第55話 変わった世界観


 そして、目を開ける。目の前にあったのは──薄暗い洞窟のダンジョン。

 けど、いつもと違って魔物はいない。


「あれ、賽銭箱ですか? 鳥居もありますね」


「ああ、神宮でも見たのじゃ。こっちの世界の物じゃろ?」


 確かに、洞窟内。目の前にあったのは大きな鳥居と賽銭箱。どう考えても不自然、他には何もない。


「とりあえず行ってみるか」


 他に見るべきものは特にない。あそこに行くと何かあるのか?

 そしてと賽銭箱の前に近づくと──。


 シュゥゥゥゥゥゥゥ。


 すぐに光の柱のようなものが現れる。なんだと思うと、光の柱の中に人影。光が徐々に薄まっていくと、その人物があらわになる。


「からすみさんご一考ですね、お待ちしておりました」


「知ってるぞ、巫女さんというやつなのじゃ」


 ネフィリムの言葉の通り、白い巫女服の黒髪で背が高い女の人がそこにいた。

 彼女に、璃緒がそっと話しかける。


「え、え、えっと──こんにちは~~」


「こんにちは」


「その、案内役の方ですか?」


「その、案内役の方ですか?」


 巫女服の女の人はコクリと頷いた。今回は和風な雰囲気なのか? 今までとは違う雰囲気を感じる。


「はい。本日は、47(仮)をご利用いただきありがとうございます」


「巫女さん。かわいいのじゃ。説明の方、よろしくなのじゃ」


「このダンジョンは、半年後に開放予定となっております。しかし、その前にダンジョンを歩くサンプルを欲していました」


「それが、わらわたちだったという事か」


「はい、からすみさんたちは実績も十二分にあり不測の事態にも十分対応できると思っています。ですので、サンプルとしてダンジョンの冒険をしてほしいのです。という設定です」


「どんなダンジョンなんだ?」



「全国の四十七都道府県をモデルにした、47の試練が待っています。まあ、従来のダンジョンとは違った、昔の日本のような雰囲気を醸し出しています」


 なるほど、だから47なのか。変わったダンジョンんだな。設定も俺たちが新たに作られたダンジョンを冒険するという設定なのか。なんか新鮮で、楽しみだ。


“なるほど、初めて見た設定だな”

“試作ダンジョンか──他とは違うものが待っているのだろうか”

“もしかして──またクソダンジョンとか”

“あり得る。からすみはクソゲーを呼び寄せてるからな”

“わかるわかる。俺もそのつもりで見てる”


 視聴者たちもこのパターンは初めてなのだろう。ちょっと盛り上がっている。それにしても、俺=クソダンジョンという評判が広まってしまっている。


 風評被害なのかこれ??

 ちなみに、コメントを見たネフィリムはぷっと笑って苦笑いをしていた。


「もしかしたら、澄人がクソダンジョンを引き寄せているかもしれないのじゃ」


「かもしれません。そういう人って、たまにいるんですよね。この47(仮)も、からすみさんが来たせいで運命が決まってしまったのかもしれません」


 璃緒までからかうような笑みと言葉を向けてくる。そこまで言わなくても。

 ……まあ、ここまできて逃げ出すわけにもいかない。行くしかないだろう。


「わかった、参加させてもらうよ」


「ありがとうございます」



 巫女の人が、優しく笑みを浮かべて言葉を返してくる。


「それでは、送りますね」


 巫女の人が、両手を重ねて祈るようなポーズをとる。少し経つと、巫女の人が白く光り始め」続いて俺たちの身体も光り始める。


「楽しんでいってください」


「わかりましたなのじゃ。楽しんで行ってくるのじゃ」


 そして俺たちの視界が一瞬光を浴びたように真っ白になる。どんなダンジョンなのか?

 はたまたクソダンジョンになってしまうのか? とても楽しみだ。


 視界が戻っていく。

 どんな世界が待っているのだろうか──。



 目の前にあったのは──どこかの田舎にありそうな風景。夕焼けの、オレンジ色の空。

 田園風景が広がっている。


「なんか、私の実家みたい」


「ほう? 璃緒殿のふるさとはこんな風景なのか? きれいじゃのう」


 ネフィリムは、初めて見た景色なのだろう。でも俺もあまり見たことはない。大昔、子供のことに遠い親戚の所に行ったとき以来か? ダンジョンなのに、日本のふるさとを具現化したような光景をしている。


 そして、ここから何が起こるのだろうか。とても気になる。



 周囲を確認する。地面はヒビからは雑草が生えている古びたコンクリート。電柱を確認。広島県芸備市。広島県?

 そんなことを考えていると、背後から叫び声みたいな声が聞こえた。


 ギッッ──ギャァァァァァァァァァァァッッッッ!!


 慌てて振り向くと、田畑の中に白くて大きな化け物が走っている。その前には、逃げまどう高校生くらいの女の子。


 間違いなく逃げているのがわかる。ネフィリムと璃緒に視線を合わせて──・


「助けるのじゃ」


「行きましょう」


 すぐに女の子を助けに行く。白い化け物は今にも女の子に追いつきそうになって、手をかけようとしたその時。


「やらせませんよ!」


「させないのじゃ!」


 3人でとびかかり、一撃で化け物を切り裂いた。八つ裂きになった化け物は蒸発するように消滅。

 そして、女の子がこっちに来て行儀良く頭を下げた。


「バビゴンを倒していただいて、ありがとうございました」


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