2-5
ついに五十嵐くんの話は、『血の涙を流す絵画』の謎についての本題に入っていくようだ。
いま自分がいる場所が、絶対的な安全地帯である、にぎやかなマックの店内であるから…というのもあるんだろうけど、だんだん怪談の怖さよりもワクワクな気持ちが高まってきた。
これから、明るいお調子者キャラの岡本くんと、そんな岡本くんが苦手な真面目女子、そして彼らの間に立たされて気苦労してそうな五十嵐くんは、どうなっちゃうんだろう?
(誰かさんにふりまわされて気苦労してるってとこは、すごく親近感持っちゃうなぁ…ねえ犬彦さん?)
「全員が室内に入ったところで、すぐに美術準備室の扉は閉じられた。
廊下を通りかかった誰かに、僕たちの姿を目撃されるとまずいからね。
「なんだよ、たいして広くもない部屋なんだな」
美術準備室の中にさえ入ってしまえば、こっちのものとばかりに、息をつくみたいにして千秋が大きな声で言った。
それまでこそこそと隠密行動していたことに窮屈さを感じていたんだろうね。
「落ち着いてないで、まずは電気のスイッチをさがしてよ」
でもそんな千秋へ、まだ緊張を解いていないあおいが文句を言った。
事前に聞いていたとおり、やはり美術準備室内には、窓のたぐいが一切なかった。
美術室に続いている扉を閉めてしまえば、外からの明かりが完全になくなってしまって、真の暗闇が僕らのまわりに満ちたんだ。
一歩入りこむと、僕らの周囲は、淀んだ埃っぽい空気に包まれてしまう。
暗闇のなかは、古い物置のにおいがする。
それから絵の具のにおいなのかもしれないけど、油に似た、妙に甘いような、奇妙なにおいで満ちていた。
なんだか寒さも増した気がした。
暗いところが苦手だと言っていたあおいは、恐怖心がでてきたのか、僕のコートの袖をつかむのを止めて、ぎゅっと僕の手をにぎっている。
だいじょうぶだと彼女を励ますために、僕もあおいの手を握り返した。
とにかく電灯のスイッチというものは、総じて、入り口の扉の近くの壁にくっついているのだと決まっている。
僕たち三人は、暗闇のなかで、がさがさと壁を触りまくった。
そうしていると、しばらくして、かちりという音とともに部屋に明かりがともった。
千秋かあおいのどちらかがスイッチをみつけてくれたみたいだった。
明かりがともったことによって、これでゆっくりと美術準備室の物色ができるはずだった。
だけど、ここで最初の異変が起きたんだ。
「やだぁ!」
電気がついたとたん、あおいが悲鳴のような声を上げたんだ。
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