第98話 最後の、決着


 そうだ。2人には、俺たちがどこに行くかは伝えてないはず。加奈には、今日は配信だって言ったけど、加奈の方も配信と言ってたはず。


 そう考えていると、互いに気まずそうな表情をしながら質問に答え始める。


「まあ、放っておけなかったんだよね」


「本来ならうちら、別ダンジョンの攻略をしてたはずなんや。災いの館ってところでな」


「うんうん。何か、高校生が作ったダンジョンなんだって」


「せやで、まあ──完成度はお察しって感じやけどな」


 災いの館──ああ、クソダンジョンで聞いたことがある。本当に高校生が作ったみたいで、それ自体はすごいんだけど、造りが全体的に拙かったり、バグみたいなのが多いと聞いた。俺もこの次あたりに行こうかと思ってたやつだ。まさか2人が先に行ってたとは。


「でもコメントでな、澄人はんのことを追ってたやつがいてな、そいつが教えてくれたんや。あんさんたちが、ピンチになっとるってな」


「澄人君が危険な状況って聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃったの。それでね、すぐに飛んできたって感じ」



 加奈は、心配そうな表情をしている。そこまで俺のことを想ってくれていたのは、とても嬉しい。そして、俺に視線を向けとふっと表情が明るくなった。


「でも、無事でよかった。一緒に勝とうね」


「ありがとう。本当に助かったよ」


 加奈の頭を、優しく撫でる。

 加奈は、うっすらと目に涙を浮かべ、とても嬉しそうな表情をした。まるで女神みたい。加奈、たまにこんな表情するけど、とってもかわいいと思う。それにそこまで喜んでくれると、こっちも嬉しい気持ちになった。


「わぁぁ。澄人君ありがとー。撫でてくれて、とってもうれしー」


「そう言ってくれて、こっちもとても嬉しいよ」



 そして、俺達はそろってアルセルライドの方を向く。


「相手がどんな相手だろうと、うちらは負ける気はあらへんで!!」


 強気な表情で、ろこが言う。そうだ、どんな強い敵だって、俺達は立ち向かってきた。買ってきた。今回も、同じようにするだけ。


 みんなで一緒に、立ち向かっていく。



「みんな、力を合わせるよ」


「はい」


「そうなのじゃ!」


「負けませんよ」


 加奈の掛け声に、全員が反応する。最後らしい戦い。全員で力を合わせて、アルセルライドを倒すんだ。アルセルライドは、余裕そうな表情をしている。まるで、自分が負けるつもりなんて微塵も感じていないかのように。


「いい答えだ。それでこそ、わしも本気の出しがいがあるというものだ」


 アルセルライドは自信を持った笑みで反応。俺たちの攻撃を、あくまで上回るつもりだ。

 その心意気自体は、素晴らしいものがある。俺たち全員で、最後に戦う敵としてはふさわしいものだ。彼の本気の答えるためにも、俺たちも全力を出してアルセルライドに勝とう。それが、俺たちがこいつにやるべきことだ。


