第30話 閑話 ミアの思い出・1


 アイルセル公爵家は、徹底的な実力主義。


 男だろうが、女だろうが、強ければ後継者に選ばれ、次期公爵になることができる。


 ミアイラン――ミアは、天賦の才を持っていた。

 少し年の離れた兄にも決して負けないと思っていた。公爵位にはさほどの興味はないが、公爵家が強さを求めるのならば次期公爵になるべきだと考えていた。


 若さ故の驕り。


 天才故の侮り。


 高くなった彼女の鼻をへし折ったのは……5歳年上の、公爵令嬢だった。


 リリーナ・リインレイト公爵令嬢。


 同格である公爵家の令嬢同士として、少々年が離れていたものの昔から交流があった。


 人を越えた魔力総量の証とされる、銀髪。

 宝石のように輝く赤い瞳。

 夏の日の空に浮かぶ雲のように明るく白い肌。


 同い年の王太子殿下の婚約者になるために鍛え上げられた礼儀作法に、少々問題行動の多い殿下を隣で支えるために詰め込まれた圧倒的な知識。そして、ありとあらゆる点で周りの人間を超越しながらも、驕り高ぶることなく誰とも分け隔てなく接する人間性……。


 なんとも美しい少女だった。

 見た目も、内面も、美しいとしか表現できない少女だった。

 同じ女性でありながらも、見惚れてしまうこともたびたびあった。


 そんなリリーナが正式に王太子の婚約者となった後。


 王妃となれば危機から国王を守らなければならない場面も出てくるだろう。そんな理由付けで、リリーナとミア、そしてミアの兄との手合わせが行われることとなった。


 ……今なら分かる。あの手合わせは、驕り高ぶるミアの鼻を折るために父が仕組んだことなのだろうと。




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