第45話 決着・勝因


 全力の攻撃、セラフィールもそれに負けないくらいの力を出して槍に込めてくる。正面からぶつかってくるつもりだ。俺と同じ──それなら、俺も全力を出す。それが、セラフィールの感情に答える唯一の手段だ。


「これで終わりだ!!」


「2度も負ける、俺じゃねぇ。最後に立っているのは俺だってことを教えてやる!!」


 そして、2人の攻撃がぶつかり合う。俺も当然だが、セラフィールだって全力を尽くしている。手加減なんてない力と力のぶつかり合い。



 大きな音の爆発音が鳴ったと同時に互いの攻撃がぶつかった。

 衝突した瞬間に衝撃波が発生。そして──打ち勝ったのは俺の術式だ。



 俺の攻撃がセラフィールの攻撃を打ち破り、セラフィールに直撃。セラフィールの身体は大きく吹き飛んで壁に直撃。そのまま体は落下。勝負あったな。


 倒れこんだまま、セラフィールがつぶやいていた。


「くそっ……またお前に負けたのかよ」


「待ってくれ。お前は俺に負けたんじゃない。俺『たち』に負けたんだ。2人がいなかったら勝っていたのはお前だった」


 俺は、一人ではセラフィールに勝てなかっただろう。協力してくれた2人がいた。そして互いに意思疎通もできていてコンビネーションも最後だけは完ぺきだった。それでつかんだ勝利だと強く感じる。

 2人が追い詰めてくれたおかげで、何とか俺の有効打が決まったんだ。3人の勝利だ。


「からすみさん、大丈夫ですか?」


 ボロボロになった璃緒が息を荒げてこっちへ向かってくる。相当消耗しているみたいだ。


「大丈夫。璃緒こそ大丈夫なの? かなりきつそうだけど」


「こっちは大丈夫……です。ただ、だいぶ消耗しました、少し休ませてください」


「わかった。少し休もう」


 そして、璃緒と隣り合わせに壁に寄っかかって座り込んだ。しばらく戦いは出来なさそうだな。そこにネフィリムがやってくる。


「2人ともご苦労なのじゃ」


「ネフィリムこそ。一端休もう。大分疲れたろ」


「それもいいのじゃが──これはどうじゃ?」


 そう言ってネフィリムはやさしい笑みを浮かべると、スッと両手を広げてこっちに向けてきた。


「何?」


「こうやって勝利した時は、こうして健闘をたたえあうのじゃ。その方が、みんなの士気が上がるのじゃ」



「へぇ~~面白いわね、やってみたい」


 璃緒はご機嫌そう。確かに、ただ休むだけというのも面白くない。こういうスキンシップみたいなのがあったほうが、親睦が深まりそう。楽しくたたえあうのもいいな。ということで璃緒と同時に手を出して、パチンとハイタッチをした。2人の、柔らかくて傷だらけの手が当たる。


「戦いの中だけではない。それ以外でもこうやってみんなの結束を高めるのもわらわの役目じゃった」


「流石は元魔王──みんなの士気を上げるのも上手いな」


「はい。ちょっとうれしい気分になりました」


 どこかほんわかな空気が流れていると、セラフィールの方から物音がした。倒れこんでいたが上半身を起こして、胡坐をかいて座っていた。

 自身の敗北を心から悟ったのか、どこか済んだ表情でこっちに視線を向けていた。


「完敗だ。俺にはできない芸当を見せつけやがって」


「まあ、元部下に負けたらしめしが付かないのじゃ。それで、そちはどうするのじゃ?」


 そうだ。セラフィールはどうするのだろうか。まさか、ここを拠点に俺たちの世界を侵攻するとか言わないよな?

 セラフィールは腕を組んで、優しい笑みを浮かべて言った。


「俺が器用じゃないのは十二分にわかってる。周囲からどれだけクソと言われようと、ここから去るつもりはない」


 そう言うと思ってた。いくらは説得しても、動じないとは思っていた。骨が折れる戦いになりそうだなこれは。


「そちが強い信念を持って行動してるのは知っておる。わらわの下で戦っていた時も、今この時も──」


「まあ、こっちから手出しはしねょ。またお前たちと戦うなんてことになったら命がいくつあっても足らないしな。しばらくはダンジョンにいるよ」


「でも、ダンジョンで稼ぎたいならもっと改善しなきゃいけないところもあるよ。いろいろネタにされてるから、ネフィリムのところみたいに」



「わらわのは──少しずつだが改善していってるのじゃ。一緒にするでない」


「マジかよ、何とかしないとな」


「俺でよければ、色々と教えてあげるよ。でも、他と一緒というのもつまらないし、そこはみんなで考えよう」


「まあ、みんな行儀がいいダンジョンばかりってのもあれだから、一個ぐらい個性的なダンジョンがあってもいいってのは思ったわ。みんな同じようなものを目指してたら、同じ物しかできないし」


 ボロボロになって、座り込んだ璃緒が苦笑いの表情を浮かべる。確かに、一個くらいはどこかおかしくて、個性があるダンジョンがあったっていいとは思う。



「後一応言う。俺はもう戦えないぜ。首を取りたいなら取れよ」


 セラフィールもまた、どこか満足げに笑みを浮かべていた。彼女なりに精一杯、全力で戦ったのだろう。だからここで首を切られても悔いはないと──。


 実にセラフィールらしい答えだ。なんというか、侍みたいだし──

 でも、そんな気にはなれなかった。


「するわけないだろ。みだりに危害を加えないなら、こっちも何もしない」

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