 だがステータス成長とはなんなのか。

 成長を促進するものならいいが、そもそもこれを持っていないと、ステータスが成長しなかったりするのだろうか。

 他にはレベル成長、スキルポイント獲得、スキル成長というものがある。

 少し変わったところでは、クラス取得というものもある。


(成長システムが分からない)

 持っているスキルは成長しなかったり、スキルを成長させる手段が必要だったり、レベル成長を持っていないとレベルが上がらなかったりするのか。

 ゲームの中にはレベルやステータスではなく、装備で強化していくものもある。

 あるいはスキルの獲得と成長で強化するというものもあった。

 前世であっても経験は積んだが、見える経験値などはなかった。

 成長はしたがそれは、レベルアップなどというものではない。


 全く必要でないスキルなのかもしれない。

 だが取っておかないと、致命的に成長力がなくなってしまうかもしれない。

 言うなれば村人Aとして、せいぜい野生の獣を狩るだけの存在で終わってしまう。

「スキルの効果も分からないしな……」

 絶対に必要なものなのか、それともあれば有利な程度のものなのか、あるいはほとんど意味のないものなのか。

 本当に説明書がほしいところだ。

 

 だが考えてみれば、説明書などないのは、前世と同じことだ。

 だからこそまずここは、生き残りやすいように考える。

 どういう世界であっても、少しは成長しておくようにする。

 するとステータスも平均的に上げておくべきか。

 あとは運だけは、他のステータスよりも高くした方がいいかもしれない。


筋力 12 頑強 12 体力 12 器用 12 敏捷 12 柔軟 12

感覚 13 魔力 13 知力 13 精神 13 幸運 15 魅力 11

辺境伯家嫡出三男 14

前世知識 5 前世人格 1

毒耐性LV2 3 病気耐性LV2 3 精神耐性LV1 5

ステータス閲覧LV1 1

ステータス隠蔽LV3 7

ステータス偽装LV3 7

ステータス強化LV1 1

ステータス成長LV1 1

レベル上限突破LV1 5

レベル成長LV1 1 スキル獲得LV1 1

スキル進化LV1 1 スキルポイント獲得LV1 1

スキル成長LV1 1 クラス取得LV1 1

経験値閲覧LV1 1 熟練度閲覧LV1 1

気配感知LV1 1 隠密LV1 1

身体強化LV1 1 高速回復LV1 1 高速治癒LV1 1

魔力感知LV1 1 魔力操作LV1 1

努力LV1 1 良成長LV1 1


 何かに特化することはやめておいた。

 転生物には転生して好き勝手にやる場合と、転生時から劣悪環境な場合がある。

 楽観的にはならず、とにかく死ににくそうなバランスを考えると、こういったものになる。

 一番多くのポイントを使ったのは、結局は身分であった。

 ただ高位の貴族にしては、少なめで取れたな、という気がする。

 経済状態などにもポイントは振れるようであったし、なんだかチートとさえ思えるような名称のギフトもあった。

 精神耐性、レベル上限突破、前世知識の三つはレベル1でも5ポイントが必要であるので、これは重要なものだと思うのだが。


 他にも名前からして、壊れた性能ではないのか、と思えるものがある。

 だがそういったものは、どれもポイントがかなり多く消費される。

 レベル1でも10ポイントや20ポイントも必要になるのだ。

 ゲームならばカスタマイズは、もっと特化したものであるべきだ。

 しかしリアルを生きるなら、まず自分の状況を知るべきだろう。


 ステータスに関するものも、本当にこれでいいのか分からない。

 だが偽装して、先天性スキルは変更しておく。


毒耐性LV1 魔力感知LV1


 この二つだけが表示されるようになっている。

 こんなステータスが、果たして一般的に存在するものなのか。

 ステータス閲覧によって、自分のステータスぐらいは見えると思いたい。

 だが転生先のシステムすら分からないのだ。


 あるいはレベルが上がっても、スキルだけは上がれどステータスは上がらないのかもしれない。

 またスキルポイント取得は、レベルアップなどでスキル上昇に割り振るポイントが得られるのかもしれない。

 TRPGのゲームでは、ステータス自体はほぼ上がらずに、ジョブのレベルで得られるスキルにステータスが関わっていた。


 他に見つけた機能としては、ステータスをマイナスにすればポイントが増え、その分もスキル獲得に回すことが出来る。

 だが先が見えないとなると、やはり弱点は作りたくない。

(何を心配しても、結局はどうなるか分からないんだ)

 色々と考えながらも、時間ギリギリまで100ポイント全てを割り振ると、また表示が変わる。

『転生を開始しますか Yes/No』

 残りは一分ほど。

 時間経過が終了する前に、Yesの表示を押していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る