第56話 オリザ酒作り

 酒造り二日目。


「一晩寝かせたオリザを蒸します。この量なら一回で大丈夫でしょう」

「大量に作るとなると大きな蒸し器が必要ですね」

 そうなったらドワーフ達に協力してもらおう。とエドガーは考えた。


 しばらくしてまんまるいオリザが蒸し上がる。


「表面が硬く中が軟らかい『外硬内軟』というのが水分量的に良い状態だそうです。蒸したオリザと水、先日のオリザ麹をこの甕に入れてよく混ぜます。これをもろみと言います」

「ようやく酒造りっぽい作業ですね。ここまでが長かったなぁ」


 ここまでは日本酒造りの言わばパーツ造りみたいなもの。ここまでに厳選したパーツをこの工程で組み合わせて日本酒という完成品を作り上げるのだ。


「泡が出てきてるみたいですね」

「酵母が働いて酒精が出来ている証拠ですね。この醪の温度が高いと早く酒が出来ますがゆっくりと醗酵していく方が良い酒になるそうです」


「なるほど‥‥‥、それで寒い時期に仕込む訳ですね」

 醪の温度管理のしやすさ、それと雑菌の繁殖を抑える目的で寒い冬に仕込むという日本人の知恵と経験だ。

 醪自体が醗酵により温度が上がってしまうからだ。


「あとは涼しい所で保管して朝晩にかき混ぜてひと月ちょっとですね。そしたら絞って瓶に入れてようやく完成ですね」

「はぁぁ‥‥‥、大変な手間ですね」


「どうですか、ブルーさん? ここからは全てお任せしてよろしいですか?」


 ブルーは少し黙ってから口を開いた。

「‥‥‥正直ここまで手間がかかるとは思ってませんでした。でもこれはやる価値があると思います。是非やらせてください、エドガー様!」


 エドガーは手を差し出す。ブルーはそれを握り返す。

「よろしくお願いします!」

「お任せください!」


 こうしてテオドール村の新名物オリザ酒造りが始まったのであった。そしてこれが王国に新しい風を吹かす事になるのはしばらく後の話である。

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