第64話 季節外れの雨

 その後数ヶ月‥‥‥。間もなく春になろうかという時期。

 まだ肌寒いが雪ではなく雨が降りはじめた。


「エドガー様、また手紙が届いてましたよ。エリーゼ様から」

「ありがとうございます」

 

 今日はまた行商人が来ていたからな。雨の中ご苦労様です。早速開けて読んでみる。


『拝啓 エドガー様 

お返事ありがとうございます。お酒造りが上手くいってそうでなによりです。こちらは勉強があまり捗らずにいます。勉強はあまり好きじゃないですがエドガー様に追いつける様に頑張っておりますわ。こちらはまだまだ寒くて朝にお布団から出るのが億劫です。体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。 エリーゼより』


 前回の手紙で『オリザの製品』とは書いたが、『酒』とは書いてないはずだ。きっと辺境爵様から聞いたのだろうな。


 無難に返事を書く。

 そしていつもの様に村長に渡そうとしたら。


「この手紙はしばらく届かないかもしれませんよ。季節外れの大雨で街道が泥濘んでいてしばらくは馬車では通れないはずです」


「ありゃ‥‥‥そうですか」

 メッサーラからの帰りにそういえば気になったんだった。酒造りに没頭していて忘れていた。


「そこに案内してもらえますか?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ここです。この辺は水捌けが異常に悪くて‥‥‥。完全に乾くまではまず荷馬車は通れません」

 村長と馬で来てみたら確かにドロドロの道が100メートルほど。

 これではわだちに馬車の車輪がめり込んでしまってまともに走れないだろう。


「なるほど‥‥‥、これはひどいですね」

 道路が使えなくなると物も届かなくなるし移動も出来なくなる。


「道を石畳で舗装するにもそんなお金も無いし‥‥‥。なんとかなりませんかね?」

「‥‥‥なりますよ」


「ですよね‥‥‥、エドガー様がいかに天才でも自然には勝て‥‥‥え? なんとかなるんですか!?」

「ええ‥‥‥、住民の皆さんの協力が必要ですけど」


「この道はテオドールとメッサーラを繋ぐいわば『命の道』なのです! 絶対に協力させます」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 数日後、天気が晴れて道が乾いた。ドロドロのまま乾いたからかなりボコボコだ。このままじゃ馬車でも走りにくいだろうな。


「お集まりの皆様。お疲れ様です。今日はこの道路を舗装しますのでご協力お願いします」


「エドガー様、今度はどうするんだい?」

「まずはこの道路を平らに均します。平らになったら上から叩いて固めてください」


「これくらいの作業は何度もやったけどまったく無駄だったんだぜ?」

「大丈夫です、この後の工程が大切なので。麻袋のご用意は出来てますか?」


 住民には一人当たり複数枚麻袋を持ってきて貰った。

「その麻袋に土を入れて『土嚢』を作ります。そして平らにした道の真ん中から隙間なく並べてください。並べたらまた上から叩いて固めます」


 テキパキと作業を始める住民。さすが農作業をやってるだけあってこういう作業はみんな得意だな。


「そうそう。そんな感じです。あ、道の両端には土嚢を置かないで空けておいて下さい」

 雨が降った時そこが排水溝代わりになるからな。

 

 土嚢が並べ終わり叩いて平らになった。

「最後に土嚢の上に土を被せて上から叩いて固めたら完了です」


 これは前世のネットを見てて知った発展途上国における未舗装道路の整備方法だ。現地の材料と道具を使い住民達で重機などが無くてもいつでも整備出来るという記事をみて大変感心したものだ。


「これでしばらくは大丈夫です。当然永久に大丈夫という訳にはいきません。その度に整備し直す必要がありますが‥‥‥もう皆さん出来ますよね?」


「おうよ!」

「こんなに簡単なら出来るさ!」

「しかし腹が減っちまったなぁ?」

「んだなぁ‥‥‥」


「そうくると思ってお昼を用意してあります! これは『おにぎり』と言います。手を洗ってきたら直接手で食べてください」


「「「おおぉ!!!!」」」


晴れた日に動いた後、外でおにぎり食べるなんて最高だろ?


「!? 美味え!!!!」

「こんなの食った事ねぇぞ?」

「しょっぱいのに甘いぞ」

「も一個もらお」

「あ!? てめー、俺はまだ食ってねーんだぞ?」


「たくさんあるからみんなで分けてください!」

 予想以上に大人気のオリザにぎりだった。

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