第60話 一時撤退


「逃げていてばかりでは勝てぬ。時にはリスクを背負ってでも、行かねばならぬのじゃ」


 俺もネフィリムと同じ意見。守ってばかりでは勝てないのだ。時には危険を冒しても、立ち向かわないといけない時だってある。今がその時だ。


 そして、八岐大蛇が口から何かを放つ。


 放ったのは強力な魔力を伴った炎だ。それが、一直線にこっちへと向かってくる。


「負けないのじゃ!!」


 ネフィリムが左手をかざして、大きい障壁を作り出す。

 魔力からして、かなり大きい。

 本気で防ごうとしているというのがわかる。


 そして八岐大蛇の攻撃がネフィリムの障壁に直撃。純粋な力比べになりそう。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


「なるほど、そちの攻撃はこれほどまでに強いのか」


「まずい、障壁が耐えきれない。みんな逃げろ!」


 そして、八岐大蛇の攻撃がネフィリムの障壁に直撃。

 大きく大爆発。障壁は何とか耐えていくが時間が経つごとにミシミシと軋むような音がし始める。

 そこまで長くはもたなそう。ネフィリムの障壁でも防げないとは──ネフィリムは守りに入るのは得意ではないBランク程度の障壁は作れる。それを突破できるとは。


「皆さん、よけてください!」



 璃緒が叫ぶ。そして、障壁は八岐大蛇の攻撃を耐えきれずガラスのように破壊された。

 そして破壊した瞬間、なんと八岐大蛇が突っ込んできたのだ。俺たちは慌てて身を投げて攻撃をかわす。


 全員慌てて身を投げたため、バラバラに分断された形となる。俺の隣には璃緒。そこに向かって、八岐大蛇の首のうち3つがこっちを向いてきた。



 火の玉を何個か放ってくる。俺は攻撃に対して反撃。強力な魔法攻撃を放ち、相打ちになる形で火の玉は爆発。


「それはおとりです。本番はこれからです」


 その通り、爆風がこっちへと向かってくる。体が焼け付くくらい熱い。こいつら、想像していた普通に強い──。

 そして、想像していたより強力だ。



 璃緒と一緒の攻撃をよけきり、再び八岐大蛇と周囲に視線を向ける。残りの3つはネフィリムに視線を向けていて、睨みあっている。ネフィリムも攻撃を受けきったのだろう。



 そして、山の傾斜を転がり落ちて下にある木の柱に激突。衝撃からか、気を失っている。

 そんな2人に向かって、八岐大蛇はさらに追撃をかけてきた。


「弱っている奴らを付け狙ったり、穴があったらそこを重点的についてくるタイプみたいなのじゃ」



「いるな、ハイエナみたいなやつ」


 どこの世界にもいつ。弱ったやつばかり付け狙ったりするやつ。そうでなくても真剣勝負であればそこに弱点があったら集中的につくのは当然のこと。


 急いで崖を下りて援護に向かう。なんとしても2人を守らないと。転倒覚悟で飛び降りるようにして崖を下に。


 その間にも八岐大蛇は何発も加奈とろこに攻撃を放つ。2人は何発も食らったのだろう。

 傷だらけのボロボロになっていた。加奈に至っては、口から血を吐いている。早く助けないと。


 何とか2人の前に入れた。トップスピードで殴り掛かってくる八岐大蛇の突進。

 それに向かって剣先を向け突っ込んだ。


 そして薙ぎ払うように八岐大蛇の胴体を切りかかった。──が皮膚が鋼鉄のように固い。


 全力で切りかかったのに、軽く切れ目が入っただけ。それからも魔法攻撃を放つが、全く効いていない。


 その後も、首を突っ込んでくる八岐大蛇の攻撃を受ける。とにかく威力がすごい。

 後ろに引けない分、こっちも無理やりパワーを出して対抗。


 腕が痛くなってきた。剣を八岐大蛇に向けたまま叫ぶ。


「こいつ、かなり強いな」


 璃緒がこっちを向いてきて行ってくる。


「どうしますか?」


「一回撤退しよう。それで作戦を考えてもう1回ここに来よう」



 無理に力で対抗しようとしても、こっちが被害が出るだけ。

 特に、ぼろぼろの加奈とろこを背にしながら戦うのは危険。万が一流れ弾が当たったら致命傷になるし、それを気に掛けるほど余裕はない。

 それなら、いったん引いて作戦を立て直したほうがいい。


「わらわも賛成なのじゃ」

「そっちの方がいいですね。2人だって早く病院に連れていきたいですし」


 2人も賛同したのかコクリとうなづく。とのことでいったん撤退することとなった。

 とはいえ簡単には逃がしてくれなさそう。背中を見せたら、追ってきそうだ。


 ある程度応戦しながらさっきの道を行き必要がある。それが出来そうなのは──。


「ネフィリム、しんがり一緒にお願いできるか?」


「そうじゃな。任せろなのじゃ」


「璃緒は俺たちが応戦している間に2人を頼む」


「任せてください。」


 2人とも、俺の意図を理解してくれたらしい。

 璃緒は──腕前という意味では実力があるが俺やネフィリムと比べるとあっちの世界での経験がない分死闘という経験が不足している。



 それなら、璃緒に2人を避難させ俺とネフィリムで戦った方がいい。

 こういった危険な任務はよくやっていたし、ネフィリムだってこういった危険な役割を相当こなしていたはず、ネフィリムなら問題はない。


「無理しないでくださいね」




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