第88話 そして、最後のダンジョンへ


「じゃあこれでトークタイムは終了です。皆さん、ご視聴いただいてありがとうございました~~」


 そう言って璃緒は笑顔で手を振った。ちょっと強引になってしまったが、どこかで切らないといつまでもコメントが付いちゃって終わらないからな。


 加奈とろこも、加奈はやさしい笑顔で両手を振って別れを告げる。


 全員が画面を切ると、俺たちはみんな力を抜いて、椅子にもたれかかった。


「あー終わりましたね」


 璃緒は背中を後ろにそらし、うぅ──っと背伸びをした。さっきまでは緊張していたというのがわかる。


「皆さん、お疲れ様です。ゆっくり休みましょう」


 確かに。俺だってなれないトークや質問攻めにあって、精神的に気疲れしてしまった。


 こういったトークだと、周囲とのおしゃべりの感覚で軽はずみに何か言うと、記録に取られて大炎上してしまうことがある。普通の会話と違って、記録されると取り消せずネットでばらまかれてしまうからだ。だから、配慮しないといけないし配慮しすぎるとトークがありきたりなものになってつまらなくなってしまう。その塩梅が、やはり大変だ。

 璃緒達だって、同じように疲弊していたのだろう。


「まあ、ハプニングなく配信を終えることができて良かったです」


「そやな。ぽろっとヤバい失言をして、大炎上なんてあるあるやしなぁ。何事もなく終えて、


 加奈が用意してくれたお菓子やアイスティーを口に入れる。


 甘くておいしいクッキーやチョコのお菓子、それと合うように作られたアイスティーがとても美味しい。加奈らしく、よく考えられているんだな。



「このクッキー、とっても美味しいです」


「璃緒さんありがとうございます。ちょっと高かったんですけど、勝ってよかったです」


「まあ、あと2回くらいですかね。充実した配信にするために、頑張りましょう。お願いしますね」


「こちらこそお願いします」


「残りのダンジョン配信。思い出深いものにするのじゃ」


「うちらも、何かしらかかわらせてもらうや。ほな、よろしくな~~」


 加奈とろこも何かしらかかわるのか。これは面白いことになりそうだ。

 残り少ない一緒の時間を、大切にしていきたい。






 そして、一週間後最後のダンジョン配信となった。13時。俺の家の前──身バレしないように壁を背にして、あいさつ。


 それから、すでに来ていたネフィリムと璃緒に画像を切り替える。


「おはようございます! 璃緒です。からすみさんとの最後のダンジョン配信。行かせていただきます」


「おはようなのじゃ。今日もダンジョンに潜るのじゃ」


 璃緒が、いつもの笑顔で手を振って挨拶をしてくる。最後だという事を告げる以外、いつもの笑顔のあいさつだ。


“こうして3人でダンジョン潜りも最後か。なんか感慨深いな”

“いい思い出に残るようにがんばれ”

“でもからすみなんだからクソダンジョンでネタシーンもみたいな”

“わかる。そっちのほうが、からすみって感じだもんね”



 コメントからも、寂しいという言葉が出ている。まあ、今まで何度も戦ってきて、それが当然のようになってたもんな。終盤の方は連携もぴったりで、いつものコラボ配信特有の連係不足からのぎこちない動きもなかった。


 これからずっといたいなって気持ちもあるけど、仕方がない。


「じゃ、行きましょうか」


「そうだね」


「本日は、璃緒さんとコラボする最後のダンジョン配信です。よろしくお願いいたします」


「最後のダンジョン配信──そのダンジョンはこれです」


「仮面刃。サモンナイト」


 サモンナイト。これは、国民的人気特撮シリーズ仮面刃の一つ。サモンナイトが活躍する世界をイメージしたものらしい──が内実、ひどい出来らしい。


 珍しい課金が出来て、それで強化ができるシステムなのだがかなりの課金をしないとまともに戦えなかったり、敵の強さのバランスもおかしかったり。


 おかげで「クソダンジョン」認定され、俺に攻略してほしいとの意見が多数来て、行くことになったのだ。


 もう、クソダンジョンが現れるたびに俺に報告するやつで溢れかえってる感じだ。


「そういう役割だって、周囲から認定されているのじゃ」


「だね。そういうキャラクターになっちゃったみたい」


 苦笑いで言葉を返す。まあ、他の配信者にはない立ち位置があるというのは大きな武器だし悪くはない。これからも、そういうダンジョンに突っ込んでいくんだろうな。


「じゃあ、行きましょうか」


「はい!」


「行くのじゃ!」


 そして、スマホを起動してダンジョンへと入っていった。最後のダンジョン散策、思い出に残るものだといいな。

 ダンジョンに入ったと思ったら、真っ暗。しばらくすると、真っ暗な目の前に突然文字があらわれた。


「このゲーム、マジにならないでどうするの?」


 真っ黒な正面から、突然ドット絵っぽい画面でそんな文字が出てくる。

 このゲームの決めセリフらしい。


 それから、OP。


 少年向けアニメにあるような熱血系の歌。特に特徴的なサビがすごい。


“サモンナイト狂気に満ちて”


“サモンナイト想いを宿し”

“サモンナイト空は蒼く”

“サモンナイト願いを希望に変えて!


“サモンナイト一点集中突き抜けろ”


「かっこいいOPなのじゃ。熱血なのじゃ」

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