第23話 お姫様抱っこ(堕とす側)

 吹っ飛ばされる璃緒ちゃん。いくら璃緒ちゃんでもソロで突っ込むなんて無茶だ。

 多分だけど、パーティーで戦ってきたときの癖が抜けてない。ああいった攻撃的に突っ込むのは──仲間の援護があるからできるもの。


 単独で戦っているときにおんなじことをしても、やられるだけだ。


 初めて会った時、みんながからかってくる中彼女だけが俺のことを心配してくれた。そんな人だからこそ、傷ついてほしくない。


 俺も一気に突っ込んでいく。璃緒はヒュドラの連続攻撃を受けきれず体がのけ反り無防備になってしまった。


「お前も死ねぇぇぇぇぇ!!」


 真上から璃緒を思いっきり殴りつけた。その行動にかっとなり、俺は剣に思いっきり魔力を込める。


「混沌に落ちたる輝く力、その力を示し──浄化せよ ライトニング・ストーム」


 強力な術式を惜しみなく使っていく。ヒュドラは防御壁を出して応戦するが、ヒュドラの強引に突破。ヒュドラの肉体が大きく爆発し吹っ飛ばされる。そして──璃緒。

 落下していく璃緒のもとに向かうため、残りの魔力を剣に込めて加速。


 璃緒の下に回り、着地寸前──さっきと一緒、膝裏と首の後ろに腕を置いて着地。


 さっきと一緒のお姫様抱っこというやつだ。ふくらはぎや太もものぜい肉がわずかに当たる。柔らかくて、ぷにぷにしてドキッとしてしまう。


“お 姫 様 抱 っ こ ”

“さすが主人公”

“惚れたな”

“二股確定”


 茶化すようなコメントは無視。これでさっきの借りは返した形になる。


「大丈夫?」


 璃緒ちゃんは、ほんのりと顔を赤くして胸に手を置いきこっちを見ている。じっとこっちの顔を見る感じ。恥ずかしかったかな?

 お姫様抱っこから、足の部分をゆっくりと地につけ、座り込む形になる。


「大丈夫?」


「は、はい」


 手で口元を抑えて、まだじっとこっちを見ている。そこまで見られると、こっちまで恥ずかしいと感じてしまう。


 俺もつられて璃緒の顔を見つめる感じになってしまい、その美しさに胸がどきどきとする。

 やっぱりかわいいな……。


「ほら! いちゃつくな、まだ残党がおるぞい!!」



 見つめ合う俺たちにネフィリムが叫ぶ。そうだった、戦いが終わってない。俺と璃緒は慌てて立ち上がって戦いに戻った。


「まだ、戦えますか? からすみさん」


「大丈夫」


 とはいえヒュドラは倒れ後は中堅程度のモンスターばかり。油断しなければ、どうということはない。

 数分ほどしたところで、何とか討伐完了。


「何とか終わったのじゃ」


 ほっと一息つく。何とか戦いは終わった……少し疲れたな。倒壊した民家の壁にもたれかかり座り込む。

 体育座りをしている璃緒に話しかけた。


「そういえば、他の仲間はどうしたのじゃ?」


 きょとんと不思議そうな表情でネフィリムが聞く。確かに、ネフィリムはエンシェントロマンのリーダーでいつも4人で行動していたし、璃緒自体も仲間思いで勝手な行動をするように思えない


 璃緒は、両腕をつかんで複雑そうな表情になって言葉を返す。


「3人は、ネフィリムさんとの戦いで大けがを負い、しばらく治療が必要な状態になってます」


「そこまでひどかったのか」


「だから、今はソロで潜ってるの」


 そ、そうなのか……ネフィリムはじっと璃緒を見た後表情が暗くなる。罪悪感を感じているのだろう。申し訳なさそうに頭を下げた。


「す、すまぬのだ」


「いいです。こっちだって本気で戦っているわけですし、卑怯な手を使ったわけじゃないから恨んではいません」


「そうか」


「勝負ですから」


 じっと真剣な表情で前の崩壊した家屋を見つめている璃緒。恨んでいる様子はないようだ。

 普通、戦いというのは全力で戦い互いに傷つけあうもの。璃緒のパーティーだって、ダンジョンでは数々のモンスターを殺している。

 よほど卑怯な行為をしない限り互いに傷ついてもお互いさま。真剣勝負の結果なのだから結果は受け入れるしかない。

 大切な仲間を傷つけられても感情的にならないのは、璃緒の人柄ならでばといえる。


「それで、これからしばらく1人で戦うつもりなの?」


「そ、そのことなんですけど──」


 そう言葉を返す璃緒。こっちから視線をそらし始め、オドオドし始めた。落ち着きがない様子。何か、考えがあるのだろうか。


「私と、一緒になりませんか?」


「え──」


「わかりにくくてすいません、3人がいない間──コラボという形で一緒にダンジョンに潜りませんか? という事です」


 コラボか──確かに異なるパーティーが視聴者稼ぎという名目で一緒にダンジョンを潜るというのはある。

 でも、底辺再生数の俺とNo1配信者の璃緒で釣り合うのか──。



 腕を組んで考えていると、璃緒が俺の前に動いて、前かがみになって迫ってきた。そしてぎゅっと両手を握ってくる。冷たくてやわらかいて。そして、前かがみの姿勢と胸元を出した服のせいで胸の谷間が丸見え。でも、ここでガン見するわけにはいかない。


 失礼の無いように、理性を集中させ璃緒の顔をじっと見る。


「私ひとりじゃ、やっぱり心細いし協力してくれた人がいたほうがいいかなって思って。それで、からすみさんなら信頼できそうかなって。さっきも、前のダンジョンでも私を救ってくれて人だし、バカにしたやつでも、最後は救うし──」


「まあ」


「やっぱり、ダメですか?」



 璃緒が残念そうな表情になる。悲しそうな表情で俺から目をそらすと、こっちまで罪悪感を感じてしまう。

 悪くない提案だ。多分、璃緒の戦闘スタイルは仲間たちの援護あってのもの。いきなりソロプレイになったとしてもそのスタイルは体に染みついていて、どこかで無謀な突撃をしてしまう可能性は高い。

 かといって配信が止まると璃緒の露出が減ってしまい世間から「オワコン」扱いとなってしまうだろ。

 配信者界隈は競争が激しいから、璃緒がいなくなると次のスターが出てくるだろう。埋もれないための努力だって、とても大変なのだ。


 俺にとっても、登録者数を稼ぐ大チャンスだし悪くはない。断る理由がなかった。


「わかった。こんな俺でよければいいよ」



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