第105話 ロキソとの出会い(過去話)

 ある日、ロキソが訪ねて来た。

「勉強しとるところ悪いのう」

「あぁ、いいさ。ちょうど休憩しようとしてたところだから」


「正直、坊がいなくなったら困るんじゃよ」

「何故だ? 銃のメンテナンスとか他にも仕事は色々あるだろう? ここにいればもうすぐ念願の火酒も飲めるぞ?」


「ふぅ‥‥‥、確かに火酒に関してはそうなんじゃがの。忘れたか? 王都にいたワシがなんでここに来たのか?」


「気に入らない貴族をぶん殴ったんだろ? それで流刑者として‥‥‥」

「違う! 結果としてはそうじゃがそうではない! 坊がおらんとな、なんかこう物足りないんじゃよ‥‥‥」


 あぁ‥‥‥、そういう事だったのか。

 俺は昔の事を思い出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺がスキル無し判定を受ける少し前。


 王都の一角で殴り合いをしているドワーフがいた。そこを俺たちがたまたま通りかかった。


「テメェ、何してやがる!?」

「ハッ! うるせぇ、黙ってろ!! このポンコツロキソが!!」


 ドワーフ同士の小競り合いだろうか? ロキソと呼んだ方のドワーフはナイフを取り出した。


「あ‥‥‥! あ‥‥‥!」


 ロキソと呼ばれた方のドワーフは身動きが取れなくなっている。刃物を向けられて、怖気付いているのか?


 ドワーフなのに? 


 都市にいるドワーフなんてほとんどが鍛冶で生計を立てているんじゃないのか?


「‥‥‥ティナ、すまないがアレを止めてくれないか?」

「かしこまりました」


 ティナが双方の間に入り、両人の腕を掴み力ずくで喧嘩を止めた。


「なんじゃ、お前は!?」

「な!? なんだ、この女は!? う、腕が動かん!!」


「双方、静まりなさい。エドガー様の御前です」


 うーん、そのセリフはもっと偉い人がいる場合のやつだからな。貴族の息子程度じゃ「ははー」ってならんだろ。


「あー、すまない。一応貴族なのでそういう喧嘩は見過ごせないんだ。俺はエドガー・ストライク。あんたらは?」

「ディックだ」

「ロキソじゃ」


 話を聞くとディックが何かやらかした事をロキソが嗜めたところ言い合いになり殴り合いに発展し、ディックが刃物を取り出した‥‥‥と。


 ディックはそこまでするつもりはなかったが、つい‥‥‥との事で後で謝罪する様に申し渡して解放した。


 ロキソは悔しいのか泣いていた。

「こんな坊主に止められなかったら死んでいたかもしれん‥‥‥。もうワシは‥‥‥」

「ロキソと言ったな? 刃物が苦手なのか?」


「そうじゃ!! 『金属加工』のスキルを持ち、腕力だって誰にも負けん。だが刃物が苦手なんじゃ!! 剣もナイフも作れない鍛冶師なんておるか!? ワシは! このポンコツロキソはこの世に必要ないんじゃ!!」


「刃物以外は作れるのか?」

「‥‥‥あぁ。金属加工する技術は誰にも負けんよ。ただ剣が打てなくちゃ鍛冶師とは呼べんじゃろ?」


「じゃあ刃物じゃない武器を作ってくれないか?  設計はしてるんだけど作るのは難しくてさ。相談に乗ってくれないか?」


「は? 何を言っておるんじゃ?」

「これを見てくれ!」


 エドガーは設計図を拡げる。

「こんな感じで魔石を使って弾を飛ばす武器なんだ。わかる?」

「どれどれ‥‥‥ほう」


 どうだろう、感触は?

「さっぱりわからん!! なんじゃ、これは?」

「‥‥‥そうか。仕方ないな」


「いや、だが面白そうじゃな。これは預かるぞい」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それからというもの俺はロキソの工房に入り浸り、あーじゃないこーじゃないと毎日のように議論を重ねた。


「二人ともよくやるねぇ‥‥‥、はいお茶でも飲みな」

「おう」

「ありがと、イブ」


「ティナも付き添い大変だねぇ」

「エドガー様が生き生きとしてるので! それを見れるのが嬉しいです」


 イブはロキソの妹でザルトという弟もいた。

ザルトはずっとうんうん唸ってるだけでこっちには一切絡んでこない。


「うーん、だいぶまとまったかな?」

「今度はいつ来るんじゃ?」


 いつも聞かれる『次はいつ来る』質問。


「来週にスキルを授与される『祝福の儀』があるからそれ以降だな。今日のやつをまとめておくよ」

「おう! 楽しみじゃな」


 だがその後『その次』は急遽なくなってしまった。俺がスキルを与えられず追放処分となったからだ。

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