【第一部完】RPGに転生したら、魔導士に滅ぼされる帝国の将軍でした~最強剣技と周回知識で破滅のシナリオを改変、厳格で恐れられた将軍は人気者になりました~

りんた

第1話 将軍レオン・ガーランド

 遅い帰宅と同時に始まる、至高の時間。

 俺の手には、無事購入できた半額弁当とファミリーチキン。

 こいつを食べながら一杯やって、ドハマり中のゲームをやり込む。

 これが社会にこき使われるだけの生活を送る、寂しい独り者の唯一の楽しみってやつだ。


「さあ、今日もやるぞ……!」


 ティアーズ・オブ・ファンタジア。

 それは今、俺が今最高にハマっているRPG。

 王道の物語はもちろん、どっしり構えた剣と魔法のファンタジー世界は、俺の心を強烈につかんだ。

 特に装備品のデザインがしっかりしている点が、武器防具マニアの俺には最高。

 久しぶりに設定資料、小説、DLCまでやり込んだゲームだ。


「今日こそ最難関ドロップ。入手難度Sの武器を手に入れてみせる……っ!」


 さっそく弁当を袋から取り出し開ける。

 そしてビールを開封すれば、準備オーケー。


「へへへ」


 思わずもれる、歓喜の笑い。

 ゲーム機の電源を入れて、いざ15周目のティアーズの世界へ!


「――――ッ!」


 その瞬間始まった、急激な動悸。

 止まる呼吸、ゆがむ視界と胸の痛み。

 不規則な生活の賜物か、不摂生な食事の罰か。

 容赦なく、意識が途切れていく。

 俺にはすぐにそれが、命に関わるヤバいものだと理解した。

 ああ、そうか。

 死ぬのか、俺。

 もしも……。

 もしも生まれ変わりなんてものがあるのなら。

 ティアーズの世界の、主人公にしてくれ。

 熱く、強く、そして自由な主人公に……なんてね。



   ◆



「将軍殿! 将軍殿ッ!!」

「……な、なんだ?」


 聞こえた慌ただしい声に、目を開く。

 そこには兵士のような格好をした男たちが、慌てふためいていた。


「まさかあの目撃情報が事実だったなんて! どうしてこんなところにA級モンスターの赤王竜が!」

「最悪だ……! こんな大物に勝てるわけない! それどころか帝国も危険だぞ!」


 ……何を言ってるんだ?

 狼狽する、兵士らしき者たち。

 その視線が集まる方へ、俺はゆっくりと振り返って――。


「な、なんだあれ!?」


 森の隙間、木々の間から見えたのは、巨大な赤い竜。

 真っ直ぐ俺の方に飛んできて、そのままその剛腕を叩きつける!


「おおおおおおおいっ! なんだよこれ! なんだよこれええええ――――!!」


 身体が勝手に、後方へ飛び下がる。

 するとさっきまで俺がいたところに赤竜の手が突き刺さり、土煙を高く上げた。

 赤竜は止まらない。

 いまだ土煙が舞う中、俺目がけて右腕を降り下ろしにくる。


「わ、わああああ――――っ!! ……あれ?」


 思わず悲鳴をあげて、気づく。

 思ったより、遅い?

 赤竜の動きはまるで、子猫のように緩やかに見える。

 斜めの軌道で来る爪を、自然と身体を傾けて回避した。

 すると赤竜は続けざまに、左腕を真上から叩きつけにくる。

 これは当然、右後方へ回避する。

 すると赤竜は、そのまま大きく息を吸い込んだ。


「……終わった」


 兵士のものであろう、諦観の声が聞こえた。

 見ればその口内に輝く、まばゆい炎の輝き。

 直後に吐き出された真紅のブレスは、すさまじい勢いで燃え広がる。

 それは付近一帯を一撃で消し炭に変えるであろう、まさしく業火だ。


「その攻撃……『知って』る」


 頭がそう理解した瞬間、身体が勝手に動いていた。

 俺は自然と全身を弛緩させ、自然体になったところでもう一度腹に力を入れる。


「――――ハアッ!!」


【裂ぱくの気合】一つで、迫る炎を消し飛ばす。

 その衝撃で、赤竜が硬直したこの瞬間こそが好機。

 俺は一気に距離を詰め、腰に提げた鞘から剣を引き抜くと、赤竜の腹部に一撃を見舞う。

 そして強く踏み込み、全力の振り上げへと繋ぐ!


