狐太郎の術

 亜子たちが敵のグループである狐太郎たちを見ると、狐太郎は地面に何かを描いていた。狐太郎は丸く円で囲った場所に悟を誘導すると、右手の人差し指と中指をたてて口に近づけるそぶりをした。その直後、悟の周りに輝く円柱状の壁ができた。


 亜子は驚きのあまり、アッと声をあげた。狐太郎は何らかの術を使ったのだ。亜子が初めて見る術だった。山彦がチッと舌打ちしてから言った。


「やっぱり狐太郎の奴、陰陽師だったんだ」

「陰陽師?」


 亜子は山彦に聞いた。山彦は狐太郎から目を離さずに言った。


「ああ。神明という苗字、どこかで聞き覚えがあると思ったら、陰陽師の火の家系の分家だ。狐太郎は、俺たち半妖やあやかしを倒す術を学んでいる敵だ」


 山彦は断定的な言い方をした。亜子は誠実そうな狐太郎が、自分たちを傷つけるとはとうてい考えられなかったので、山彦に反論した。


「狐太郎くんはお母さんが妖狐だから、私たちと同じ半妖よ?仲間だわ?」

「安倍晴明も同じだろ。母親は妖狐だ。安倍晴明はあやかしを使役していた」

「陰陽師なら、悪いあやかしとは戦うかもしれないけど、良いあやかしとは仲良くしてくれるんじゃない?」

「あやかしの善悪だって?!そんなものは人間の判断ですぐに変わっちまう!どんなにいいあやかしだって、人間の立場から見て悪だと判断されれば敵になる。狐太郎は、そのあやかしを退治する」


 山彦の考えは、この状況で亜子が何か言っても変わるとは思えなかった。山彦の狐太郎への疑惑はいったん置いておいて、今は戦闘訓練に集中するべきだ。亜子は山彦に向かって言った。


「山彦くん。狐太郎くんの件は、後で本人に聞いてみよう?今は戦闘訓練に集中しよう?」

 

 山彦は少し顔をしかめたが、ああと言ってうなずいた。担任の雪菜が、生徒たちの準備が整ったと判断したのだろう。彼女は声高らかに宣言した。


「戦闘訓練、初め!」

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