第13話 ネフィリム再会




「さすがに疲れた」


 ダンジョンに潜んでいた強敵たち。そして、久々の魔王ネフィリムとの再会。いつ戦いになるのではないかと焦っていた。結果的には戦いにはならなかったが。


 何とか終わった。軽く散らかっているお菓子のゴミにペットボトル。



 俺は、現実に戻った。疲れを忘れてダンジョンを必死に進んで潜った結果、戻ってきたらすでに日が暮れていた。帰った瞬間疲労からベッドに横になったあたりですぐに眠りについてしまった。


 次に目が覚めたのは夜中の3時ごろ。

 真っ暗な中天井を見ながらダンジョンで起きたことを思い出す。


 璃緒ちゃんか。スタイル良くて、すごいかわいかった。まさかあんな大物に出くわすとか。

 出会った瞬間、あの美貌にドキッとしてしまった。


 本当に、絶世の美人という感じで素敵な人だった。冒険者を束ねるリーダーだからか人当たりもよくて仲間思いで優しい性格。


 全てにおいて完璧な存在。あんな、太陽みたいな人は正直あこがれる。陰キャの俺とは対極のような存在。俺とは天と地くらいさがあるし、2度と会うことはないだろうけど



 そして──ネフィリム。

 確かに、あいつからはただ悪をなすだけでなく壮大な使命感のようなものを感じていた。周囲をまとめると力は俺とは比べ物にならない。


 確か、人間たちから爪弾きにされた者たちをまとめ上げたんだっけ。逢いに来ると言っていたが、どんな風になるのかな。


 でも敵ではなく、協力者として会えるのはうれしい。今度は、どんな関係になるのだろうか。

 とりあえず、もう一度寝よう。






 朝、トーストとコーヒーの朝食をとった後──食器を洗面台に置いたその時だった。


 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。宅配便だろうか。

 まさか──そう考えて、玄関の方へ。


 母親がすでにインターホンで対応していて、玄関にいる人物に視線を向けて背筋が凍り付きそうになった。


「えーと」


「澄人の友達じゃ」


 褐色の肌、紫色のロングヘアー。スレンダーな体系にひときわ大きな胸。そして、胸元を露出させたサリーに近い服装。太ももが7割近く露出していて、とてもセクシーに見える。

 ネフィリムだった。


 母親は、当然だが戸惑っていた。俺だっていきなり胸元と太ももを露出した奴が来たら戸惑う。ネフィリムは、どういう対応をするのだろうか。


「ど、ど、どちら様ですか?」


「ネフィリムじゃ。ちょっと時間をもらうぞ」


 そう言ってネフィリムは母親の両肩をつかんでじっと母親の目を見る。ネフィリムの水色の瞳がうっすらと光りだした。この世界でも魔法を使えるのかこいつ。


 その瞬間、母親は「あ……」と声を漏らしだらんと腕を落とした。なんだと思い正面に回っると、目の光が消えている。


 体が硬直し、言葉を発しないどころか瞬き一つしない。トロンとした目。定まらない視点でネフィリムを見ている。


「よいか? わらわの話を聞くのじゃ」


「……はい」


 目から光が消えている、そしていつもと違い呆けた表情で言葉を返している。これ──催眠術式だよな。


「澄人、ちょっと催眠を掛けさせてもらうぞ」


 そして、肩をつかんだまま優しい口調で暗示をかけていく。


「お母さま。わらわは──澄人の彼女。すでに何度か会っていてわらわのことはよく知っている。今日も澄人と一緒にいるためにここに来た。

 わらわはスタイルが良くて美人、性格も最高。優しくてしっかりと澄人のことを立てて性格もよい」


 おい。心の中で突っ込んでいる間に、母親は呆けた表情のままネフィリムの暗示を受け入れていく。


「はいネフィリム様は澄人の彼女。仲が良くて何度も会って面識がある。意気投合もした」


「だから、この家に来るのはなんの問題もない。よいな?」


「はい……ネフィリム様が家にいるのは何の問題もありません」


「これで問題なしじゃ。他の家族にも同じ暗示をかけておくか」


 ネフィリムは人差し指をほっぺに当て困ったような表情をする。人の家族の脳を勝手にいじるなよな。


「わらわが3つ数えて手を叩くと意識がもとに戻る。しかし、わらわが暗示をかけたことは覚えていない」


「はい……。ネフィリム様が催眠を掛けたことは忘れます。しかし、ネフィリム様が澄人の彼女ということ、面識があって意気投合したことは忘れません」


「1つ、2つ、3つ」


 そしてネフィリムが手を叩くと、母親がはっと目をさました。目から光が戻って、周囲をきょろきょろと見まわした後、ネフィリムに視線を向けた。


「ネフィリムちゃん、おはよう。来てくれてありがとう」


「いいのじゃ。また澄人と会えると思うと胸がどきどきなのじゃ」


「ありがとう。もうこんな息子の彼女になってくれるなんて、私もう夢みたい」


「そんなことないのじゃ。澄人は強くて優しくて、とても素敵な人なのじゃ」


 母親は満面の笑みでネフィリムと手を握って楽しそうに会話している。ネフィリムも、にっこりとした笑顔でとても楽しそう。

 そして、俺の背中を軽くたたいてきた。


「ちゃんと大切にしなさいよ。こんな美人で性格のいい彼女。浮気なんてするんじゃないわよ。あ、そこまでモテないわね」


「まあ、澄人は浮気なんてしないのじゃ、わらわとはラブラブカップルじゃからの。ということで、部屋に上がらせてもらうのじゃ」



☆   ☆   ☆


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