「さあ、この一撃で──貴様たちは敗北するのだ。くらえ」


 アルセルライドが杖をこっちに向け、再び魔力のこもった砲弾をこっちに向かって発射してきた。


 魔力の気配からして、アルセルライドの攻撃は──さっきと全く一緒に力。あれが全力で、今回も同じ力で来るのだろう。


「攻撃が来る。絶対に打ち負けるな」


「はい!」


「うちらの力、存分に味合わせてやるで──」


 俺たちはいっせいに全力の攻撃を放っていく。



「カオスに秘めたる聖なる雫。大いなる道筋──虐げられものに運命を切り開く力与えよ。

 ダークネス・カオス・テンペスト」



「集いし願いの結晶よ・今悠久の時を超え、聖なる力を放て・スターダスト・スレイシング!!」


「勇者の咆哮よ、今赤く光り輝く力となれ、シューティングスター・エアレイド!」


 そして、加奈とろこ。2人はどんな技を繰り出すのだろうか。

 初めて見るけど、2人だってずっと高いレベルで戦ってきた配信者だから大丈夫。


「これがうちらの全力やぁぁぁぁぁぁ!! ディザスター・フルバースト」


 加奈とろこの攻撃。2人の剣の先から、加奈は大きな風。ろこは巨大な水鉄砲を大量に繰り出し、2人の放った攻撃は互いに合体しあって、まるで大嵐のようになった。



 そして、俺たちの攻撃は互いに合体して一つの塊となる。


 5人の、力を合わせた攻撃がアルセルライドの攻撃とぶつかり合う。



 俺たちの本気とアルセルライドの本気。

 衝突した直後から、再びミシミシと軋むような音がし始めた。そして──。


「よっしゃー、今度はうちらがかってるでー」


「今度は、私たちの勝ちです」



 今度は──俺たちの攻撃がアルセルライドの攻撃を押し始める。少しずつだが、こっちの攻撃はアルセルライドの攻撃を押しのけ、本人へと向かっていってるのがわかる。


「いいぞ、このまま──アルセルライドに勝つ」


「貴様らここまでやるとは」


 アルセルライドの表情が一気に険しくなる。すでに、全力を出していてどうすることもできないのだろう。このまま、攻撃を押し切っていこう。


 もしさっきみたいにアルセルライドが逃げようとしたら、一気に距離を詰めて接近戦で仕留める。殺しはいないけど、逃がすつもりは毛頭ない。この一撃で、絶対に決着をつける。


 大きな爆発音を立てて大爆発。俺たちの攻撃、アルセルライドの攻撃は完全に消滅。彼の肉体が後方に吹き飛ぶ。


 そして、地面に倒れこんでいるアルセルライドの素へ歩いていく。ぐったりと倒れこんでいて、魔力切れを起こしている。もうこれは戦えないな、勝負はあった。


「いい勝負だった、お疲れさま」

 力を出したはずなんだがな。勝つことはできなかった。貴様たちを超えるために、あんな無様な想いを繰り返さないようにと、努力して強くなったのだがな」


 倒れこんでいるアルセルライドが言う。本当に全力を出したんだなというのがわかる。


「ふん。そちも強くなったものだ。まさかわらわを圧倒するとはな」


 ネフィリムが、微笑浮かべて言葉を返す。確かに、以前戦った時よりもかなり実力をつけている。理由はどうあれ、俺達を超えるために相当の努力をしてきたのだろう。


 その執念だけは、見習ってもいい。


「アルセルライドさん?」


「なんだ璃緒、同情か?」


「最後、あなたは仲間たちを吸収しました」


「あれは手下だ」


「そう考えているかぎり、あなたは私達に勝つことは永遠にありません」


 璃緒が、強気な視線を向けて言う。表情からして、かなり自信を持っているのがわかる。


「最後まで──彼らを、信じていればわからなかったと思います。あの瞬間、周囲と一緒に戦うより自分一人で戦った方がいいと判断しましたよね」


「そうだ。所詮、あいつらは手下だからな」


「だから負けたんです。確かにあなたはとても強かったです。加奈さんとろこさんがいなかったら私達は勝てませんでした。しかし、あなたにピンチの時に手を差し伸べてくれる人はいませんでした。その差なんだと、私は思っています」


「そうかもしれないのう」


 寝っ転がり天を見上げながら、アルセルライドはつぶやく。

 そして、こっちに視線を向けてきた。


「ネフィリム」


「なんじゃ?」


「一応聞いておく。お前は──こんなところで配信者として存在しているのはもったいない存在じゃ」


「何が言いたいのじゃ。はっきりせい」


「もう一度、魔王として旗を上げんか? わしもそれなら応援する。この世界を頂くというのはどうだ? お前たちの世界を武力で征服して、その分の富を分け合うんのじゃ」


 そう言えば、アルセルライドはネフィリムの配下だったんだ。アルセルライドからしたら、今のネフィリムは牙を失った猛獣のように感じているのだろう。歯がゆいというか。



 確かに、2人が力を合わせればそれくらいのことができる実力はある。まあ、今聞いたってどんな答えが返ってくるなんて想像つくが。


 ネフィリム。当然答えは決まり切っているのだろう、迷いはなく、腕を組んだままきっぱりと言葉を返し始めた。


「たわけが。そんなことはもうしない。たとえいばらの道であっても、この世界の人たちと共存していく道を選ぶのじゃ! じゃから、その提案には乗れん。分かったな」


 予想通りの答え。ネフィリムはもう、そんなことはしないよ。俺と一緒にいて、行動を見てきて確信できる。まあ、仮に手を組んだとしても、俺達の手で倒すけどな。



 アルセルライドは、諦めたのか安心したように笑みを向けた。


「まあ、そう来ると思ったわい」


「当然じゃ」


「じゃあ、わらわたちはここまでじゃ。そちも、達者で暮らすのじゃ。もう、人を傷つけるような真似はするなよ。やったら、またお仕置きなのじゃ」


「少なくとも、おまえを怒らせるようなことはせんよ」


 そして、俺達は現実世界へと戻っていった。

 みんなで戦った最後の相手。とっても強かったけど、しっかり勝てて本当に良かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る