第20話 お出かけがしたい


『私、決めました』


「お?......どーした急に」


 妹との二人暮らしが2週間経過した。今日まで二人でゲームしたり通話したりしながらVTuberになるための作業を進めていたのだが。


 そんな最中、いつものようにモンファンをプレイしていると妹が唐突にそう言った。


『私は、お兄さんにたくさん助けてもらってます』


「え、いやそれはお互い様だよ。妹にも家事とかやってもらってるし」


『いえ、そーではなくて!ん?あ、いえ、それもそうですが、それだけじゃないんです!』


「お、おお」


 勢いが凄い。やっぱりノリがVTuber向きだ。VTuberといえばあと2日くらいで色々と準備が整う。姫架のデビュー楽しみだな。


 じゃなかった。えっと、助けてもらってるって話か。


「もしかしてVTuberの話?あれは俺がやりたくてやってるから恩に着なくても大丈夫だよ......」


『!』


「これは本心だよ。俺は妹がVTuberとして活躍するのがみたい......だから頑張れるし、それに」


『それに?』


「楽しいよ。今、すごく楽しいんだ。妹が来てくれて、こうして一緒に遊んで......VTuberという夢に一緒に向かって歩くのが、楽しい。だからお互い様だよ」


『〜〜〜ッ!!』


 どんどんどん!と何かを叩く音がスピーカーの向こうと隣の部屋から聞こえてくる。え、だ、大丈夫か?


「ど、どうした?」


『......いえ、特になにも無いです』


「そ、そう?」


『けれども、ですね!それはそれとして、感謝の意をカタチにすることは良いことだと私は思うのです!』


「あ、は、はい」


 圧が凄い!どーしたの!?まあ、さっきリビングで会った時はいつもの大人しい妹だったんだが。


『と、いうわけでですね、今度のお休み......お出かけしませんか』


「お出かけ、か」


 お出かけして何をするんだ?この感じからして食事を奢ってくれるとかかな。なんだか申し訳ないな、それ。というより、俺には今時間が無い......モデリングとか色々な作業が詰まっている状態だし、それに他の依頼も締め切りが迫っていたりする。


 とてもお出かけできる状態じゃ......


『お、お兄さん、だめ?』


 ――なっ、!?


 きゅーん!と胸の奥の心の臓が、締め付けられるような感覚。


 犬が甘えた声を出すような、猫が喉を鳴らし甘えているような、庇護欲を掻き立てるその声色。こいつ......デキる!!


「わかった、良いよ」


『やったぁーーー!!』


 まあ、こっから徹夜すればいけるか。スリー徹夜くらいすれば間に合うな。睡眠は学校で......って、学校は学校でやることがある。ラフ画とか。


 あまり寝れない日が続きそうだな。頑張れ、俺。なーに、徹夜最高記録ファイブ徹夜に比べればスリー徹夜くらい。


 まあ、その次の日ぶっ倒れたんだけどね。


『ふふっ、お出かけ楽しみです。ね、お兄さん』


「うん。ってか、どこ行くの?」


『それは秘密ですよぉー!当日になってからのお楽しみです!』


「そっか、了解」


 まあ、妹の楽しそうなこの声で疲れを打ち消させてもらうとするか。マジで耳掻きボイスとか出したら稼げそう。


『さあさあ、行きますよ〜!』


「あ、ちょっと今日はここまでにしてもらえるか」


『え、もう寝るんですか?』


「いや、えっと......ほら、妹のVTuberモデルのモデリングとか相談しないと」


『あ、そうなんですね。すみません、そうとは知らず......』


「いやいや、大丈夫だよ。妹も名前頼んだぞ」


『!、はい!ちゃんと考えていますよ!』


「うん、よし。それじゃあお互い頑張ろう。もう一踏ん張りだ」


『了解でありますっ!』


 ぐっ、と両拳を握りしめガッツポーズをしている姿が目に浮かぶ。最近、妹は気合いを入れる時これをする。


「それじゃお休み」


『おやすみなさい!お兄さん』


 通話が切れた。さて、これからが大変だ......と、その前にシャワーでも浴びてこようか。眠気がヤバい。


 ちらりとアナログ時計を見ればディフォルメキララが日付が変わる位置を指差していた。


 ふう、とため息をつきガチャリと部屋の扉を開ける。


 トントントンと階段を降り、首を鳴らす。


 妹との時間も欲しい。けれど仕事もする。あの頃、俺は金が無かった。金は力だ......金さえあれば母さんにも良い治療を受けさせることが出来たんだ。


 だから俺は力を手に入れた。そして、これからももっと大きな力を手にする。家族を護るために。


 ......昨日2つ、案件きてたな。割の良い仕事だった。あれ、受けとくか。


 携帯をつけSNSのメールボックスを開く。そこにはずらりと企業からの依頼メールが敷き詰められている。


(......これと、これだな)


 絵師を始めた当初はここまで稼げるとは思って無かった。じゃあなぜ絵師なのか。それは母さんが絵師だったから。


 母さんの遺志を継いで、俺が夢を叶える。


(......母さん、俺の絵をたくさん褒めてくれたよな。だから今があるんだ)


 絵を描くための技術は全て母さんから貰った。そう、そうだ......母さんから貰った力で、俺は家族を護ってみせる。





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