第12話 妹(武闘派)


 同じ公爵家ということもあって(年齢は5歳くらい違うけど)ミアとは私のデビュタント前からお付き合いがあった。


 ちなみにデビュタントとは女性にとっての成人式みたいなもので、デビュタント(国王陛下への挨拶)を行うことによって大人として認められ、社交界デビューを許されるのだ。そのあと開かれる夜会は王族の誕生パーティに次ぐ規模とされている。


 まぁミアみたいな高位貴族の令嬢はそれより前から夜会やお茶会に参加していることも多いけど。特にミアは第二王子(現王太子殿下)の婚約者候補として見なされていたし。社交の場で人脈を得ることも期待されていたのだ。


 で、その人脈のうちの一人が私だったと。


 騎士たちが念のために周囲を偵察している間、私は馬車の中でミアと向き合って旧交を温めていた。


「ところで、どうしてこんなところに? アイルセル公爵領とは方向が違うわよね?」


「わたくしももうすぐデビュタントですし。特別な宝飾品を作っていただこうとギュラフ公都を訪れたのですわ」


「あー……」


 数年前からギュラフでは職人の保護と支援を拡充したからね。公都にそれなりの数の職人が集まってきたのだ。宝石の鉱山があるおかげか、宝飾品の品質はここ数年でさらに高まったみたい。


 まぁでも、公爵令嬢なのだから欲しいものがあるなら宝石商を家に呼び寄せればいいだけで、わざわざ生産地に足を運ぶ必要はないんだけどね。ミアらしいというか、アイルセル公爵家らしいというか……。


「せっかく公都まで来たなら尋ねてきてくれれば良かったのに」


 ミアとは冤罪での断罪後も手紙のやり取りをしていたし。私の評判が急落したあとも離れていかなかった数少ない『真の友』と呼べる存在なのだから歓迎したのに。


「はい。実を言うとサプライズで訪問しようと思っていたのです。ですが、その、ちょうど公爵閣下がお亡くなりになりまして……」


 うん、それはサプライズどころじゃないわよね。


「葬儀に参列して花の一本でも捧げようかと思ったのですが、『急いで開いた葬儀に参列するとは、閣下の死を望んでいたのか!』とか、『アイルセル公爵家は当主でも次期当主でもなく娘一人しか寄越さないのか!』とか批判されても厄介ですので」


「貴族って暇さえあれば揚げ足取りするものね」


 思わずそんなことを口走ってしまう私であった。わたしも正真正銘の貴族なんだけどね。


 言い訳させてもらうなら断罪&結婚後は社交界から引退して領地経営のお手伝いばかりしていたし。そういう貴族的な面倒くさいことからは距離を置いていたのだ。


 公爵夫人の主な仕事は社交による夫のサポートなのだけど、私は腫れ物扱いされているから逆に迷惑になるものね。


「そういうお姉様は、どうしてここに? ……あ、陛下へのご報告をするために王都へ向かっているのですか?」


 現役公爵が亡くなったともなれば大事件だものね。妻が直接王都に向かい、陛下にご報告申し上げるのも当然の流れだ。


 都合良く勘違いしてくれそうだったけど、さすがに嘘をつくわけにもいかないわよね。


「実は、義理の息子から追放されちゃって……。ギュラフ公爵家から追い出されちゃったのよ」


「は? ……本当ですか?」


「うん。私もあそこまでアレだとは信じたくなかったんだけど……」


「……なるほど、つまりわたくしは、あのバカ息子に白手袋を投げつければよろしいのですね?」


「よろしくないですが? 女の子が気軽に決闘を申し込んじゃいけません」


「しかし、お姉様への無礼はわたくしへの無礼も同じ。ここは決闘を申し込み、ボコボコにしてやるべきなのでは?」


 いやまぁ代々近衛騎士団長を排出してきたアイルセル公爵家で鍛えられたミアなら勝てちゃいそうよねぇ……。じゃなくて。



 そう簡単に、公爵家令嬢が決闘を申し込んじゃいけません。懇々と説明というかお説教をする私であった。




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