第62話 加奈を、元気に
「は……い」
「俺だ、澄人だ。加奈、ろこ。いるか?」
「澄人……君」
かすれた声。明らかにボロボロになって弱っているのがわかる。早くいかないと。
「入って」
そう言うと、ドアからガチャリという音が鳴る。オートロックなんだっけ加奈の家は。
急いでドアを開け、家の中へ。
新しくて入れが行き届いた清潔感のある廊下を歩いて、加奈の部屋へと向かう。
「入るよ、加奈」
「いいよ」
そしてゆっくりと扉を開けて部屋の中へ。
肩を震わせながら、2人で抱き合ってベッドで横になっていた。まるで身を寄せ合うかのように。
泣いていたのか、目元が赤い。服はボロボロで体は傷だらけ。病院に送ったほうがいいくらいの姿。璃緒が、その姿をまじまじと見て言った。
「ここまで精神的にボロボロなんですね……私たちが来る前に何かあったんですか?」
確かにそうだ。来た時はボロボロだったけど、ここまでダメージを追っているとは思わなかった。
俺たちが来る前にも、何かあったのかな?
考えていると、加奈がこっちから目をそらしながら話しだした。
「実はね……あそこにはもっと人がいたの」
「そうなのか?」
加奈の話によると、俺たちが来る前あのあたりには数パーティーほどの人がいた。どれも、Aランクとは言えないがBランク、Cランクレベルの人たち。
しかし、突然和風の妖怪たちが現れ始めこっちに危害を加えてきた。どれも強いやつばかりでかなりの被害を受けたそうだ。
あるものはパーティー全員崖から落下したり、あるパーティーは半分が瀕死になるほどの負傷をしたり。
「それでも私たちは懸命に戦って最後まで生き残った。そして、パーティーの半分が撤退した時──」
ちらりとろこに視線を向ける。ろこは両手で顔を覆いながら話を続けた。
「あいつが現れおった」
「八岐大蛇か?」
「ああ……明らかに強いやつだったわ。残ったやつらで、力を合わせて戦ったけど無駄やった。崖から落ちていくタンク。痛手を負って恐怖心から勝手に逃げ出すリーダー。そして、大けがをして動けなくなった人に八岐大蛇はとどめを刺そうとした。そこに加奈が立ちふさがったんや」
「だって、放っておけなかったんだもん」
「ろこは、優しいからのう。いそれにいつもうちらは奇襲を繰り返していていた。みんな戦っていた手前自分たちがやられたら逃げるわけにはいかんかった
加奈ならあり得る。心優しいから。
それからもろこが話を続ける。加奈が八岐大蛇を引き付けて「逃げてください」と叫んだ。けがをした人は何とか立ち上がって逃げ出したが、最後まで残された2人は出来なかった。
「何とか戦ったが──2人じゃ力不足やった。パワー負け……」
「うん。強くて、歯が立たなかった。防戦ばっかで……強くて」
そして、加奈は涙を浮かべてろこに抱き着く。俺は加奈の肩にそっと手を触れてみる。
ぶるぶると、震えていた。
「でも、強い敵でも逃げないで他の人のために戦うなんてすごいね」
「そうじゃのう──わらわの世界では『俺たちは強い』と弱いやつらにイキりちらかした挙句強い敵に出くわすと逃げ出す奴とかたくさんおるからのう。弱きもののために戦うのは立派なのじゃ」
そうだ。心優しいかならしい行動だ。だから、そんな行動をした加奈をなんとしても救いたい。
「とりあえず、病院に行こうか」
大けがをしているから当然だ。ただ、それだけでは加奈の心の傷は癒えそうにない。精神面で、どう加奈を立ちなおせるか。
「という事で、病院行こ」
「う、うん」
そう言って手を握ると、まるですがっているかのようにぎゅっと握ってくる。
やはり、怖がっているというのがわかる。これではダンジョン攻略なんて無理だ。
どうしようか──加奈、ダンジョンにトラウマを持ったりはしないだろうか。
加奈──ダンジョンでの戦いをとても楽しそうにしていた。
時にはボロボロになって帰ってきたり、ピンチだったこともあるけれど、それでも絶対に帰ってきた。
それから、うまく行ってなかったときの俺のことを気にかけてくれたり、アドバイスをしていれたり。
しかし、どうするか──ただ励ましても簡単に立ち直ってはくれなさそうだ。
腕を組んで考えていると、加奈が話しかけてくる。
「す、澄人君、そこまでおせっかいしなくてもいいよ」
「そんなことないよ」
そう言って再び強く手を握って加奈の目をじっと見た。当然だ、加奈は今までどれだけ俺に親切にしてくれたと思ってる。
そんな加奈だからこそ、立ち直ってほしい。俺なんかが役に立つなんてわからないけど、考え込んでいると、今度はろこがこっちを向いてくる。
「澄人はん、ちょっとお願いがあるんやけどええか?」
「ん、どうしたの?」
ろこは、ちらりと加奈に視線を向けた。震えている加奈の手をぎゅっと握ってこっちに体を寄せてきた。
「加奈とデート、してほしいんや」
「えっ?」
「え──」
予想もしなかった言葉に、俺は言葉を失う。加奈も、驚いたようでじっとろこのことを見ていた。
「ど、ど、どういうこと?」
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