転生少女、チートな『召喚魔法』でダンジョン無双しついでに乙女ゲームも破壊する

秋町紅葉

一年目の秋

さては乙女ゲームだな?

 自室の鏡に映る自分の姿を見ると、何とも不思議な気分になる。


 肩まで伸ばした亜麻色の髪に、ヘーゼルの目。素朴な印象ながら造形が整った可愛らしい顔立ち。

 歳のわりに小さめな身体のせいで、身に纏うきっちりとした新品の学制服がどこか背伸びしているみたいだ。

 慣れ親しんだ黒髪でも黒目でもなく日本人とは似ても似つかない。

 そんな容姿だが、どうやらこれが今の私らしい。


 自分じゃないと一目でわかる姿なのに、同時に間違いなく自分であるという意識が存在する。

 記憶や意識、人格が統合され、前世と今世を混ぜ合わせた新たな自分が形成されていく。

 考えれば考えるほど怖い気がする。

 でも違和感や嫌悪感などといった感覚は覚えないし、むしろしっくり来てしまう。


「なるほど、転生ってこんな感じなんだ」


 転生した。

 というか、転生していたと言うべきか。

 朝起きたら前世の記憶を思い出していた。かといって今世の私こと、リディ・ネージュの記憶や意識がなくなったわけではない。


 もともとリディの癖や趣味趣向は前世の自分と同じものばかりだった。

 おそらく今この瞬間にリディの体を乗っ取ったわけではない。転生したのはリディが生まれた瞬間で、たまたま今日記憶を思い出したということなのだろう。

 だから違和感などなくしっくりくるのだ。そう考えれば辻褄が合う。


 そんなふうにあれこれと考えていると、鐘の音が聞こえてきた。


「初日から遅刻はよくないよね」


 時計を確認すると始業の時間が迫っていた。

 夏の終わりが近づき、肌寒い風が吹き始める季節。

 今日は私の暮らす国であるシトルイユ王国の王都にある『レヴール王立学園』の入学式の日だ。


 本当は平民が多く通う領都の学校がよかった。

 しかし何かの間違いで貴族ばかりのレヴール王立学園から特待生の推薦をもらってしまったのである。

 推薦自体は断ってもよかったのかもしれない。でも、領主様に面と向かって直々にお願いされたのもあって断りづらかった。


 もっとも私にもメリットが多いからこそ受けた話だ。

 特待生なので学費は無料。寮費や授業に使う教材も無料。

 それどころか毎月返す必要のない奨学金をもらえる。とどめに領主様からも奨励金がもらえるのだ。


 結局お金の話だけど、仕方ないのだ。小さな村の農家の娘はお金に飢えているのです。

 学園は将来有望な特待生が入学してくれて嬉しい。

 領主様は私の成績が良ければ後見人としてその分評価される。

 そして私はお金がもらえる。

 三者三様に幸せだ。


 そんな幸せな関係を続けるためにも、私はちゃんとやっていこうと思う。

 遅刻なんて厳禁だ。

 私は急いで準備を整えて、寮を出た。





 偉い人のありがた〜いお話がつまらないのはどこの世界でも一緒らしい。

 あくびが出てしまいそうになる退屈な入学式をなんとか乗り越えて、自分のクラスへと向かう。


 入学式があった講堂から新入生の教室までみんな同じ道。

 なのでぞろぞろと固まって歩くのだけど、我ながらとんでもなく場違いである。

 周りはキラキラとした雰囲気を漂わせる身なりの良い貴族子女たちばかり。そんな集団の中で、明らかにモブっぽい私のような平民が紛れているわけだ。

 なんというか、肩身が狭い。


 レヴール王立学園はなにも貴族じゃなきゃ入学できないなんて学校ではない。成績が良くてお金があれば平民でも通える。

 まぁすっごく高いここの学費を払える平民なんて、本当に平民と言って良いのかわからない人たちばかりだ。

 事実上、貴族の学校として国内では捉えられている。


 ただ、聞いた話ではあるけど。

 今年は私の他にもう一人平民の特待生がいるらしい。

 親が大商人の実質貴族みたいなのじゃなくて、私と同じ生粋の平民な特待生。

 仲良くなりたいなぁ、なんて思う。


 そんなことを考えながら。

 新入生の団体の端っこで、ひっそりと影を潜めて歩いているとふいに声がかけられた。


「リディ、ここにいたのですね」


「あ、エッタ」


 貴族の群れの中で縮こまる私に声をかけて来たのは、これまたキラキラした貴族の女の子。

 長く伸ばされた銀色の髪は綺麗に整えられていて、青紫色に輝く瞳と合わせて神秘的な魅力に溢れた美少女だ。

 すらっとした体つきは儚く華奢に見え、深窓の令嬢のような印象を与える。

 同性の私でも見惚れてしまうような、美少女。

 何度見ても本当に見た目はいい女の子である。見た目はね。


 彼女の名前はアンリエット・ド・ゼフィール。

 私の生まれた村を含めた王国北方を支配する大貴族、ゼフィール辺境伯家の娘だ。

 二男三女の末娘で、私と同い年。

 趣味は魔物と戦うこと。特技は魔物を殺すこと。夢は魔物溢れる魔の森の向こうまで行くこと。

 可愛らしい姿はまやかしで、その正体は救いようのない戦闘狂である。


 レヴール王立学園への入学が決まった私は、入学準備などのためにそれなりに長い期間辺境伯家の城に滞在していた。

 その際に彼女とは歳が近いということもあってよく一緒にいた。

 戦闘狂ではあるけど、アンリエットとは不思議と波長があう。

 そのためすぐに親しくなり今では愛称で呼ぶような仲である。

 

 私とアンリエットは同じクラスに配属された。

 今年は第二王子が入学するらしい。

 それに合わせて将来の国を担う人材という期待を込めた、成績優秀者が同じクラスに集められたとか。

 第二王子とそれを支えるクラスメイト。という構図を自然と作って卒業後もそんな関係を継続させる狙いだろう。


 特待生の私はもちろん成績優秀者扱い。

 アンリエットは実技試験トップの成績を残した。そのため彼女も成績優秀者のクラスに入れられたのである。

 アンリエットとクラスが別になったらもっと肩身が狭くなりそうだったのでありがたい。


 第二王子にはなるべく関わりたくないな。面倒そう。

 などと考えながら教室のドアを開けると、いきなりすごい場面に出くわしてしまった。


「お前、特待生だろ」


「は、はい!」


「名前は?」


「シェリーです! シェリー・シャトン!」


「ふーん。なぁ、シェリー。特待生の魔法見せてくれよ」


「あわわ」


 背の高い赤髪のワイルド系な第二王子。

 その周りに集まるキラキラした雰囲気のイケメンたち。

 そして王子に壁ドンされて慌てている黒髪美少女。

 そんな現場を教室の奥から睨みつけている豪奢な金髪のお嬢様。


 さてはこれが世に聞く乙女ゲームとかいうやつだな?


 そういうタイプの転生か、と私は一人天を仰いだ。

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