私立 京《きょう》の園《その》学舎《がくしゃ》 高等部 乙女組

私立 京《きょう》の園《その》学舎《がくしゃ》 高等部 乙女組

 文明開化の時期より、純心にして無垢むく見目みめ美しいやんごとなき乙女達のまな、名門、私立きょうその学舎がくしゃ

 多くの淑女しゅくじょを世の中に送り出した乙女のそのも、時流じりゅうの流れには逆らえず、資金繰りに苦慮くりょする有様ありさま

 む無く共学とあい成りました。


 自由恋愛と言うのにしき御旗みはたかかげる狼共が花園にはなたれ、狐狸妖怪こりようかい魑魅魍魎ちみもうりょうごと跋扈ばっこし始めたのであります。

 時の生徒会長は無血開城を良しとせず。

 又、こころざしある者達によって勤皇きんのう志士しし彷彿ほうふつとさせる、乙女組なるものが組織されたのです。


 乙女の心をもてあそび、瞳を潤ませ、しずくを落とせし者許すまじ。

 不誠実な者達に、天に代わって乙女の鉄槌てっついを下す。


 きょうその3階、木造の旧学舎がくしゃ

 部活棟、その一室に池田屋の異名を持つ旅行研究部。


 ミーティング中を狙い、駆けさんじる三人の乙女達。

 廊下を走る様は疾風しっぷうごとし。


 さささささ。

「まぁ~、何と凛々りりしい。乙女組の皆様ですわ」

「乙女に涙をもたらす、不誠実者に天誅てんちゅうを下しにまいられるのですね」


 すた、たた。

 とある扉の前に立ち、うなずき合う乙女達。


 がららら、どん。

藤原ふじわらのはじめですわ。返答へんとうあらめですのっ」

「お、乙女組っ」「誰かこくったのか」「目を伏せるなっ、竜馬りょうまっ」

問答無用もんどうむようですわっ、死になさいっ、えーーーいっ」


 ばたばたばた。ぱしっ。

「待てぜよっ、いきなり切りつけてどうするぜよ」

 ぎりぎり。

「知れた事ですわ、乙女に害を成せぬ様かぴばらになって下さいな」


「はっ、話しを聞くぜよっ」

 ぎりぎり。

「わたくしの妹に、あの様な劣情れつじょうまったふみを渡すなど、何とけがらわしいっ」


「読んでくれたのか」

 ぎりり。

「よくもまぁ~、おぞましき呪詛じゅそをつらつらとっ」


「あっ、あれは、おんしに渡してくれるよう頼んだ物ぜよっ」

 ぎり。

「・・・わたくしへの恋文こいぶみ、ですの」


「俺と付き合って欲しいぜよっ」

 すちゃ、かしゃん。

「おっ、おい、三つ指」

「はぃ、幾久いくひさしくげとう御座ございます」


「えっ」

「その二つのまなこに、他の女の子をうつす事は許しませんの」


 この池田屋事件により乙女組は解散、生徒会長は無血開城を余儀よぎなくされ、まなに真夏の熱波ねっぱごとき情熱の嵐が訪れたのです。

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