第52話 酒作りと手紙

 さらに季節が進み寒くなった。『寒造り』と言われる日本酒の仕込みの時期だ。


 まずは種麹をつくる。玄米を蒸した後、体温くらいに冷ましたところに稲霊を砕いたものを振りかけてよく混ぜ合わせる。


 酒造によっては蒸し玄米に木灰を振り撒くらしい。灰をかけてアルカリ性にする事で雑菌を淘汰するそうだ。


 混ぜ合わせたものをまとめて布で包む。


 培養による熱で温かくなりすぎない様にたまに広げて冷ます。発酵の進む温度を保つように。


 あとは二日間それを繰り返す。

 発酵による熱で熱めの風呂の温度を超えないように広げて冷ます。


「なかなかしんどいですけど新しい事をしてる感じで面白いですね」

「そう言ってもらえてありがたいです。これで上手くいくと思うんですが‥‥‥」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「エドガー様、お手紙が届いておりますぞ」

「ありがとうございます」


 差出人は辺境爵令嬢のエリーゼ様からだ。


『拝啓エドガー様 いかがお過ごしでしょうか? メッサーラは秋が終わり冬を迎えようとしています。肌寒い日が続きますが体調を崩さないようにお過ごしください。

 先日隷属契約をしたマッシュは真面目に働いております。どんどん腕を上げているみたいで今度ワタクシの服の仕立てをお願いしようかと思っております。その時はエドガー様にも是非見ていただきたいと思います。

 メッサーラにお越しの際はご連絡くださいね。


エリーゼ・ウェストール』


 ‥‥‥マッシュがそんな事になっているのか。スキルの力は偉大だな。


 さて返事を書かねばな。


『拝啓エリーゼ様

 お手紙ありがとうございました。テオドール村は寒さが厳しくなってきました。先日購入したオリザを使った製品の試作をしています。スタッフが優秀なので順調です。

 暖かくなったらご家族で遊びにいらして下さい。ささやかながら歓迎させていただきますね。


エドガー・テオドール』


 これでいいだろう。

 手紙は苦手だ。畏まった文章は書けないな。貴族の必須科目だろうけどな。


 手紙は村長に預ける。

「これを行商人に渡して下さい」

「わかりました」


 今回の功績を盾に行商人の来る頻度も増やしてもらったからまたそのうち来るだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る