第9話



 あたしの名前はクイッキー。中学生時代に作った架空の私のキャラクター、シャララ・クイッキーから取ってきている。まぁそんなことはどうでもいいんだが。


 キャンベル・アームズという銃火器専門店で生まれた長女で一人っ子だ。


 家では、「人殺しの道具を売るな」と生卵を投げつけられることもあった。でも、パパは悪人じゃないし、ママだってあたしを愛してくれる。だからクズなのは生卵を投げつけるようなやつらだ。あたしは怒りの矛先をけして間違えなかった。


 学校だってそう。外の世界にいるやつらはみんなみんな、クズばっかだと思った。


 何でもできる夢の世界で、人を襲わない人はいない。


 自分で人形を作って壊すのでは満足できないのか、他者を虐げることしか能のない連中に、あたしは追われ、詰められ、ついに死ぬ……よりも恐ろしい目に合うその直前に。


 『彼』は颯爽と現れた。


 黄金色の髪をなびかせ、獅子のごとき強さで敵を右に左になぎ倒していくスーパーヒーロー。


 銃火器なんて必要ない。相手を屈服させ、彼は正義の象徴になった。


 彼に―――レオに、あたしは焦がれた。



「助けてくれなんて言ってねぇし」



 なんて強がって。



「まぁでも、その辺のクズどもよりあんたの金髪の方が幾分かマシだし?」



 まだ強がって。



「手、貸してやんよ」



 それから、レオはシャークマティという紳士みたいな青年と一緒に、ヴァルキリアを作って、もっと多くの人を守ろうと奔走した。


 あたしも、そんなレオに答えたいと思っていた。



『君が適任だ』



 そんなレオからそう言われちゃあ、仕方がない。


 ヴァルキリアの未来のためにも、後輩の育成に付き合ってやるか、という心持だった。



 新入りはせっせとアモクを倒してシリムを食っている。


 この世界で強くなれる方法はそれだけだ。アモクか人のハートを壊し、そのシリムを食べることで強くなる。ハートは頑丈だが脆く、イメージとしては岩石に包まれたスライムに近い。表面の岩石さえブチ抜いてしまえば、後は簡単に四散する。


 道や建物、木などの物質はシリムで出来ているが、これにはハートがないので壊しても食べられない。なお食べるという表現をしているが、この世界では食事をしなくても死にはしない。ただしハートの中のシリムを極端に使いすぎると『昏睡』状態に入り、ハートの緊急回復状態に入る。


 昏睡状態は、実質死と同じなので、そうならないよう、狩りは複数人で行うのが基本だ。


 そのためにあたしがいる。


 まぁ、遠距離から一撃で仕留めてやって、シリムを食わせてやるという方法もあるのだが、なるべく『自由自在な体を使って戦う』経験を積んでほしい。



「……マシなのは、あいつとあいつか」



 あたしは敬語を使わない生意気な青年と、青い長髪の少女に注目していた。



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