「はああああ――――っ!!」


 空刃を生み出す連撃が決まると、強烈な咆哮と共に赤い竜は倒れ伏した。


「「「…………」」」


 剣を払い、腰の鞘にしまうと一転、兵士たちは呆然。

 辺りは、嘘のように静まり返る。


「…………強っ」


 やがて兵士の誰かが、思い出したかのようにそうつぶやいた。

 それは目前で起きた奇跡に、思わず口からこぼれ出てしまったかのような声だった。


「あ、あの赤王竜を一瞬で……」

「さすが将軍殿だ」

「レベルが違う……っ」


 思い出したかのように、声を上げる兵士たち。

 そこへ馬を連れた一人の兵士が、恐る恐る俺の前にやってきた。


「お、お見事でした将軍殿っ。討伐任務は完了しました。帰還いたしましょう」

「帰るって……どこへ?」

「どこへ……? も、もちろんガレリアです!」

「ガレリア……?」

「はい。住人たちも、我々の帰りを待っているはずです!」


 なぜかひどく緊張した兵士に、促されるまま馬に跨る。

 そして俺はいまだ戦いの余韻に浸っている兵士たちと共に、そのまま森を進んでいく。

 何が、どうなってるんだ……?

 俺はゲームをしようとしていたはずなのに、いつの間にか見知らぬ世界に飛ばされていた。

 そもそもどうして、将軍殿なんて呼ばれてるんだ?

 あらためて自分の格好を見ながら、首を傾げる。


「あれ……?」


 そして前を行く兵士が背負った金属盾に映る自分を見て、思わず声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って!」

「「「ッ!!」」」


 俺の声に、慌てて動きを止める兵士たち。


「しょ、将軍殿、いかがされましたか!?」

「将軍殿! 何か不備でもありましたでしょうか!」


 まるで怒られることを怖れているかのような、引きつった兵士の表情。

 俺は前の兵士が背負った魔法反射の盾、【ミラーシールド】に映った自分の姿に驚愕する。

 そこには大雑把に流した肩までの黒髪に、凛々しい目つきをした一人の男。

 俺が右手を上げると、凛々しい目をした男も右手を上げる。

 俺が左手を上げると、凛々しい目をした男も左手を上げる。

 俺が右手を上げるフリをして左手を上げると、男も右手を上げるフリをして左手を上げる。


「……しょ」

「しょ……?」

「将軍じゃねえかああああああ――――っ!!」


 唖然とする兵士を前に、思わず叫ぶ。

 なんで!? どうして俺がレオン将軍に!?

 レオン将軍といえば、ティアーズ・オブ・ファンタジアの帝国が誇る、最強の剣士にして将軍。

 困惑する兵士たちをあらためて見てみれば、その制服は確かにガレリア帝国のものだ。

 まとまらない頭。

 俺は更なる情報を求めて、付近を見回す。

 すると目に映った城壁には、見覚えがあった。


「……ウソだろ? でも、もし本当にその通りなら……っ!」


 俺ははやる気持ちに押されて、なぜか手足のように動かせる馬を走らせる。


「将軍殿!?」


 突然先行し始めた俺に、驚きの声をあげる兵士たち。

 しかし俺は止まることなく、全速力で丘を駆け降りる。

 そして、確信した。


「……間違いない」


 そこにあったのは俺の知っている、いや知り尽くしてると言ってもいい光景。


「ここはティアーズ・オブ・ファンタジアの、ガレリア帝国だ……っ!」

「見て見て! 帝国兵団のお帰りよっ!」

「帰ってきた! 兵士たちがドラゴンを倒して帰ってきたぞーっ!」


 ……でも、違う。

 聞こえてきた、たくさんの歓声。

 活気のある住人たちと、明るい街並み。

 ここは俺が知ってる荒廃したガレリア帝国とは、何かが違う……っ!

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