戦闘

 亜子はとなりに立っている全裸の狼牙に言った。


「狼牙くん、狼になってくれる?」

「おお。亜子、これから狐太郎たちと戦うのか?」

「うん、そうだよ」

「俺、狐太郎に強いとこ見せる!」


 狼牙は嬉しそうに言った後、身体が毛むくじゃらになり、可愛い子狼になった。亜子は可愛いと思うと同時に、狼牙がケガをしてしまわないか心配になった。亜子は不安そうに狼牙に言った。


「狼牙くん。もし危険だなと思ったら、無理しないで、後方に下がってね?」

「ガウッ!」


 子狼になった狼牙は、人間の言葉が話せなくなっていたが、どうやら狼牙は大丈夫だと言っているようだ。亜子はしゃがみこんで狼牙の頭をなでた。次の瞬間、子狼の狼牙がムクムクと大きくなり、あっと言う間に牛くらいの大きな狼になった。亜子は驚きすぎて、わっと叫んだ。


 それを見て山彦がぼやくように言った。


「亜子、いちいち驚くな。変化する奴らは、身体の大きさを変えられて当然だ」


 山彦があごをしゃくる。亜子がその先を見ると、小さな茶トラの猫が突然虎ほどの大きさに巨大化した。


 音子が大きな猫に変化したのだ。亜子はあんぐりと口を開けた。可愛かった茶トラの猫は、虎ほどの大きさになっていた。音子はガォといかくの声をあげた。それに対抗するように、狼牙がウォーと遠吠えをあげた。


 亜子は先方の河太郎に叫んだ。


「河太郎くん!お願い!」

「オッケー!」


 亜子たちは事前に作戦を立てていた。悟がどの程度亜子たちの作戦を把握できるのか試すのだ。


 河太郎は妖術を使い、水を出現させた。亜子は、河太郎が陸上ではあまり妖力を使えないと言っていたので、作り出す水は、ホースから出る水くらいを想像していた。


 だが河太郎が出現させた水は、長雨の後の川に流れる鉄砲水のように強力だった。勢いのある水が、狐太郎たちに襲いかかった。


 亜子は思わず口を両手でふさいでしまった。狐太郎たちが大けがをしてしまうのではないかと思ったからだ。だがそうはならなかった。


 人魚の半妖のみなもが、河太郎と同じくらいの水を出現させた。二つの鉄砲水は、勢いよくぶつかり、亜子たちは沢山の水しぶきを浴びた。


 河太郎とみなもの水攻撃は、双方同じくらいの強さらしく、どちらも引かなかった。これではらちがあかないと思い、亜子は山彦に叫んだ。


「山彦くん、お願い」

「おう!」


 亜子は山彦に音波攻撃を指示した。山彦は大きく息を吸い込むと、あぁ、と大声を出した。その音はすさまじく、亜子たちは耳をふさがなければいけなかった。


 山彦の声の妖術が狐太郎たちに当たれば、彼らはふっとんでしまうだろう。だがそうはならなかった。狐太郎は胸元から一枚の札を取り出し、亜子たちの前に投げた。


 札は空中にふわふわと浮かんでいた。狐太郎は右手の人差し指と中指を立てて、何かをつぶやいた。


 すると、見えない壁に山彦の音波攻撃がさまたげられた。狐太郎が術で防御壁を作ったのだ。


 亜子はヒュッと息を飲んだ。亜子たちの作戦は、サトリの半妖である悟の妖術で、すべて筒抜けなのだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る