竜王と4人の騎士の噺

ボルクローム

序章

第1話 生誕

……ドルストア大陸、北東に位置する最強種族“竜種”の棲む山岳地帯があり、その丁度開けた場所には竜から進化した亜人種、“ドラゴニア”の棲む町、クロムウェルが存在する。


 クロムウェルはドラゴニアの棲む町であり、あらゆる種族の侵入を拒み、気候の安定した穏やかな土地であり、豊富な作物が実り、自然豊かな土地でもある。


 そんなクロムウェルにある民家の1つに一組のとある夫婦が住んでおり、その雌のドラゴニア、カーラは今まさに“新たな命”を産もうとしていた。


「んぐ~~っ!!んあ~~!!!!」


「頑張れ!!頑張れカーラ!!」


「んぐあああああ!!!ジョルグ~~!!!」


 カーラは自分の夫である雄の竜人、ジョルグの手を握り、息んでいる。


 そして、周囲には彼女の親戚の乳母達が必死に彼女を支えていた。


「カーラさん!もう少しよ!!頑張って!!!」


「カーラさん!!」


「っ!!!ガアアアアアアアアアッ!!!!」


 カーラが強く叫んだ、そして----



「んぎゃあああっ!!んぎゃあああっ!!んぎゃあああっ!!んぎゃあああっ!!」


「産まれたわ!!元気な男の子よ!!」


「ほ、本当だ……!カーラ、男の子だってよ!!凄いぞ!カーラ!!」


「はぁ、はぁ……!か、顔を……!赤ちゃんを見せて……!」


 カーラの願いに乳母が取り上げた男の赤ちゃんを抱かせる。カーラは産まれた我が子を見て涙を流す。


「産まれてきてくれた……。やっと、産まれてきてくれた……。」


「本当だ……!な、なぁ、カーラ。この子の名前。名前は何にするんだ?」


「もう、ジョルグったら……。名前なら、もう決めてあるの。」 


「な、何だ?何て名前なんだ!?」


 ジョルグが尋ねると、カーラは優しく微笑みながら我が子の頭を撫でながらその名を口にする。



「“ブライ”。この子の名前はブライよ。私達グローリア家の男の子。」



「ブライ、か……。ははっ!良い名前だ!!」


 ジョルグとカーラ、そして、親戚の乳母達は産まれてきた男の子、ブライに優しい微笑みの眼差しを向けていく。すると、ブライもそれに反応したのか体を動かし、父と母の指をキュッと握るのであった……。


◆◆◆


 それから数年、カーラとジョルグはブライの子育てに奮闘しながらブライを育てていった。


 ブライはカーラとジョルグが大好きなのか、赤ん坊の時は姿が見えなければ、泣いてハイハイしながら探していたが、3歳になってからは元気に走り回り、ジョルグと剣の稽古のように素振りや徒手空拳の稽古をしたり、カーラからは魔法を教わっていた。


 ドラゴニアは幼い頃から自立し、1人で生きていけるように親と訓練をしながら過ごすという特殊な種族である。


 そしてブライも漏れなく同じように育っていき、運命の日……5歳の誕生日を迎えたのであった。


「「ブライ、誕生日!おめでとう!!」」


「わぁ!ありがとう、お父さん!お母さん!」


 ブライはジョルグとカーラから祝われてケーキの蝋燭を吹き消すと、その後は両親と楽しく過ごした。が、食事を終えるとジョルグは真面目な顔つきになってブライを見る。


「ブライ。その、お前は“試練”の事は聞いてるか?」


「ん?うん!親戚の伯母ちゃん達が言ってたよ?オレもそろそろ“試練”を承ける歳だって!……ところで試練って何するの?」


「うん……。試練っていうのはな?簡単に言えばとても辛いものだ。火、水、風、土、光、闇の6つの試練を、竜神“ムフェト”様から受けて……それを無事に終えた竜人は世界に旅に出るんだ。」


「へぇ?ねぇ、お父さん、お母さん。“外”は怖いの?」


「……正直に言えば、かなり怖いところだ。嘘つきや騙したりする者もいる。平気で他者を傷付ける者もいるし、何より怖い“魔族”や“魔物”もいる……!!それでも、試練を受けて旅に出る。出れそうか?」


「……。」


 父の真剣な眼差しと心配する母の眼差し、その2つを見たブライは幼いながらも強く頷く。


「うん!!オレ、試練受ける!!試練合格して、世界を自分の眼で視る!!!」


「っ!!!?ブライ……!!」


「……そうか。なら試練は明日からだ。今日はもう寝なさい。」


「うん!分かった!!」


 ブライは歯磨きをしに洗面台に向かうと、カーラは静かに泣き出し、それを見たジョルグは妻を強く抱き締める。


 まだ幼いブライを旅に出すことに消極的なカーラ、出来れば駄々を捏ねてくれた方が良かったが、ブライがそうしたいと言った以上は本人の意思を尊重しなければならない。


 だが、それがカーラの心を傷付けるのであった。


「あなた……!私、ブライが心配だわ……。あの子はまだ……。」


「分かってる……!だが、それがこの国の決まりなんだ……。」


 ジョルグはカーラと抱き合いながら、その日は3人で眠りに着いたのであった……。

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