第23話 避難訓練

 翌日、図面が出来上がったので俺は各方面に指示を出した。


 弾丸と小銃の追加を優先するようにとロキソとイブに。応援要員としてドローとバスを。


 ミスリルで頼んだ秘密兵器は後回しで構わないと伝えた。間に合うなら勝ち確なんだがな‥‥‥。


 ザルトには建築魔法で城壁を作ってもらう。図面が出来上がったのでそれを元に。


 村人達には少し早めの麦の収穫を。特に戦場になりそうな村の北西部の農家に。やってくれた所と断られた所が半々だった。

 やってくれた所にはさらに畑に水を深めに張るように指示を出した。


 村長には領都メッサーラへ応援要請に行ってもらった。俺の書いた手紙を持って。


 セリスと三人にはまた別に指示を出した。あの四人がこの村の最大戦力だからな。あの反抗組も協力してくれたらいいんだけど最近見ないな。


 あとは村人の戦闘訓練かな。非戦闘員の避難訓練とかな。


「ティナ、村人を鍛える。それぞれの集落に行くぞ」

「はい、エドガー様」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 この村は三つの集落に分かれる。北西地区、南地区、東地区だ。まずは北西地区からだ。


 今回は北西地区の先からモンスターの群れが現れる想定だ。だから北西地区の住民には先に避難訓練をしてもらった。モンスターの情報を信じずにしてない人もいるけど。



「はい、皆さん。お疲れ様です。村長代理のエドガーです。今日はモンスターの群れが現れた時の訓練を行います」


「集合が掛かったから何かと思えば、まったく‥‥‥。俺たちはガキの遊びに付き合ってる暇はないんだよ」

「そうよ、そうよ!! なんでも良いから早く終わらせてちょうだい!!」


 うーん、完全にアウェイだなぁ。

 仕方ないんだけど。

 ティナさんや、懐中の拳銃に手を掛けるのはやめなさいね。


「まぁまぁ、モンスターの群れが本当に現れたら皆さんどうしますか? 今のままで助かると思います? 実際にこの先の大森林の奥のエルフの村が襲われたそうです。次はここかもしれません」


 少し場が静まる。

「ここでは皆さんの避難の仕方を教えます。これはすぐに終わるので帰ってもらって大丈夫です。この村を守る為に戦いたいと思う方は残ってください」


 「すぐ終わる」という言葉で納得したのか住民は大人しくなった。

 まぁ誰でも死にたくはないもんな。


 避難訓練は簡単だ。村にもともとあった鐘が鳴ったらこの村の中央部に来るだけだ。

「お昼の時間を知らせる鐘は『カーン』ですけど、避難時の鐘は『カンカンカン』です。これが繰り返し鳴ります。これが鳴ったらなるべく早くここに来て下さい」


 なんだ、その程度か?って反応だな。

 伝えたかったのはここからだ。


「現在、備えのために外壁を作る予定です。杭の打ってある所には壁が出来ます。今日この後の帰り道は特にその事を意識して帰って下さい。ここまでどれくらいで来られるか? 皆さんそれぞれの家からどのくらいかかるのか? 最短ルートは? 出来るなら毎日ここに来て確認して欲しいです」


「‥‥‥言う事はわかるけどよ、俺たちは麦の収穫やら家の事やら子供の事やらで忙しいんだよ! そんな暇な事出来るかよ!!」

「そうだ、そうだ!!」


 うん、予想通り。

「皆さん、お子さんがいるんですね。では来るのはお子さんだけで良いです。毎日ここに来させてください。道案内役になってもらいます」


 俺は10歳くらいの子を指名する。

「君が一番大きい子かな? 名前は?」

「ジョイ‥‥‥」


「じゃあジョイ、君が避難する時のリーダーだ。朝の鐘が鳴ったらここまで来い。どれくらい早く来られるか、最速記録を更新するたびにご褒美をあげよう。やってみるかい?」

「ご褒美ってなんだ?」


「美味しい飴をあげるよ」

「やる! 毎日更新してやる!」


 毎日壁が出来るからルートが微妙に変わるかもしれないけどな。頑張れよ。


「あとは避難袋の用意を! 貴重品を入れてすぐに持ち出せるように。モンスターに家を荒らされたら何でも壊される、汚されると思ってください」


 みんな少しずつ事態の重要性を把握してくれるといいんだけど。

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