第116話 軍務卿視察

 軍務卿レオンはいろいろ見て回っていた。

「邪魔をしてすまんな。今年の受験生はどうか?」

「はっ! 途中ではありますがおおよそ例年通りかと‥‥‥」


 レオンは周りを見回すと、エドガーと目が合い向かって歩いてくる。

 ヴィルヘルムは憧れの人物との突然の出会いに緊張して固まっていた。

 が‥‥‥レオンはヴィルヘルムの横を素通りしてエドガーに話しかけてきた。


「おお!! エドガーくん、キミも受験生だったのか!」

「ご機嫌麗しゅう、軍務卿」


 レオンは笑いながらエドガーの肩を叩く。

「ずいぶん堅いなぁ! まぁ貴族たるものそういうのも必要であるな、ガハハハ!!」


 顔を赤くして身を震わせながらヴィルヘルムが発言する。

「お、畏れながら軍務卿! その者はもう貴族ではありません!!」


 レオンはヴィルヘルムの方を訝しげに見る。

「ん? 其方は‥‥‥?」

「申し遅れました、私はヴィルヘルム・ストライクです。来期より騎士隊にてお世話になります」


 レオンは誰だったかを思い出すように頭を巡らせた。が、パッと出てこなかったので話題を変える事にした。


「ふむ‥‥‥、してエドガーくんが貴族でないと言う発言はどのような意味か?」

「この者はストライク五爵家を追放となった者です。従ってもう貴族ではございません」


「‥‥‥ストライク五爵家?」

 発言を受けたレオンは再度頭を巡らせる。


「エドガーくん? キミはテオドール卿だよな?」

「如何にも。テオドール五爵にございます」


「‥‥‥はぁああ!?」

 ヴィルヘルムは予想外の展開に頭が追いついていなかった。


「という訳だぞ、ヴィルヘルムくんとやら。貴族の息子から貴族に対しての不敬な物言い、同じ貴族としては見過ごせないのであるが?」

 ヴィルヘルムは途端に青ざめた。


「畏れながら。追放されたとは言え仮にも実の兄を不敬罪に問うつもりはございません」

「‥‥‥追放? 其方の家ではこの希代の傑物を追放したというのか?」


 ヴィルヘルムは冷汗が止まらない。

「わ、私ではありません。追放は父が決めたことでして‥‥‥。こやつはスキルがありませんので」


「ふむ、なるほど。ストライク家と言ったな、よーく覚えておこう」


 ヴィルヘルムには興味を失ったのかレオンはエドガーの方に向き直る。

「エドガーくん、実技試験は終わったかな?」

「はい、私はスキルがありませんので受けさせてもらえませんでしたから」


 それを聞いたレオンは再度ヴィルヘルムを睨んだ。しかし何も言わずにエドガーの肩を手を載せた。


「ふむ‥‥‥、それはそうとあのライフルの件で聞きたい事があったのだ。時間があれば一緒に少し来てくれるか?」

「かしこまりました」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 学院の相談室に連れて来られたエドガー。

 レオンの相談は先日伝えきれなかった部分の話だった。

 (ティナは待たせてしまうけど仕方ないな)

 

「うーむ! 素晴らしいぞ、エドガーくん! 心より感謝する」

「いえ、お役に立てましたら幸いです」


「時にエドガーくん、スキルが無いというのは本当なのか?」

「‥‥‥ええ、本当です」


「我輩の記憶にもスキルのなかった者はいなかった。相当珍しい事ではあるが、それだけで追放だの流刑だのはちとやり過ぎであろうよ」


「そう‥‥‥ですかね?」

「王国では優秀な人材を集めておる。この学院などその最たるものだ。キミはこの学院で様々な経験を積んで、更にその成果を王国に還元する。それが王国の将来を考えると最も良いと我輩は思うがどうかね? 陛下の面前で誓った時の言葉は覚えておるか?」


「王国と民に貢献する気持ちはあの時と変わっておりません!」


 それを聞いたレオンは目を閉じて思いを巡らせる。

「‥‥‥よし、わかった! 今日はありがとう。気をつけて帰りなさい」

「失礼致します」


 部屋を出ると外は暗かった。


「!!! エドガーさまぁ!!! 無事で良かった!!」

 ティナが走ってきて抱きつかれた。痛い。


「他の方が次々と出てきてるのにエドガー様だけいなかったので‥‥‥拐われたのかと思いました」

「ごめん、偉い人と話をしていて遅くなった。じゃあ帰ろうか」


 

 レオンも部屋を出ると急ぎ足で歩き出した。

「‥‥‥由々しき事態であるな。たまたま学院に顔を出して良かった」

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