パパスリア戯《おどけ》はなし~もう一つのクリスマス~

 小雪が降る夜、街は電飾が輝き、広場には大きなツリーが置かれ、きらきらと輝いています。

 人々の吐く息は白く、暖かそうな衣服を着て行き交います。

 コンビニも明日のクリスマスに合わせ華やかに明るく、のぞき見える中はとても暖かそう。



 外に設置されたごみ箱も、漏れ出す光に照らされどことなくあたたかみを感じます。

 その陰に、小さく体を丸め潜む、薄汚れた子がいました。

 薄手の長袖のシャツにズボン、色あせた靴。

 震えを止める様に、両足を抱き、両腕を巻き付ける様にしています。


 連れていかれるのは嫌です。

 じっとしています。



 でも震えは止まりません。


 目に映る光景は、別の世界です

 誰も女の子に気づかず、幸せそうに微笑みながら、人々は通り過ぎます。

 いいえ、誰もが足を震わせ、カチカチと音を出す、ごみ箱の横にあるものに気づき、可哀そうとあわれむか、さげすみの視線を向け、一瞥いちべつしては去って行くのです。



 風が吹けば、震えが止まり、体があっと言う間に冷えます。

 カサカサと白い紙くずが吹かれてきました。

 赤切れた手でそれを拾います。


 女の子はひらめきました。

 このままでは死んでしまいます。

 皆にほんの少し、あたたかさを分けてもらおう。


 紙を広げ、赤切れた指を押し当て字を書きました。



『FREEHUGS(フリーハグ)』

 皆に見える様に持ちました。


 けれど一人もぬくもりを分け与えてくれません。

 ハグをすれば、小綺麗こぎれいな服が汚れます。


 待っていた甲斐かいはありました。

 同じ歳ぐらいの女の子が、手を差し伸べて立たせてくれました。

 笑いながら抱きしめてくれました。



 二人も、右から左からぎゅーーーと。

 とても、とても温かい。


 クリスマスの朝、店員がごみ箱の横でうずくまり、氷の様に冷たい女の子を見つけました。

 息はしていません

 手には紙くずを握っていました。


 汚れた顔は、まるで暖炉の前でプレゼントをもらった時の様に、幸せそうに微笑ほほえんでいました。

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