メスガキ☆パンデミック! ~クソザコナメクジ♡ワカラセ奇譚~

トモユキ

第一章 メスガキの鼓動

1-1 夏のメスガキ

 東京は、最高気温四〇度を超える酷暑日。

 灼熱地獄であろう事は、ブラインドカーテンの隙間から漏れる強烈な光で察しがつく。こんな日は家に引きこもり、ゲーム三昧に限る!

 今ハマってる格闘ゲームは販売開始から日が浅く、平日昼間のオンライン対戦も数秒でマッチングされる。

 名も知らぬツワモノニートと死闘を繰り広げ、俺もだいぶ強くなったなと思っていたら。


 ピンポーン、ガチャ。


「ひゃ~☆ 中、すっずしぃ~!」


 家主の返事も許可もなく、当然のように部屋に上がる女児一人。


「うわっ、やっぱゲームしてる~。ゲーオタニート、キモッ☆」

「挨拶代わりに罵倒すんの、やめてもらっていいですか?」


 少女は勝手に冷凍庫の扉を開けると、アイスキャンディーを口に咥え、ベッドに座る俺の元にやってきた。


「バニラ飽きた。チョコミント買ってきて♡ キモオタニート♡」

「罵倒ついでに、パシらないでもらってもいいですか!?」


 この子の名前は紗綾さあやちゃん。自分では十歳と言ってるけど、本当のところ分かってない。

 とはいえ茶髪ツインテ低身長、白キャミトップに桃黒Tシャツ。デニムのホットパンツから伸びる焼けた足は、まごうことなき小学生女子なわけで。


「カズくんって、格ゲー好きなの?」

「格ゲーってか、ストファイだな! 初めてハマったゲームで、コンボもキャンセル技も指が覚えてるっつーか、DNAレベル? 特に今回の最新タイトルは評判良くて、どのキャラも極めればしっかり勝てる神バランス調整! 純粋にバトルの駆け引きが楽しめるし、技もフレーム単位で――」

「早口キモーイ☆ 熱弁奮って室温上げんな、キモオタニート♡」


 そう言って紗綾ちゃんはいきなりTシャツを脱いで、キャミソール姿になった。

 胡坐の俺に背中を向けると、「さーや☆あたーっく」と叫んでぶつかってくる。

 咄嗟に片手を離し受け止めた俺は、対戦相手の強パンチをモロに食らってしまう。慌ててコントローラを持ち直すも、自キャラはコンボの餌食になっていた。

 いや、それよりも。

 今の俺の恰好は……胡坐の股間に座る紗綾ちゃんを、後ろから抱き締めてるわけでっ!?


「いっけー☆ よっけろー! ぶっころせー♡」


 交互にパンチを繰り出して、応援してくれる紗綾ちゃん。

 そのたびに、小さなお尻がぎゅいんぎゅいん股間にツイストして、とてもじゃないが集中できない!

 腰で支える確かな重み、じたばた動く小麦の細足、うなじに浮かぶ小さな汗玉。

 見下ろすキャミの隙間から、見えそで見えない胸の影まで!

 日向のかほり漂う少女の全てが、俺の理性にハドーケン!


『ユー、ルーズ』


 ゲームでもリアルでも、一方的な負け試合。

 座ったままの紗綾ちゃんは、俺をジト目で見上げてくる。


「あーあ、負けちゃった。ざあこ♡ざあこ♡ クソザコナメクジ♡」

「しょうがないだろ。こんなんでゲームに集中できるわけ……」

「こんなん?」


 しまった! と思った時にはもう遅い。

 座り心地の悪さに気付いた紗綾ちゃんは、立ち上がると、背中越しに俺の短パンを見下ろした。

 不自然なシワを見つけると口角を上げ、嘲笑混じりの言葉を吐きつける。


「あれあれ~? 大人のくせに小学生にコーフンしちゃったんですか~♡ これだからヨワチン☆ドーテーは~♡」


 白いアイスキャンディーの先端を真っ赤な舌先でチロチロ舐めながら、顔を近付けてくる紗綾ちゃん。

 俺は俯いて視線を逸らすけど……ゆるゆるキャミトップと極小ホットパンツが視界に入り、俺のアイスキャンディーが、ますますチョコモナカジャンボしてしまう!

 その時、頭の上にポンと小さな手が置かれた。


「仕方ない子でちゅね~、カズくんは☆ 定職ていちょくにも就いてない、ロリコンオジサンでちゅもんね~?♡ うふふっ♡ ゲームでKOされたら、さーやちゃんにOKしてもらえるかもと思ったんでちゅか~あ?♡」

「べっ……別にロリコンじゃねーし! 働いてねーわけでもねーし!」


 精一杯強がって見せると、紗綾ちゃんはくるっと背を向け、両手で後頭部を支えた。

 つるつるの腋を惜しげもなく曝け出し、ちょっとだけ拗ねて見せる。


「やっぱりカズくんも……大人の女の人がいいの?」

「いいも何も……」

「だって、ロリコンじゃないって言ったじゃん! それってさーやの事、好きじゃないって事じゃん!」

「ええっ? 確かに俺はロリコンじゃないけど……紗綾ちゃんの事は大好きだよ」

「……っ!?」


 真っ赤な顔で振り返った紗綾ちゃんは、胡坐の膝を両手で押して、ぐいっと俺に詰め寄ってくる。


「もういっかい言って。ちゃんと、さーやの目を見て言って!」


 俺は右手を掲げると、お返しとばかりにふわふわの茶髪を撫でた。


「紗綾ちゃんはメスガキだけど、手のかかる妹みたいで大好きだよ。よしよし……ってぎゃははは!」


 紗綾ちゃんはいきなり、俺の脇腹をくすぐってきた。たまらず仰向けにひっくり返ると、更にマウント取って追撃してくる。

 格ゲーで鍛えたガードテクも、リアルでは全くの役立たず。首、腋、脇腹の三点攻めじゃ、ガードしきれるわけがない!


「あは♡ 大人なのにくすぐりに弱いなんて、ガキはどっちでちゅか~?♡」

「いひっ、やめて! 腹筋苦し……腋は、マジダメっ、ギャハハハ!」

「ほ~ら♡ さーやの事、離解わからせてみなよ~☆ じゃないとさーやがビンカン♡ザコワキ、離解らせちゃうよ~♡♡♡」

「わかった! わかったからやめて! 変な性癖開花しちゃう~!」


 その時、突然玄関の扉が開いた。


「大変だ和志! 真司がメスガキに襲われて……って和志まで!?」


 ベッドでじゃれ合う俺達を見て、田淵のオッサンが膝から崩れ落ちた。


* * *

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